サイコミで11月15日、をのひなおさんの新作『パーフェクト グリッター』の連載が始まりました。累計発行部数650万部を記録した衝撃のデビュー作『明日、私は誰かのカノジョ』以来の作品です。新作の公開にあたり、をのさんと担当編集の梅崎さんを取材し、企画の作り方から休暇の過ごし方、新作で挑戦することなどを伺いました。
●サイコミに早くも帰還
――約1年でサイコミに戻ってきました。大ヒット後の動きとしては非常にスムーズな印象です。
をの 今年2月の「明日カノ」最終巻のPRに「新連載、始動 2024年内連載開始」と予告が載ったんですよね。それを入れると聞いたとき「えっ 確定しちゃうじゃん。やめて!」と思いました。結果的には、それでやらざるを得なくなったおかげかもしれません。
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――梅崎さんの手腕ですね。
担当 当初の予定ではもう少し早く始まるはずだったんですよ。
をの 夏開始と話してましたね。それが後ろ倒しになって。予告が“年内”だったから「12月31日もありですか?」と聞いたら「ダメです」と言われて。新作の打ち合わせ自体は2月ごろにやって、4月のサイン会で冒頭4Pのネームも展示するとかで準備はしていたんですが、エンジンかからなくて1話完成まで時間がかかりました。いま過去の自分が怠けていた分を取り戻すため必死にやってます。
――梅崎さんから新作に対して要望はありましたか?
担当 「絶対に大ヒットさせるぞ」みたいな思いでやらなくていいとは伝えました。言ってもまだ2本目なので。肩ひじ張らずに、プレッシャーは持ってほしくないなと。
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――「明日カノ」がデビュー作……あらためてすごいですよね。をのさんだったらよその青年誌どこでも連載できそうです。
をの 他社からもオファーはあって、一時期はとある媒体との同時連載を狙っていました。でも、そんな器量はなかったですね……。今の新作だけで精一杯です。
――サイコミは週刊連載だから難しいでしょうね。
をの あのときの私はできる気がしていたので、先方にも「週刊でやりますよ」と言ってたんですが、いまから考えると絶対無理なんですよ。どうかしていました。
●ヒット作完結から新作までの日々
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――「明日カノ」の連載終了後はどんな暮らしを?
をの 最初は「遊ぶぞ!」と思っていたんですけど、私ができる遊びなんて……友達も少ないし。すぐにやることなくなって、毎日何をしていたか覚えていません。生産性のない日々を送った結果、「自分ってなんなんだろう」となって。まだ仕事していた方が精神衛生上いい気がして、次は連載と連載の間に長期休暇を取らないと心に決めています。
――ストイックですね!
担当 連載始まったら「休みたい」ってなるでしょうけど。
――休みの間に読んで面白かったコンテンツはありましたか?
をの ドラマの「ブレイキング・バッド」は全シーズン見ました。めちゃめちゃ面白かったです。あと以前から梅崎さんに勧められていた『BLEACH』をこのタイミングで読破しました。「破面(アランカル)篇」の前で離れていたので、あらためて最後まで読んだらすごくよかったです。
担当 『BLEACH』と『湾岸ミッドナイト』はいろいろ応用が効くから、いろんな作家さんにおすすめしています。
●『パーフェクト グリッター』の制作秘話
――今回の企画はどのような流れで成立したんですか?
担当 最初は、骨太な社会派作品をやろうとして取材もいくつか行っていました。そしたら描けなかったんです。
をの 描こうとするだけで「本当に無理」という気持ちが押し寄せてきて、絶対無理でした。それで変えようとなって今に至ります。
――『パーフェクト グリッター』というタイトルはどんな感じで決まったんですか。
をの 今回は『明日、私は誰かのカノジョ』のような日本語の文章にはしたくなかったんです。前作を想起させるものではないのにしようとお互い案を出し合って、梅崎さんから「パーフェクトサークル」が来たので、そこに「グリッター」を入れてこの形になりました。
――略称はありますか。
担当 読者の方々が決めていただければ。入稿の際のファイル名はPGにしています。
――企画を立てるにあたり、読者層のことは意識しましたか?
担当 若い子に読んでほしいとは話していました。
をの 「明日カノ」を読んでくれていた方も共感できる部分はあるんじゃないかと思っています。
担当 ただ、歌舞伎町はもう嫌だねという話はして(笑)。
をの 「歌舞伎町の闇を描いた」みたいなイメージが付いてしまったのかなと思っていて。あれは「明日カノ」4章じゃないですか。私は4章以外も描いてきたのに。だから「次は歌舞伎町は1ミリも出さないんだ」と主張しました。今後はわからないですけど。
――企画が定まってからはどんな準備を?
をの 渋谷が舞台なので、渋谷の深夜帯から明け方までを何度か散歩しました。街そのものを取材した感じです。キラキラドンキが新作に登場するモモのビジュアルの参考になりました。
担当 十数年ぶりにクラブに行ったり、プリクラを撮ったり、BeRealを試したり、いろいろ実際に体験しました。おそらく新作は「明日カノ」より対象年齢が下がって、より普遍的なものが描かれる予感がしています。
【キラキラドンキ】α〜Z世代向けの商品を扱う専門店。MEGAドン・キホーテ渋谷本店の近くに渋谷道玄坂通ドードー店として24年4月23日にオープンし、10月20日に閉店した。跡地ではMEGAドンキ渋谷別館が営業中
――1話のモモの描写はとてもリアルで印象的でした。商業作家として大成功したいま、モモのような社会で居場所を探している視点は描きづらくなかったですか?
をの それはなかったです。休みの間、毎日食べて寝て起きてを繰り返して「自分はなんなんだろう」と思ってましたし、モモと同じような悩みは今でもあります。
●「明日カノ」とは全く違った挑戦
――『パーフェクト グリッター』の1話は読みたいものが読めたという思いでした。読者が望むものを描いている感じがします。
担当 良くも悪くも、をの先生には強烈に描きたいものがないから、それができているのかもしれません。唯一、コンプレックスや負の感情といった“根源的なもの”を描きたいとは思っている。
――「明日カノ」で全部出し切っていたら、すぐに次回作は描けなかったように思います。まだまだ余力があるんですか。
をの 新作では「明日カノ」でやらなかった要素を入れようとして、サスペンスを意識しています。全く違った挑戦をしている気分です。
担当 「明日カノ」はほぼキャラクターの感情だけを描いていたんです。今回はそれとは違う挑戦をしたいという共通認識があって、物語としての面白さを見せたいですね。
――本作で読者を楽しませるポイントはどんなところでしょう。
担当 イチカのような渋谷の若者のキラキラ感を切り取れたらいいなと思っています。歌舞伎町とは違ったいまの若者感を描けたらと。
――歌舞伎町、渋谷と成功したら、各地のリアルを描くシリーズで展開できるかもしれません。アバターみたいに。
担当 5作目とかになったら「今度は沖縄だ!」って(笑)。
【アバター】ジェームズ・キャメロン監督のSF映画シリーズ。世界歴代興行収入1位と3位を記録。5作目までスケジュールが公表されている。1が森、2が海を舞台とし、今後「砂漠」「山」「極圏」が描かれるとされている
――最後に、本作は描き切ったらどれくらいのボリュームになるんでしょう?
をの 『明日カノ』よりはコンパクトになる想定ですが……。そう言って大体伸びるんですけど。アニメ化などメディアミックスができたらとてもうれしいです! なんでもウェルカムです。
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