コメダ珈琲店を手掛けるコメダは、和の雰囲気漂う業態「おかげ庵」をわずか14店舗だけ展開している。既にブランド認知が高いコメダ珈琲店が、なぜこのような新業態に挑戦しているのか。その背景と意図について考えてみたい。
【画像】自分の席でじっくりと焼き上げる「おだんご 醤油」(580〜710円)
●「おかげ庵」の戦略
コメダ珈琲店は、全国に1004店舗(2024年2月末時点)を展開する有名カフェブランドだ。シロノワールやモーニングといった看板メニューで知られるほか、フードメニューの量が多いとしてSNSでは度々話題になるなど、親しまれている。
おかげ庵は、そんなコメダ珈琲店の新たな挑戦の一つである。和テイストの落ち着いた空間で、抹茶やスイーツ、そして自分で焼くことができるお団子といった、コメダ珈琲店の既存店舗では味わえないメニューを提供している。
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一見するとコメダ珈琲店の従来のイメージとは異なるように思えるが、なぜこのような業態を展開しているのだろうか。
●おかげ庵のマーケティング戦略を考察
マーケティングの側面から分析すると、コメダホールディングスは以下の戦略があると考えられる。
1. 周辺需要の拡大
看板メニューで多くの顧客を抱えるコメダ珈琲店。しかし同社は、既存顧客の満足度向上だけでなく、新たな顧客層の開拓も視野に入れる。おかげ庵という新業態で、既存顧客の来店頻度アップと新規顧客の取り込みを同時に狙う。これは、マーケティング用語で「周辺需要の拡大」と呼ばれるリーダーの戦略の定石の一つだ。
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2. ブランドイメージの多様化
コメダ珈琲店は、モーニングやシロノワールといったイメージが強い。しかし、和テイストの空間とメニューで展開するおかげ庵は、従来と異なる魅力を打ち出し、より幅広い層にアピールできるようブランドイメージの多様化を図っている。
3. テストマーケティングの実践
全14店舗という限定的な展開は、新たな業態の成功可能性を検証するためのテストマーケティングの側面が強いと考えられる。顧客の反応や収益性を分析することで、今後の展開の方向性を検討できる。
●アマゾフのマトリックスから読み解く2つの成長戦略
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企業の成長戦略を分析する際によく使われるのが、イゴール・アンゾフが考案したマトリックスだ。以下の図をご覧いただきたい。
このマトリックスは、商品とサービス、市場と顧客という2つの軸で企業の成長戦略を整理する。「既存の製品・サービス」か「新商品・サービス」かという軸と、「既存の市場・顧客」を対象とするか「新市場・顧客」を開拓するのかという軸を組み合わせることで、「市場浸透」「新商品開発」「新市場開拓」「多角化」という4つの戦略が導き出される。
おかげ庵は、このマトリックスで見ると「新市場開拓」と「新商品開発」という二つの成長戦略を狙っていることが分かる。
和テイストに価値を感じる中高年層や、「お団子を自分で焼く」という体験価値を重視するファミリー層などの新たな顧客開拓。そして、従来の「独自メニューと気軽に地元感覚でくつろげるカフェ空間」というコメダ珈琲店とは異なる、和の雰囲気と和スイーツという新商品の投入。この2つの戦略により、新規顧客の獲得と既存顧客の来店頻度向上を図っていると考えられる。
●コメダ珈琲店の戦略の成功要因
コメダ珈琲店の戦略が成功している要因としては、以下の点が挙げられる。
・顧客視点:顧客のニーズを常に意識し、それに応える商品やサービスを提供
・ブランド力の強化:長年にわたるブランドイメージの確立により、高い顧客ロイヤルティーを獲得
・多様化:コーヒーだけでなく、食事やスイーツなど、幅広い商品を提供することで、顧客のニーズに対応
・柔軟な対応:時代や顧客のニーズの変化に柔軟に対応し、新しいビジネスモデルを創出
コメダ珈琲店のおかげ庵は、同社の成長戦略における重要な一手を意味する。周辺需要の拡大とブランドイメージの多様化を同時に実現するこの戦略は、今後のコーヒーチェーン業界において、新たなビジネスモデルの好例となるだろう。
●著者プロフィール:金森努(かなもり・つとむ)
有限会社金森マーケティング事務所 マーケティングコンサルタント・講師
金沢工業大学KIT虎ノ門大学院、グロービス経営大学院大学の客員准教授を歴任。
2005年より青山学院大学経済学部非常勤講師。
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