メルカリで返品詐欺? パーツ破損でキャンセルのはずが「ゴミ」に…出品者「安心して利用できない」 いったい何があった?

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2024年11月17日 09:30  弁護士ドットコム

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「メルカリで返品詐欺にあいました」。こんなXの投稿が、波紋を呼んでいます。結果的に、投稿者は補償を得られたものの、弁護士ドットコムニュースの取材に対し「このままでは誰も安心してメルカリを利用することができないと思います」と話しました。


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インターネットにおける個人間の取引は、トラブルがあった場合には解決が非常に困難です。今回、いったい何があったのか。トラブルの経緯や法的な問題、そしてこのようなトラブルに見舞われた時の対処法や自衛策について検討します。(弁護士ドットコムニュース編集部・弁護士/小倉匡洋)



●「パーツ破損」でキャンセル申請



投稿者によれば、メルカリで新品未開封のプラモデルを出品したところ、商品が購入者のもとに到着してすぐ、購入者から「パーツ破損」を理由にキャンセル申請があったそうです。



特に疑うこともなく応じたところ、着払いで返品されてきたのは、中身のパーツがほとんど抜き取られた「骨組み」だけ。しかも、くちゃくちゃになった包み紙のようなゴミまで入っていたそうです。



後でわかったことですが、実は、送ったプラモデルの中身が抜き取られたのではなく、送ったプラモデル(新品未使用)とは異なる、別の似たプラモデルの箱(中身も使われて骨組みだけになったもの)が送られてきたのです。



投稿者は、これは“返品詐欺”ではないかと考え、メルカリに問い合わせました。



●メルカリは当初、補償は拒否→Xで反響後に補償に応じる

メルカリは当初、次のように返答しています。



・「サポートの継続が困難と判断し、事務局にてキャンセルを実施いたしました」 ・「本件でのお客さま間の仲介及び、事務局で取引メッセージの再開をすることや、補償などの対応は行っておりません」 ・「弊社に対して捜査機関から被害に関する連絡がございましたら、内容を確認のうえ、捜査協力という形での対応を検討いたします」







事務局が取引をキャンセルし、以後の対応を行わない——。これは商品は返ってこないし、お金も払ってもらえないことを意味します。



また事務局は、捜査機関からの連絡があれば対応を検討するといいます。



しかし、警察に動いてもらうのは大変です。弁護士に依頼することも考えられますが、告訴状の作成・提出の場合、安くても10万円程度、場合によっては数十万円以上かかります。



さらに、それならば購入者と直接交渉するために、相手方の連絡先などを教えてもらいたいわけですが、メルカリはこれにも応じません。



投稿者はメルカリに対して、これは購入者側に一方的に有利な対応で、不平等であることを訴えました。X上にも、メルカリの対応に対する批判や、投稿者と同様の被害に遭ったが泣き寝入りしているといったコメントが多数寄せられました。



するとその後、メルカリのSNS担当者から、経緯の見直し、補償の検討をしている趣旨の連絡が来ました。そして投稿から3日後の11月14日、メルカリから「本件については補償をさせていただきます」「販売利益を入金いたしました」という連絡がありました。







●投稿者「このままでは誰も安心してメルカリを利用できない」

投稿者は、結果的に補償を受けられたのですが、メルカリに対し、強い不信感を抱いています。また、自分が補償を受けられたからといって、問題が解決したとは考えていません。



投稿者は、弁護士ドットコムニュース編集部の取材に対し、以下のように話しています。



「今回、同じような被害に遭われている方々が、たくさん投稿をしてくださいました。私よりもっと酷いことをされた人もいっぱいいます。しかし、メルカリには無視されたり、ほとんどの人は満足のいく対応をしてもらえていません。被害に遭われている方の声を一人一人きちんと聞き、誠実な対応をして欲しいと思います」



「メルカリはなぜ被害者の声に全く耳を傾けなかったのか、事務局の体制や問い合わせへの対応はどのように行われていたのか、なぜ騒動が起きたから補償をするという態度に変えたのか、説明して頂きたいです」



「今後どういう対応をしていくのかも知りたいです。定型文ではなく、人がメールを読み、問い合わせ内容をよく読んでほしいです。このままでは誰も安心してメルカリを利用することができないと思います」



●法的問題は?

また、購入者にどういった犯罪が成立するのかを知りたいという声も多く目にしました。考え得るのは主に詐欺罪、窃盗罪、詐欺利得罪ですが、その他にも非常に検討すべき点があります。



以下で詳しく検討してみます。



(1)購入前からプラモデルのパーツ部分だけを抜き取る目的で購入の意思表示をした場合→1項詐欺罪が成立する



仮に購入者が返品詐欺を行った場合、犯罪の成立を検討するにあたっては、「購入者が、いつの時点で中身を抜いて返品しようと考えていたのか」が問題となります。



購入の申込みをする段階から、返品詐欺を考えていた場合には、売主(投稿者)に対する1項詐欺罪(刑法246条1項、10年以下の懲役)が成立すると考えられます。



(2)購入後に、プラモデルのパーツ部分を抜き取って返品しようと思いつき、抜き取って返品処理をした場合→1項詐欺罪は成立しない



難しいのは、購入者が購入後に、パーツ部分を抜き取って返品しようと思いつき、実際に抜き取って返品処理した場合です。



この場合、購入前から返品詐欺を考えていた場合とは異なり、購入者に対する1項詐欺罪は成立しないと考えられます。なぜなら、購入時点では購入者は売主を欺こうとしていない以上、同罪の成立に必要な「欺く行為」がないからです。



(3)窃盗罪(刑法235条)



次に、パーツを抜き取った段階で、パーツに対する窃盗罪(刑法235条、10年以下の懲役または50万円以下の罰金)が成立するとも思えます。しかし、パーツを抜き取った時点では、プラモデル全体の所有権がいったんは買主に移転していると考えられるため、窃盗罪の成立も難しいと考えられます。



(4)詐欺利得罪(「2項詐欺罪」ともいいます。刑法246条2項)



では、あたかも最初からパーツが無かったように売主を欺き、財産的価値のないゴミを返品した点に、売主に対する詐欺利得罪(刑法246条2項、10年以下の懲役)が成立しないでしょうか。



検討の前提として、メルカリのシステムがどのようになっているのかが問題となります。



メルカリのウェブサイトによると、(1)購入者が返品を希望 (2)出品者が返品に同意 (3)出品者に商品を返送 (4)返送商品を確認後、キャンセル申請 (5)キャンセル申請に同意 (6)メルカリがキャンセル対応、という流れになります。



これによると、購入者が出品者に対して返品希望を申し出ることになっています。



この際に、送られてきた商品には何の問題もなかったのに、あたかも最初からパーツが欠品していたかのように購入者に対して嘘をつき、出品者が同意した後に、パーツを抜き取った後の商品(財産的価値がないいわばゴミ)を返品します。



これは、売主にパーツの欠品があったと誤信させて返品に応じさせたうえで、本来返品すべき商品の返還義務を免れていることとなるため、詐欺利得罪(246条2項)にあたると考えられます。



以上みてきたとおり、いつ返品詐欺を行おうと思ったのかで、成立する犯罪が246条1項なのか、246条2項なのか、というところが変わりはしますが、いずれにせよ詐欺罪(1項か2項)は成立すると考えられます。



●その他にも考えられる罪は?

購入者は、キャンセル処理によって返品する義務を負った商品を返品せず、代わりに「ゴミ」を送りつけていることから、送った商品の横領罪(刑法252条1項、5年以下の懲役)が成立しうると考えられます。



横領罪は、詐欺罪よりも法定刑が軽いことから、上のように詐欺罪(1項詐欺)や詐欺利得罪(2項詐欺)が成立するのであれば、わざわざ横領罪の成立を検討する意味は薄いと思います。



しかし、上で説明した詐欺利得罪が成立する場合よりも、さらに犯行を決意するのが遅かった場合は問題です。



たとえば、パーツの欠品でキャンセル手続きをしたが、その段階でもきちんと返品しようと思っていて、返送する段階に至ってはじめてゴミを返品することを思いついた、という場合には、パーツの欠品があったという連絡等が「欺く行為」とはいえなくなり、詐欺利得罪も成立しない可能性があります。



このような場合でも、購入者が返すべき本来の商品を着服した点について、横領罪は成立すると考えられます。つまり、購入者が意図的に価値のない物を返却してきた場合には、いずれにせよ購入者は何らかの刑事責任を負う可能性が高いと考えられます。



●「まずはメルカリに対応依頼」ではあるが…

こういった問題が起こった場合、まずはメルカリに対応を依頼することになるでしょう。 ところが、先に書いたように、いわゆる返品詐欺に対し、メルカリ側がきちんと対応してくれない、という批判がXで噴出する事態となっています。



メルカリ側の事情を考えると、個人間の取引については証拠の保全が難しく、運営側としてもどちらが本当のことを言っているのかを判断するのが難しいため、あまり踏み込んだ対応を取りにくいとも考えられます。



●相手方のアカウントから、個人を特定できるか

今後もメルカリが取引トラブルについて対応しないという態度を維持する場合、当事者が直接交渉をする必要があります。



しかし、直接交渉しようにも、相手方の連絡先がわかりません。そして、メルカリはこの場合にも、相手方の情報を任意に開示しようとはしません。そこで、メルカリに対して法的な根拠に基づく開示請求をしていく必要が出てきます。



通常、こういった場合には情報開示請求という手続きがあり、手間さえいとわなければ、弁護士などに依頼せずに個人で行うこともできます。



しかし、メルカリを相手方とする場合には、個人で手続きを行うのが難しいのです。具体的には、弁護士会照会という手続きを踏まなければならないと思われます。<「取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律(通称「取引DPF消費者保護法」)」5条参照>。



簡単にいうと、この条文は、個人間の取引について、相手方情報の開示を認めるような条文にはなっていないので、弁護士会照会という別の制度を使わなければならないのです。



そのため、弁護士に依頼しなければならず、費用もかかってしまいます。



したがって、トラブルが起こった場合に、相手方と直接交渉を行うこと自体が、かなり難しいかもしれません。



●警察への被害申告

メルカリの対応に期待できない、直接交渉も難しい、ということであれば、警察に被害申告することも考えられます。



先に検討したように、もし返品詐欺であれば何らかの犯罪が成立すると考えられますから、大変ではありますが、被害申告自体は可能でしょう。



しかし、この場合でも、警察から、「本当に詐欺をされたのか」とか、「実は最初からまともな商品を送っていなかったのではないか」などと、逆に疑われてしまうおそれもあります。



●しっかりと証拠を保全し、自衛すること

そこで、利用者にとってできることは、とにかくしっかりと証拠を保全し、自衛することです。



警察に申告する際だけでなく、トラブル解決全体にいえることですが、たとえば、物を売る際には、梱包から送付までの写真をきちんと撮って保存する必要があるでしょう。



ただし、写真を多く撮影しても、「梱包する写真を取った後に、梱包から中身を抜きとって送付した」と言われてしまう危険性もあります。



そこで、梱包から送付までの一連の流れを動画で撮影しておく方法もあります。商品を梱包するところから、コンビニや郵便局で送付するところまで一連の流れを、一本の動画に残していれば、さすがに売主が嘘を言っている、と疑われることは防げるでしょう。



大変面倒ですが、現状のリスクを考えた場合、自衛手段としてはこのくらいやらないといけないかもしれません。



●おわりに

以上のように、インターネットにおける個人間の取引は、トラブルがあった場合には解決が非常に面倒です。



今回の件で、メルカリに対しては、個人間の取引から利益を得ている会社なのに、トラブルがあった場合には個人間の取引だからという理由で何も対応しないのはおかしい、という強い批判がありました。



今後、対応が変わるのかどうかはわかりませんが、現状では、トラブルがあれば、利用者個人が一方的に不利益を受けるリスクがある、ということは事実です。



取引相手が信頼できるかを見極めることや、個人間の取引には常にリスクが伴うという意識を持ち、高額商品の取引には特に注意するなど、慎重な利用を心がけたいものです。



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