「物流業務の出来栄えを評価できますか?」――。このように質問されたら、物流業務に携わる皆さんは何と答えるだろうか。
物流作業の出来栄えをいつでも認識できることは重要だ。
製造工程であれば、日々の出来高の管理や労働生産性など、いくつもの指標で仕事の評価をしていることだろう。しかし、物流となると多くの会社で管理が十分に行われていない。管理指標がほとんど存在していないと言っても大げさではない。
物流を効率化したいと言っている割には、管理が不十分で評価ができない状況にある会社が多いのだ。「何だ、ウチだけじゃないのか」と安心しないでいただきたい。工場収益につなげるためには、本気で工場物流のムダを発見してつぶし、物流の出来栄えをきっちりと認識し評価できるようにすることが必要だ。どのように評価指標を整備していけばいいのか、順を追って見ていこう。
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●「物流KPI」で効率を見える化しよう
物流を評価するためにKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)を導入しよう。製造工程と同様に、物流作業についても、数字で評価できるようにしたい。
工場全体の物流を評価するために「台当たり物流コスト」という指標を考えてみてはいかがだろうか。これはその工場で生産される製品1台にかかる物流コストのことで、次の式で算出できる。
台当たり物流コスト=総物流コスト÷生産台数
総物流コストには、工場内でかかる物流工数(労務費)や物流会社に支払うコスト(運賃や倉庫費)、梱包資材や容器購入にかかるコストなど、全ての物流コストが含まれる。生産台数はその工場が通常指標として把握しているデータを使用すればよいだろう。
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この「台当たり物流コスト」は、全ての物流要素が含まれた結果系の総合値といえる。これを逐次下げていくことが物流部門の使命ということになる。ちなみにこのデータを製品1台当たりの売上高で除することで、以前紹介した「売上高物流コスト比率」になる。
(関連記事:宝の山「輸送費」にメスを 物流コスト改善の一手とは?)
「台当たり物流コスト」は結果系の指標であるため、その改善のためには別の要因系のKPIが必要になる。例えば、運搬効率を評価するKPIとして「1人1時間当たり運搬量」が挙げられる。似たような指標として「1人1時間当たり梱包量」「1人1時間当たりピッキング行数」などがある。これらの指標を日々把握していくことで生産性が向上しているかどうかを判断することができる。
●「物流基準時間」で生産性を測ろう
次に考えたいのが「物流基準時間」というキーワードだ。これは各物流作業の「あるべき姿」を時間値化したものと考えると理解しやすい。
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通常、物流現場で行われている作業について、現状要している時間を「標準時間」として設定している会社が多い。しかしその時間値の中には作業ロスが含まれていると思われる。例えば、未習熟により多めに要した時間、部品を探す時間、手待ち時間――などがそれにあたる。これらロス込みの時間値を標準時間としている場合、それが「標準」であると認識され、その状況以上に改善が進みづらくなる。なぜなら「標準時間」とはその時間で作業をして下さいという、会社からの指示時間だからだ。
一方で、このような作業ロスを一切含まない「あるべき姿」の時間値を設定することが考えられる。ロスを含む状態を是とせずに、ムダを徹底排除した理想的な状態に近づけたいからだ。このプロセスをサポートする一助となるものが、ロスを一切含まない「基準時間」ということになる。例えば、フォークリフト運搬であれば、1立方メートルの立方体荷姿であれば、2段積載することができるため、これをあるべき姿にして行った時間値を基準時間として設定する。
そして、基準時間と実際にかかった時間を比較し、現状、あるべき姿の何倍の時間がかかっているか(倍率)をKPIにするのである(図1)。このKPIは物流生産性を示す指標で、小さければ小さいほど良く、あるべき姿の時には「1」となる。
実際にかかった時間(実測値)は(1)その職場の平均値(現状職場平均実測値)と(2)その職場で一番仕事が速い人の最速値(現状職場最良実測値)――の2つを実測データとして把握する。(1)と(2)のギャップはすぐに解消すべき改善余地だと考えられる。さらに(2)と基準時間のギャップを埋めるように改善を進めることが肝要だ。
●物流現場管理の仕組みを導入しよう
物流現場では常に標準作業を定めることが必要だ。そして、それに沿った仕事が行われているかチェックすることが求められる。もし標準から外れた作業を行っているのであれば、それを正す必要がある。もちろん、より良い作業方法があれば今の標準作業を改善していくことは言うまでもない。
出荷作業では「トラック積み込みの30分前に荷揃えを完了し、7割以上の積載率を保つ」という標準を定めていれば、出荷担当者がこの標準を基にトラックを配車することになる。もし30分前に荷が揃わなかったらその要因は何なのか明確にし、責任部署へフィードバックすることで改善を促していく。定刻に荷が揃ったか、トラックは定刻に出発できたかが分かるデータ(図2)は、物流にとって重要なKPIとなる。これを日々集中管理ボードに掲示し、常に見える化していこう。
先に挙げたKPI(倍率)も集中管理ボードに掲示し、それを見れば誰でも今の物流の出来栄えを認識できるように工夫しよう。同時に、各物流作業場には各作業の倍率や品質状況などのKPIを掲示するようにしたい。これを各作業者がいつでも見られるようにすることで、自分の仕事の生産性向上や品質向上への動機づけにつなげていく。この状況が確立できて初めて、物流現場管理を実行しているといえるのだ。
(ロジスティクス・コンサルタントの仙石惠一)
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