ノジマ傘下入りが決まった「VAIO」の物作りはどうなる? 安曇野の本社工場を見学して分かったこと

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2024年11月19日 17:21  ITmedia PC USER

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長野県安曇野市にあるVAIO本社工場

 安心してください。VAIOの独立性は尊重され、事業運営方針や商品理念はもちろん、その礎となる長野県安曇野市の本社工場での高品質な物作りは、いままでと何も変わりません――VAIOの山野正樹社長はこう断言する。


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 既報の通り、VAIOは11月11日、VAIOの発行済株式の約93%にあたる株式をノジマグループが取得する旨を発表した。2025年1月6日には取得(買収)が完了する予定で、VAIOはノジマグループの中で事業成長を目指すことになる。


 VAIOは社名やブランド、山野社長を始めとする経営陣、事業運営方針、顧客との関係などには変更がないとした上で、同社のノートPC「VAIO」の品質を維持するための生産体制にも変更がないことを強調している。


 株式譲渡の発表直後、筆者は長野県安曇野市のVAIO本社と生産拠点を取材した。本社工場では現在、11月から出荷を開始した「VAIO SX14-R」の生産が急ピッチで進んでいる。本モデル向けに組立工程が一新されただけでなく、搭載する基板の品質向上に向けた新たな取り組みも始まっている。


 山野社長の言葉通り、今後も維持されるという安曇野でのVAIOの高品質な物作り。その現状はどうなっているのか。そして、この物作りはどう維持されていくのか。その様子を“弾丸取材”で確認してみよう。


●VAIO本社兼工場の概要


 VAIOの本社と工場は、長野県安曇野市にある。松本駅から20分ほどJR大糸線に乗車して豊科駅に移動し、そこからおよそ15分歩くと到着する。


 この工場は1961年10月に東洋通信工業の豊科工場として開設され、1974年に同地に設立された「長野東洋通信工業」の本社兼工場となり、オーディオ機器を主体とした生産拠点として事業を拡大した。主な生産品として、ソニーのオーディオ製品「ヘリコンポ」などが挙げられる。


 1989年、長野東洋通信工業は「ソニーデジタルプロタクツ」に社名を変更。2001年にはソニーイーエムシーエス(現在のソニーグローバルマニュファクチャリング&オペレーションズ)の長野テックとしてモバイルPCや「AIBO」などの生産を手がけてきた。2014年、ソニー(現在のソニーグループ)のPC事業を継承する形でVAIOが独立する際に、本地は同社の本社兼工場として継承されることになった。その後、物作りを進化させながら、現在に至っている。


 本社の正面入口にある「VAIOの里」の碑は、、ソニー時代に設置されたものだ。


 今回の株式譲渡に関するリリースの中で、VAIOは「2014年に独立して以来、長野県安曇野の本社工場を拠点に、高性能、高品質の製品を数多くお客さまにお届けし、成長を続けてきた。ノジマからの支援を受け、これまで以上に顧客、パートナー、ベンダーのみなさまの期待に応えていけるように邁進する」とのコメントを発表している。


 冒頭にも触れたように、今回の生産現場の取材に際して、VAIOの山野社長はVAIOの独立性が今後も維持されることを示しつつ、事業運営方針や商品理念に加えて、その礎となる本社工場での高品質な物作りがこれまでと同様であり、何も変化がないことをコメントしている。


 では、安曇野におけるVAIOの“物作り”はどうなっているのだろうか。現場の様子を写真を交えつつ紹介していこう。


●基板実装工程


 「基板実装工程」では現在、薄型軽量のモバイルディスプレイ「VAIO Vision+」の基板の他、セキュリティチップ(TPM)、指紋センサーなどを生産している。一方で、VAIO SX14-Rを含むノートPCのマザーボード(基板)は協力工場で生産しているという。


 「せっかく工程があるのに、ノートPCの基板を作らないのはどうして?」と思うかもしれないが、現在の生産規模を鑑みると、自社で基板を生産するよりも、協力工場の生産体制を活用した方が部品調達力やコスト面でのメリットがあると判断しているとのことだ。ただし、工場内に「外観検査機」を設置し、納入された基板を全量検査することでVAIOならではの品質を維持している。


 なお、基板の全量検査はVAIO SX14-Rから新たに導入された。VAIO SX14-Rの海外生産分についても、当地で検査を行った「安曇野品質」が保証された基板を輸出することで品質の維持につなげるとのことだ。


 一方で、VAIO Vision+の基板などの製造など継続/維持しているのは、基板実装工程におけるノウハウの蓄積と、技術者の確保/継承を目的としている。協力工場との対話においても、蓄積してきたノウハウを生かしつつ、品質を高めることにつなげることができているという。


 外部で生産した基板を外観検査機で再検査できるのも、自らが基板製造や検査のノウハウを蓄積しているからこそ実現できるものだと説明する。今後、ノートPCの生産数量が増加すれば、本社工場において再びノートPCのメイン基板の生産することも検討していくことになるだろう。


 基板実装工程では、最新機械への更新が、品質や効率性にも直結することになる。ノジマグループ傘下での新たな体制では、こうした生産設備への投資の拡大にも期待したい。


●「VAIO SX14-R」の組み立て工程


 最新モデルであるVAIO SX14-Rの組み立て工程では、「LCD(液晶ディスプレイ)部」と、さまざまな部品を実装する「キーボード部」でラインを別々に用意している。最終的に、両ラインからできあがってきたものを組み合わせて“完成”という構成だ。


 ちなみに、従来モデルの「VAIO SX12」「VAIO SX14」では、LCD部、キーボード部に加えて「ベース部」の計3つで組み立てラインを組成していた。今回のVAIO SX14-Rはベース部に組み付ける部品がなくなったため、工程としては省かれている(後で組み上がった本体に取り付けるだけで済む)。


ブラック基調となった生産ライン


 VAIO SX14-Rの生産は量産試作を経て、10月21日から本格的な量産を開始しているという。この生産ラインで目を引くのは、工程全体がブラック基調となっていることだ。VAIO SX12/14のラインではシルバーの器具を使っていたのに対して、ブラックの器具を使うようになり、工程全体で“プレミアム感”が演出されている。


 実はこれには狙いがある。VAIOはここ数年、法人向けビジネスを強化している。それに伴い、「安曇野にある本社工場を見学したい」という企業が増加しているのだという。今回の取材は11月11日の週に行ったのだが、この週は毎日、企業の見学があったそうだ。企業がPCの一括導入を検討する際に、工場の生産ラインを見学した上で、そのこだわりを知り、導入を決定するというケースも少なくないという。


 「完成した製品そのものは品質が高く、きれいであるのは当然だ。しかし、それだけでなく、整然とし、きれいで、カッコイイ生産ラインで、PCが作られていることも訴求したいと考えた。VAIOは、生産ラインも製品の一部であると捉えている」と、工場の担当者は狙いを語る。


 VAIOは「カッコイイ」「カシコイ」「ホンモノ」を商品理念に掲げる。これを生産ラインにもそのまま適用しているというわけだ。


 ちなみに、最初に生産ラインにブラックの器具を導入し始めたのは、2022年の「VAIO Z」だ。この6月から生産を開始したVAIO Vision+の生産ラインにも、ブラックの器具を用いている。今後、安曇野の本社工場の生産ラインは順次ブラック基調にしていくそうだ。


 LCD部の組み立てラインでは、6月から生産をしているVAIO Vision+で採用した新たな組み立て方法の経験を生かしているという。新たなカーボンファイバー素材の取り扱いやパネルの圧着作業、薄いベゼルの取り付けなど、約4カ月に渡って先行した経験がVAIO SX14-Rに生かされているのだ。


 また、安曇野工場の特徴といえるのが、安曇野FINISHである。技術者が1台ずつ組み上げたPCを、人手による目視や官能試験、自動検査などにより、120項目以上の品質をチェック。「いいものを作って届けたい」という生産ラインの思いが、安曇野FINISHを支えているという。


 ここからは、ラインごとに生産の様子を見てみよう。


LCD部のライン


キーボード部のライン(LCD部との組み合わせも)


組み立て工程における検査


●完成後検査とソフトウェアのインストール/梱包


 組み立て工程が終わると、完成後検査とソフトウェアのインストールが行われる。


新しい最終チェック工程「FCC」


●「VAIO Vision+」の組み立て工程も紹介


 今回は、VAIO Vision+の組み立て工程も見学できたので合わせて紹介する。


●高い品質を担保する「環境試験室」


 VAIO PCの高い品質を実現するために重要な役割を担っているのが「環境試験室」だ。同社では、開発段階において試作機を用いつつ約50項目の環境試験を実施した上で、2回に渡る信頼性試験を経て出荷可否を判定し、製品を市場に投入している。


 これらの試験は、ユーザーのさまざまな使用環境を想定したものだ。PCを机から落としてしまった場合や、想定外の振動や圧力がかかった場合でも、安心して利用できる強度を確保した設計をするためには欠かせない。


 製品の出荷後も、想定外の利用によって発生する不具合など、東京都に拠点を構える技術営業部門を経由して市場から得られた情報をもとに、試験内容を改善/変更/追加することを繰り返している。これにより、ユーザーの利用環境の変化に合わせて試験も進化を続けている。VAIOとして独立してから、試験項目は約10個増えたそうで、主に法人ユーザーや学生ユーザーを想定した新試験が追加されたという。


 安曇野の本社内には、設計部門や品質保証部門も同居している。そのため、試験内容を迅速に変えられるのも強みだという。


●法人ユーザー向け「キッティングサービス」も本社工場で


 法人ユーザーの拡大に合わせて、VAIOでは「キッティングサービス」も強化している。


 キッティングサービスは、100台以上の同一機種を導入する法人ユーザーを対象に提供している。企業の利用環境に合わせて、OSやネットワークの設定、企業固有で利用するアプリなどをあらかじめセットアップした状態で出荷できる。企業では、導入時の煩わしいインストール/設定作業が不要になり、IT部門の負担を減らすことができる。


 本社工場には専用キッティングルームも設置されており、法人向けビジネスの拡大に向けて、約5年前からエリアを拡張した。1日当たり100〜150台の設定に対応できる体制が整えられているという。この部屋には、VAIOの社員の中でも限られた担当者だけが入室できるようにしており、セキュリティ面の配慮も抜かりない。


 加えて、7つの「お客さま専用ルーム」を設置し、VPN回線を使った環境を構築することで、隔離されたネットワーク環境で作業を進められるようにもしてある。


 同社によると、キッティングサービスを利用する企業は法人ユーザーの3割程度にまで広がってきたという。


 VAIOにおけるキッティングは、「開梱/専用OSインストール」「個別設定」「BIOS(UEFI)設定/梱包」の3つの作業に分類される。一般的に、キッティング作業は1人の作業者が全工程を行うことが多いが、VAIOでは各工程に専門の作業者を配置することで、作業の安定性と効率化、高品質を実現している。


 正確性や効率性を高める工夫として、「コンピュータ名のバーコード化」「BIOSパスワードの専用設備での自動入力」にも対応しており、全数を自動で同一設定にそろえやすくしている。


 顧客ごとの専用OSイメージの作成担当者にはOEM向けOSの開発(カスタマイズ)を経験したことのある人を当てたり、また、キッティング作業にはPCの組立工程を経験したことのある担当者を当てたりと、メーカー品質でのキッティングの実現にも工夫を凝らしている。


 また、PCメーカーの国内生産拠点でキッティングを行うという強みを生かして、キッティング済みPCは安曇野の本社工場から直送される。これにより、初回導入時の保管や輸送費が不要となる。また、万が一故障した場合でも、修理部門との連携によって迅速に修理した上で、工場で再キッティングして配送することも可能だ。


 本社工場でキッティングされたPCは、生産工程のノウハウを活用して「トレーサビリティー」を確保している。全工程の履歴が管理されているので、再キッティングの作業も容易に行える。


 日本品質およびメーカー品質でキッティングを行えるのが特徴だ。


●同じ工場内で修理を行うことが品質向上につながる


 もう1つ、VAIOの本社工場は修理拠点としても機能することも特徴だ。


 VAIO PCに不具合が生じた場合、個人ユーザーは電話、Webフォーム、チャットのいずれかで相談を行える。法人ユーザーの場合は、基本的に担当営業を通して対応することになる。


 修理が必要と判断された場合、VAIO指定の輸送業者が資材を持参して、対象のPCをその場で梱包して回収し、修理拠点に配送する。修理は本社工場の他、山形県と千葉県の協力工場でも実施しており、本社工場は主に新しい機種の修理を担当している。「なぜ新機種中心か?」というと、同じ敷地内にある設計部門にすぐにフィードバックできるからだ。


 修理拠点に到着した本体は「入荷工程」に回され、届いた本体や付属品の情報が「修理管理システム」に登録される。この時点で「製品管理タグ」が発行され、それをもとに修理工程全体が管理される。


 次に本体(と付属品)は「切り分け工程」にやってくる。不具合の状況を解析した上で、ユーザーが指摘した状況を再現したりすることで、原因の特定を行い、修理が必要な箇所を絞り込む。


 修理が保証規定の範囲内で行える場合、そのまま修理が続行される。保証規定の範囲外(有償修理または補償サービスの適用)となる修理については、コールセンターがユーザーに確認を取ってから修理を進めることになる。


 なお、この切り分け工程では、部品グループ(部品の管理部門)への部品の発注と、修理工程への手配も担っている。


 修理を続行する場合は、次に「修理工程」に運ばれる。ここで故障箇所の部品を交換し、修理完了後の検査も実施する。


 ここでの検査は、組み立て工程で行っているものと同等で、修理箇所以外も併せてチェックされる。しっかりと検査してから出荷することは、こだわりポイントの1つだ。生産拠点と同じ場所で修理できる強みを生かしている。


 検査後の「出荷工程」では、修理した本体と電源コードなどの付属品、紛失防止のために別の場所で管理していた書類などを“合流”させて梱包し、ユーザーの元に返送する。


 通常修理の場合、修理拠点に到着してから修理を完了し出荷するまでの期間は「5日間」だという。


 VAIOの本社工場を取材して、ここ数年で法人ユーザーへの販売比率が高まったことを受けて、“高い品質”に対する取り組みをさらに加速しているということを強く感じた。


 VAIO Vision+やVAIO SX14-Rといった新製品では、生産現場において新たな手法を積極的に導入し、生産性や効率性の追求だけでなく、品質の向上も実現している。


 VAIOの山野社長は「本社工場での高品質な物作りは、いままでと何も変わらない」というが、それはVAIOは今後もこれからも物作りの進化に向けた取り組みを止めないという宣言でもある。


 そのことを強く実感できる工場見学だった。



このニュースに関するつぶやき

  • こんなにもサービスや機体の品質なのに110億円で買収したなんて安すぎるんじゃない?
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