2026年W杯アジア3次予選。第5戦のインドネシア戦までで2位オーストラリアに勝ち点差7をつけ、独走状態に入っている日本の6戦目の相手は、初戦で7−0の勝利を収めている中国とのアウェー戦だった。
ホームでの初戦を振り返れば、7−0とは言いながら、2点目を奪ったのは前半アディショナルタイム。そこまで日本は格下相手に攻めあぐねていた。圧倒的にボールを支配するも、ゴールに迫れずにいた。前半12分に挙げた遠藤航の得点もCKからのヘディング弾と、セットプレーからだった。決定的なチャンスはもちろん、惜しいチャンスが頻繁にあったわけではなかった。
廈門白鷺スタジアムで行なわれたこのアウェー戦も、初戦前半の展開に似ていた。結果は3−1ながら、後半9分に伊東純也の折り返しを小川航基が頭で合わせた3点目以外はセットプレーから。小川の3点目以外は流れのなかから掴んだ決定機はゼロといっても言い過ぎではなく、これと言った惜しいチャンスも少なかった。ゴール前でフリーになりながらシュートを外しまくったわけではまったくない。
一方の中国は、後半3分、カウンターからMFリン・リャンミンが1点差に迫るゴールを決め、完封負けこそ免れたが、初戦と変わらぬ技量不足を露呈した。パスが受け手と出し手の関係しかないため、日本のプレスを浴びると呆気なくボールを失い、守ってはいつものように自制心なく反則を繰り返した。最終予選を戦う相手にとって不足ありと言いたくなる、悲しくなるほどの低レベルだった。
そんな中国に対し、日本は惜しいチャンスもろくに作れなかったわけである。アウェーで3−1の勝利といえば、さほど聞こえは悪くないが、出場枠が4.5から8.5にほぼ倍増し、最終予選の水準が下がった産物であることも事実。このサッカーで、W杯本大会でベスト8以上を狙えそうかと言えば、難しいと言わざるを得ない。
|
|
この日の森保ジャパンをひと言でいえば、選手があまりうまく見えないサッカーだった、となる。特に以下の攻撃陣だ。
1トップ=小川、2シャドー=南野拓実(左)、久保建英(右)、両ウイングバック=中村敬斗(左)、伊東純也(右)。
【三笘が活躍できなかった理由】
まずまずだったのは伊東ぐらいで、頭で2ゴールを決めた小川にさえ物足りなさを感じた。流れのなかでボールに絡む機会は多くなく、ポストプレーによって攻撃を円滑にすることはできずじまい。オランダリーグで見せているプレーのほうが断然よかった。
最も低評価を下したくなるのがインドネシア戦の三笘薫に代わって先発した中村で、自慢のドリブル突破を披露する機会はなかった。左サイドからの流れは伊東が構える右サイドに比べると格段に悪かった。
それは2シャドーの存在と深く関係する。伊東の横には久保がいた。右サイドが、ウイングバックとシャドーのふたりが近い距離で、コンビネーションプレーを図れる状態にあったのに対し、左はそれが期待できない関係にあった。久保が所属のレアル・ソシエダで主に右ウイングを務めるのに対し、南野は所属のモナコで1トップ下、あるいは1トップ脇だ。ウイングを本職とする久保と、真ん中寄りでプレーする南野の違いがあった。
|
|
南野にサイドアタッカーとしての適性がないことは、今年1月に行なわれたアジアカップでも明らかだった。1−2で敗れたイラク戦では、南野を4−2−3−1の「3」の左で使ったことが、左サイドからの攻撃を滞らせ、相手ボール時に穴を作る原因になっていた。3−4−2−1はSBがいない布陣なので、その南野をシャドーの左で使えば、ウイングバックが孤立するのは当然の帰結。中村が悪かったというより、中村と南野の関係が悪かったのだ。
これくらいのことは少し考えればわかることである。
後半19分、その南野と交代で入った鎌田大地にも似たようなことは言える。サイドと中央、どちらに適性があるかと言えば、断然、後者だ。それが、同じタイミングで中村に代わってピッチに登場した三笘薫が活躍できなかった理由である。
ブライトンの三笘は、直近のリバプール戦、マンチェスター・シティ戦で、採点すれば7点近い評価を下すことができる活躍を見せていた。チャンピオンズリーグの優勝候補を向こうに回し、一歩も譲らぬプレーを見せたものだ。中国相手なら、自慢のドリブル&フェイントを披露する機会は、頻繁に訪れると考えるのが自然だろう。
【なぜ「並び」を変えてしまうのか】
先発して後半17分までプレーしたインドネシア戦にも同じことが言えた。これがあのブライトンの左ウイングとしてプレミアリーグを席巻している三笘なのか。にわかには信じ難いと思った人がいても不思議はない。ヘタに見えたとまでは言わないが、存在感は希薄だった。
|
|
久保も同様だ。直近のスペインリーグの対バルセロナ戦で、マン・オブ・ザ・マッチに選ぶメディアもあった選手にはとても見えなかった。4−1−4−1的な4−3−3の右ウイングとしてプレーする久保と、3−4−2−1の「2」の右でプレーする久保。どちらのほうが魅力的かと言えば、断然、前者になる。左利きのキツい選手が自慢のドリブル&フェイントを披露する場として、どちらのポジションが活きるか、効果的か。レアル・ソシエダの現監督イマノル・アルグアシルをはじめ、久保とスペインで関わった監督、指導者はこれまでなぜ彼を右ウイングとして起用してきたか。
三笘と久保は、言ってみれば日本の看板だ。世界に誇るドリブラーをなぜ、ウイングバックやシャドーで使うのか。3−4−2−1なる布陣に落とし込み、並び替えようとするのか。中村、伊東も所属のランスでは4−3−3の両ウイングだ。後半39分、久保と交代でシャドーに入った前田大然も、所属のセルティックでは4−3−3の左ウイングとしてプレーする。
トップ以外のアタッカー陣のなかで、所属クラブと森保ジャパンとでポジションが重なる選手はクリスタルパレス所属の鎌田に限られる。練習時間が少ない代表チームは、選手が所属する各クラブの最大公約数的なサッカーを目指すことが、欧州では常道とされる。布陣はクラブサッカーからの借り物であるべきで、代表監督が妙なオリジナリティを実践する場ではないとされている。
なぜ、森保監督は選手の並びを大幅に改造するのか。「臨機応変」とか「賢くしたたかに」と言って誤魔化してはいけない。相手が弱すぎるのでそれでも何とかなっているが、何とかならない日は早晩、訪れる。
6試合目が終了した段階でアジア最終予選C組の順位は以下の通りになった。1位/日本(勝ち点16)、2位/オーストラリア(7)、3位/インドネシア、4位/サウジアラビア、5位/バーレーン、6位/中国(いずれも6)。
死の組どころか日本にとっては無風区だ。得点22、失点2。得失点差では2位オーストラリアに19もの差をつけ、まさに独走状態にある。だが、ぬるま湯に浸かっている印象が強い。強化という側面に照らすと、順調に進んでいるとは言えない。