大学進学率は年々過去最高を更新し続け、かつては親世代で大きな差があった男女間の進学率も縮小傾向にあります。しかし、いまだに男女差が顕著に見られる分野もあります。その代表が工学部をはじめとする理工系学部です。特に女子学生の割合が低く、この状況を改善しようと、国立大学では「女子枠」を設けるなどの対策が進められています。
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「数学が苦手な生徒が多いから?」 「就職先のイメージがわかないから?」…こうした「イメージ」以上に、女子学生が理工系進学を断念する理由には、より切実な問題があります。
オープンキャンパスで熱烈歓迎を受けて…違和感
Aさん(関東在住、10代)は中高一貫の私立進学校で学び、難関大学を目指して勉強を続けてきました。学校では男女比がほぼ均等。医学部を目指す生徒も多く、男女で数学や理科系科目への得意・不得意の偏りがあるイメージはなかったそうです。
Aさん自身も数学と物理が得意で、将来は漠然と理工系学部を考えていたAさん。しかし、ある出来事がきっかけで工学部を選択肢から外してしまいました。
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それは高校1年生の夏休み、塾の友達に誘われて参加したオープンキャンパスでの出来事です。それまで工学部の機械工学科などに興味があったAさんは、工学部のオリエンテーションに参加しましたが、そこで大学の教授や職員たちから熱烈な歓迎を受けます。
「工学部では理系女子を増やすため総合型選抜に女子枠を設けます。ぜひ応募してください!」
同じように質問ブースに並ぶ男子生徒よりも、明らかに力を入れて説明してくれることが伝わり、むしろ「そこまでしないと女子が入らないの……?」と不安になったAさんは、入学者の女子割合を聞いて驚きました。
学科によって数パーセント異なるものの、なんと女子率は10%前後。
その後、キャンパスツアーで訪れた研究室も同様で、10数人程度学生がいるなかで、女子はせいぜい1〜2人。その様子に「なんか無理…」と感じてしまったAさん。帰宅後に母親にその印象を話しました。
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「研究で遅くまで残ることも知っている。正直心配」
Aさんの母親は国立大学の出身です。キャンパスには文系学部も理系学部もあり、サークル活動でもさまざまな学部生と交流していたといいます。しかし、工学部や理学部の女子学生については、こう語ります。
「理系は研究室で長時間過ごすことが多いでしょう? 帰りが遅くなる人もいたし、研究室に泊まり込んで仮眠…なんて話もよく聞いていたの」
「お母さんが通ったころは法学部や経済学部も女子は3割程度だったけど、それでもゼミに女子1人ぼっち、というような状況はなかったわ。でも、工学部や理学部の女の子たちは、友達づくりも大変そうだった。あなたが本当にやりたい分野なら止めないし、応援したいけれど、正直いうと心配よ」
そんな話を聞いて、Aさんは女子比率が比較的高い私立大学に進学するか、理系のなかでも建築系や化学系など、女子率が高い学科を選ぼうかと考えるようになりました。
有名私大の工学部では先行して女性が増えている
近年、IT系など技術系職種の人気が高まり、理工系学部に興味を持つ女子学生は着実に増えています。キャンパスに女子学生が比較的多い私立大学では、理工系学部の女子割合も高くなってきており、例えば早稲田大学先進理工学部では、2024年度の学部生のうち約3割が女子をしめています。
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先ほどのAさんも「せめて2割、5人にひとりくらいは女子がいてほしい」と話してくれました。
国立大学理工系学部で進む「女子枠」設置には、確実に女子の人数が増えるという安心材料として、価値が出てくるのかもしれません。
【参考】
▽文部科学省/令和7年度国公立大学入学者選抜の概要
▽早稲田大学/学生に関する情報
◆沼田 絵美(ぬまた・えみ)人材業界や大学キャリアセンター相談業務などに20年以上携わる国家資格キャリアコンサルタント。