杉山しずかが総合格闘技16年目で掴んだ初のベルト 「やめたら楽になるのに」と思いながら戦い続けたワケ

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2024年11月21日 07:30  webスポルティーバ

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女子格闘家ファイル(8)

杉山しずかインタビュー 後編

(前編:ボディコンテスト日本大会にも出場 「二刀流」に挑む理由>>)

 総合格闘技のキャリア16年の杉山しずかは、今年7月に開催されたパンクラス「フライ級クィーン・オブ・パンクラスチャンピオンシップ」で、重田ホノカを相手に1ラウンド1本勝ちを収め、初のタイトルを手にした。何度も「格闘技をやめよう」と思ったことがあるそうだが、タイトルマッチにどんな決意で臨んだのか。そして、新たな目標にどんな思いで挑んでいるのか、その心境を語ってもらった。

【格闘技をやめようと思ったことは「何度もある」】

――杉山選手はDEEP JEWELSの印象が強いので、パンクラス参戦は少し驚きました。どのような経緯で決まったのでしょうか?

「まず、対戦相手がいなくなったのが大きな理由です。そこから『海外に挑戦しようか』とか、ONE ChampionshipやPFL(アメリカの格闘技団体Professional Fighters League)など、いろいろと話をいただいていました。ただ、試合をしなかった期間が長かったので、海外挑戦が自分に合っているかちょっとわからなくて......」

――2022年5月の中井りん戦から2024年3月のライカ戦まで、約2年間空きましたね。

「その期間も練習はしていて、修斗やパンクラスに出場している藤野恵実選手や黒部三奈選手などから『どうしてこんなに練習で強いのに試合には出ないの?』と何度も言われました。それで彼女たちが『私たちが話してみるよ』と言ってくれて、パンクラス参戦を意識するようになりました」

――その間、格闘技をやめようと思ったことはありましたか?

「何度もありますね。やめたら楽になるのに、と思うことも多かったです」

――それでも続けてきた理由は?

「やめたら何も取り柄がないと感じているんです。たとえば、スパーリングをしている時に自分の強さを感じると、『まだいける』『まだ勝てる』と思えるんですよ。それに、私はこの年齢(37歳)になってもほとんどケガをしないので、そこは恵まれていると思います。周りにはケガで引退する人も多いですから」

【16年目で芽生えたベルトへの執着】

――総合格闘技のキャリア16年目で初めてのベルト。その重みはいかがですか?

「正直、DEEPやDEEP JEWELSのベルトに関しては、強い執着がなかったんです。獲れると思っていなかったことが、実際に獲れていなかった理由だと思います。『自分はチャンピオンのキャラクターじゃない』と思っていたんですよね」

――RIZINにも出場し、女子格闘技のトップ戦線で活躍してきても、ベルトには執着がなかったんですか?

「自分のことをあまり理解してなかったのかもしれません。本来は上を目指して、チャンピオンを狙って格闘技をやるべきだと思いますが、私はひとつひとつ、目の前の試合を勝っていくことを重視していたので」

 でも、今年のタイトルマッチが決まった時には『このタイトルを獲るべきなんだ』と自分に言い聞かせました。そうやって意識を変えたのがよかったんだと思います」

――なぜ、ベルトへの意識が変わったんですか?

「試合間隔が空いたことで、試合をする意味や、目指すものについてあらためて考えたんです。あと、パンクラスはランキング制なのがDEEPとは違うところで、自然と上を目指す意識が生まれました。明確な位置づけをされることが、スイッチを入れるきっかけになったと思います」

――ランキング制が、目標設定とモチベーションに繋がったということですね。

「そうですね、それまでは、ランキングがないことが自分に合っていた部分もあって、それはそれでよかったんです。でも、パンクラスで自分がランキングに入ったことで、『これは全員で頂点を取りにいくゲームなんだ』と意識が変わりました」

――タイトルマッチでは試合開始直後、杉山選手はサウスポーで構え、奥足でローキックを出していきました。その後、重田選手にテイクダウンされて下になりましたが、焦りはなかったですか?

「下になったのはプランどおりではありませんが、焦りはなかったです。『そんなに怖くないな』と一瞬でわかったので」

――怖くないというのは?

「パワーもそうですし、ちょっと焦っている感じがしたんです」

――杉山選手は、どんなプランで臨んだのでしょうか?

「打撃で勝負する私に対して、組みにくる重田選手という展開を予想していたので、その通りでした。壁際の攻防もいっぱい練習していましたし、重田選手の過去の試合を見て『首を狙おう』と思っていたんです」

――実際に金網際、片足タックルのカウンターでニンジャチョークがキレイに入りました。

「もしかしたら返されるかもしれないので、けっこう丁寧に入ったつもりです。ダースチョークも得意ですが、ニンジャチョークは逃げられることが多いんですよ。セットする前だと仰向けになられて逃げられてしまうので、初手でニンジャ、逃げられた場合はダースチョーク、その次はアナコンダと、いくつかの手を用意していました」

――勝利後、金網に登って喜ぶ姿が印象的でした。

「『あぁ......やってきてよかった。私にもできたんだ』みたいな感じでした」

【もっと『かっこいい』と思われたい】

――客席で見ていたお子さんも泣いていましたが、ご家族や周囲の方の反応はいかがでしたか?

「ベルトを見せるためにやってきたわけでではないんですが、みんなすごく喜んでくれました。ただ、重田選手がどうこうではなく、競って勝ったわけではないのでちょっと心配です。次の試合で(同じような展開が)自分に降りかかるかもしれないなと思っています」

――子育てとの両立はいかがですか?

「できていないところも多いですね。私たち夫婦は、このジム(UNITED GYM TOKYO/2021年7月に夫の中村K太郎とオープン)で働いたり、他の仕事もあるとどうしても夜遅くなるので、K太郎さんのお母さんが週2回来てくれて、食事、寝かしつけ、習っている柔道の送迎などを手伝ってくれています。喜んでやってくれているので本当に助かっていますね。でも、家庭の味はなかなか作れていないなと。憧れていたお母さん像とは少し違うな、と感じることはありますね」

――試合前は、DEEP JEWELSの中井りん選手との試合を希望しているという記事も出ていましたが。

「試合の前にはそんな話もしていたんですが、現実的ではないですね。パンクラスで防衛戦をやっていくと思います」

――今後の目標は?

「短期的な目標と、長期的な目標を立てています。短期的な目標は11月24日のベストボディ・ジャパンの日本大会で、長期的な目標は来春に予定されている防衛戦。ベースは格闘技になるんですけど、できる仕事は全部やっていこうという気持ちです。そこからいろんな分野に広がると思うし、新しい可能性を感じています。やっぱり、自分が挑戦してみることは大事だなと思いますね。

 人気者になりたいという欲求はあまりなくて、もっと『かっこいい』って思われたいです。女性の方もそうですけど、ときどき男性からも技のことを聞かれると嬉しいんです。『ニンジャチョークってどうやるの?』って聞かれたりすると喜んで教えちゃいます」

――今回のベストボディ・ジャパン挑戦も含めて、ほかの格闘家とは違った形で競技の魅力が伝わっていると思います。

「そうだといいですね。女性から『これをきっかけに筋トレを始めました』といったメッセージが届くと、とても励みになります。ちょっとおこがましいかもしれませんけど、みなさんにそう思っていただけるならとても嬉しいです!」

――まずは、ベストボディ・ジャパン、11月24日(日)の日本大会ですね。

「頑張ります! 前回(首都圏大会)はコケましたが、今回はコケないように気をつけます(笑)」

【プロフィール】
■杉山しずか
1987年2月11日、アメリカ・ニューヨーク州出身。165cm、57kg。東海大学体育学部在籍中にJEWELSでプロデビュー。1年間のオーストラリア修行後に4連勝を飾り、14年5月のDEEP JEWELS初代ミドル級王者決定戦に辿り着いたが、端貴代に敗れタイトル奪取とはならなかった。一時出産と育児で女子格闘技界から離れていたが、17年2月のDEEP JEWELSで約2年ぶりに復帰、奈部ゆかりを相手に勝利。17年12月にRIZIN初参戦。24年3月よりパンクラス参戦。7月に第4代フライ級クィーン・オブ・パンクラシストを戴冠。10月には、ベストボディ・ジャパン協会が主催する『マッスルモデル&フィットネスモデル2024首都圏大会』のレディースクラス(35〜49歳)で優勝。夫は同じく格闘家の中村K太郎。

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