美容医療ボトックス注射で「首がグラグラ」、胃や唾液腺に打つ人も…韓国での施術や未熟な医師によるトラブル増加の背景

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2024年11月22日 11:30  ORICON NEWS

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首などに注射する人も…懸念は?(写真はイメージ)
 美容医療として一般的にも広まったボトックス。だが、Xでは首にボトックスを打ったらグラグラになったという投稿があったり、芸能人が失敗したという話題も。SNSなどで情報が氾濫しているがゆえに、患者みずから「ここに注射を打って、こう変わりたい!」と具体的に望むことも多いボトックス。身近な施術だからこそ、本来はどんな薬で、どこに危険が潜むのかを知り、安全な施術を心がけてほしい。トラブルに見舞われないための心得について、クリニックフォア監修医兼ナチュラルスキンクリニック院長の皮膚科専門医の圓山尚(えんやまたかし)先生に聞いた。

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■美容のため首にボトックスを打ったらグラグラに? 対処法は「時間が経つのを待つしか…」

――そもそも、ボトックスはもともと美容のために開発された薬なのですか?

 「違います。筋肉を緩めて収縮を抑える作用があることから、頭が横を向いたり倒れてしまう痙性斜頸の患者さんや、脳梗塞の後遺症で手足が動きにくかったり、意図しない動きをしてしまう患者さんの治療に用いられてきました。その後、咀嚼を司る咬筋の緊張を緩和することで食いしばりを改善できることから、顎関節症の治療や、汗や皮脂の分泌を抑える作用があることから脇汗や手汗がひどい多汗症の治療にも用いられています」

――なぜ、それが美容の分野で用いられるように?

 「ボトックスを打って筋肉の働きを弱めれば、シワがときほぐれて改善されるということで、美容医療の領域でメジャーになりました。近年は、エラ張りなどの小顔効果を期待して咬筋に打つことをはじめ、美容医療での適用部位は多岐にわたっています」

――Xで話題になった首へのボトックス注射ですが、首に打つとどのような効果があるのですか?

 「筋肉の収縮を抑えると、筋肉はだんだん痩せていきます。筋トレをやめると腕や脚が細くなるのと同じで、首の太い筋肉に打つと首が細くなります」

――打った人は首がグラグラになってしまったとのことですが。

 「首の太い筋肉は頭を支える役割を担っているので、そこに打ち過ぎると、首が座らない赤ちゃんのようになってしまうんです」

――怖いですね…。治るのでしょうか?

 「時間の経過とともに効果は薄れてきますし、だいたい3〜4ヵ月で元に戻ります。ボトックスの作用を抑える効果が見込まれている中和剤のようなものも存在するのですが、正直、あまり効果は期待できず、時間が経つのを待つしかないですね」

――ボトックスを首に打つ人は多いのですか?

 「最近増えていますね。首を細くするという目的では、結婚式でドレスを着る前に首のラインをキレイにしたいという方がよくいらっしゃる印象です」

――小顔になる効果もあるのですか?

 「首の前部にあるカーテンのような薄い膜上の広頚筋にボトックスを打つと、小顔効果が得られます。口をイーという形にしたときに筋が出る部分で、下に引っ張る筋肉と上に引っ張る筋肉が常に綱引き状態になっているのです。注射を打って下に引っ張る筋肉の働きを抑制すると、上が勝って、フェイスラインが上がって小顔効果が得られます。

 また、唾液腺の一つで、顎下にある顎下腺というボール状の器官があるのですが、そこにボトックスを打つと、肥大化した唾液腺が小さくなって、小顔や顔痩せの効果が期待できるということで、施術を希望される方がいらっしゃいます。ただ、僕は唾液腺へのボトックス注射はあまりお薦めしていません」

――なぜでしょう?

 「唾液腺にボトックスを打つと唾液の分泌を抑えてしまうので、口臭や虫歯の原因になります。また唾液腺の周辺には、ものを飲み込む筋肉が走っているので、万が一そこに当たってしまったら、食べ物や飲み物をとりにくくなってしまいます」

■トラブルが多い部位も…「指が動かなくなっても」腕に打つモデル、胃に打つ目的は?

――他に近年、増えている部位はありますか?

 「人中(鼻と唇の間)が長いと面長な印象になることから、人中短縮ボトックスを希望する人も近年増えています。ただ正直、打ってもあまり変わりません。むしろ口が閉じにくくなり、口の上のほうにご飯粒など食べ物が溜まりやすく、うがいもしにくくなる。効果よりはトラブルのほうが大きいと感じています」

――顔周り以外の部位はいかがですか?

 「モデルの方で、細くするために腕に打つ方がいます。指が動かなくなってしまうのですが、どうしても細く見せたいと定期的に打たれています。また、胃にボトックスを注射して胃の運動を抑えると食欲が落ちて痩せる、というダイエットもあります。あとは、鼻腔内にボトックスを浸透させると鼻水や鼻づまりを軽減させられるということで、花粉症治療としても最近は行われているようです」

――先ほど、部位によっては美よりも弊害が出る場合があるというお話がありましたが、メジャーになっているシワ取りもトラブルはあるのですか?

 「表情筋の働きが止まるので、口元の場合は歪んだり笑えなくなったりします。目のシワの場合は、目が閉じにくくなったり、表情が変わるなど、やはり弊害は生じます。また額の場合、額を上げられなくすることでシワが寄ることを改善するので、当然まぶたが重く、幅が狭くなります。そうなってしまったという相談は非常によく受けます」

――そのようなトラブルを回避するためにはどうしたらいいのでしょう。

 「ボトックスの打ち過ぎが原因なので、打つ量を少量にすることです。追加もできるので、あまり攻め過ぎず『まずは少量から試してみたい』と医師に伝えることをお薦めします。ただ万が一トラブルが起こっても、良くも悪くも必ず効果は3〜4ヵ月で切れます。気に入らない結果になっても戻るし、逆にすごくいい仕上がりになっても定期的に打つ必要があるのです。ただし、筋肉を細くする治療については注意が必要です。高齢者になるほど痩せた筋肉を元に戻すのは大変になるので、高齢者は特に肩や足など大きな筋肉への注射に注意していただきたいと思います」

■韓国でのトラブルも増加、日本でも技術や経験少ない“直美”医師に注意

――そのほか、美容医療の分野で最近、先生が注意が必要だと感じることはありますか?

 「韓国でのトラブルが増えているなと感じています。鼻を高くする施術で人口軟骨のプロテーゼを挿入したつもりが、合成繊維のゴアテックスを入れられていたとか、帰国後腫れてしまって日本の病院で再手術を受けたら、全然違う素材のものが入っていたとか」

――恐ろしいですね…。

 「日本でも最近、『儲かる』『当直がない』などの理由で、研修が終わってからすぐに美容クリニックに勤務する医者が増えていて、“直美”(ちょくび)という言葉も生まれたくらい。“直美”のすべてがそうではありませんが、技術を高めたり経験を積むことをしないまま施術を行った結果、合併症が増える等の問題が一部で発生しています。実際、美容医療の分野では訴訟をはじめ、国民生活センターなどに寄せられる相談が非常に増えています。厚労省もクリニックに対して安全管理の報告を義務付けるなどの取り組みに乗り出しているほどです」

――そんなに大変なことになっているのですか! 施術を受けたいときは何に注意したらいいのでしょう?

 「とにかく、医者選びをしっかりすることです。値段や広告で判断しないで、先生のプロフィールを調べて、経験豊富な先生のところで受けていただいたほうがいいと思います」

【監修】
圓山 尚(えんやまたかし)
ナチュラルスキンクリニック院長兼クリニックフォア監修医。金沢医科大学医学部卒業後、日本医科大学附属病院皮膚科に入局し皮膚科・皮膚外科・レーザーを中心とした診療を行う。その後、湘南美容クリニックでの勤務を経て、2019年にクリニックフォア新橋院を開院。現在はクリニックフォア監修医と永福スキンクリニック(現ナチュラルスキンクリニック)の院長を務め、”美のかかりつけ医”として活動している。

(文:河上いつ子)

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