エムバペはなぜフランス代表に招集されなかったのか 事情通が明かす本当の理由

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2024年11月23日 07:30  webスポルティーバ

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「Le Malaise(ル・マレーズ)」

 いま、フランスでは誰もがキリアン・エムバペのことをそう呼んでいる。彼を取りあげた記事ではこの言葉が頻出する。「ル・マレーズ」とはフランス語で、「不調」「不快」「不安」「倦怠」など、心地の悪いネガティブな状態を指す。エムバペがそんな言葉で形容されるとは、誰も予想していなかった。

 本来ならばいまごろ、エムバペは大きな幸せに包まれているはずだった。フランス代表のキャプテンになれた幸せ、サッカー史上最高額のメガ契約を結んだ幸せ、そのメガ契約の相手が世界に名だたる、そして何より彼がずっと移籍したかったレアル・マドリードであるという幸せ......。

 ところが移籍後は決して順調な滑り出しとはいかなかった。リーグ戦では第4節までゴールできず、左太ももを負傷し、マドリードに鳴り物入りでやって来た時の笑顔は失われた。やはり彼は「ル・マレーズ」なのか。ひとつ確かなのは、彼は期待されたよりもずっと少ない時間しかプレーできていないことだ。

 スペインのテレビでは「彼はピッチで引きずるように歩いている」とコメントされた。フランスでは「もうかつてのエムバペではない」と言われ、レアルのサポーターは「期待外れ」と不満を漏らす。スポーツ紙も一般紙も彼の 「ル・マレーズ」の原因を分析している。

 ここ何年もの間、ヨーロッパのサッカーはエムバペに翻弄されてきた。パリ・サンジェルマン(PSG)にいながらもレアル・マドリードへの愛を語り、毎夏、「移籍する、しない」で周囲を騒がせてきた。そんな彼がマドリードにやっと移籍したのは、PSGで7シーズンを過ごし、契約満了を迎えた25歳の夏のことだった。

 私はこれまでずっとエムバペの成長を見てきたが、現在、彼はそのキャリアにとって最悪の危機に直面していると言えるだろう。

 PSGで何年もチャンピオンズリーグ(CL)優勝を果たせなかった時も、エムバペは非難され、疑問視された。しかし、現在の状況はもっと深刻だ。なぜなら以前、彼の傍らにいたのは、彼をサポートするベテランのスター、リオネル・メッシとネイマールだったが、いまエムバペの傍らでは、より若くて未来ある選手がどんどん育っているからだ。

【アンチェロッティも言及】

 今シーズンのレアル・マドリードは、引退したトニ・クロースを除けば、ほぼそのまま主力を温存した。そこにエムバペを加えたことでチームの可能性はさらに高まったはずだった。

 しかし、実際はエムバペが来てからのレアル・マドリードは不振に陥っている。バルセロナとのエル・クラシコで4−0という屈辱的な大敗を喫し、CLでは4試合ですでに2敗(リール、ミラン)している。ケガ人も多い。カルロ・アンチェロッティ監督やフロレンティーノ・ペレス会長でさえ、状況は良くないと認めているほどだ。

 エムバペが置かれている状況が深刻なのは、ペレス会長とアンチェロッティ監督が、相次いで彼について公に語ったことからもわかる。現在のエムバペの状態には説明が必要なのだ。

 ペレス会長は、基本的にはエムバペを気に入っており、「彼が適応するのは簡単なことではない。レアル・マドリードのようなチームが求める高いレベルの結果に応えるには、時間が必要だ」と、擁護している。時間の問題であると語ったわけだが、彼も少々待ちくたびれているようだ。ボータルサイト『フットボール・エスパーニャ』が伝えるところによると、ペレス会長はアンチェロッティに「正直、エムバペには少しがっかりしている」と漏らしたという。

 アンチェロッティもエムバペに言及したが、これも普通のことではない。なぜなら、アンチェロッティは選手個人について語ることを好まないからだ。

「エムバペが問題を抱えていることは、チーム全体の問題でもある。彼は失望し、不安を感じている。だがこれはヴィニシウス(・ジュニオール)にも、ロドリゴにも、(ジュード・)ベリンガムにも言えることだ。みんな調子はマックスではない。今は誰にとっても難しい時期だ」

 また、エムバペの課題についてはこう語っている。

「プレッシングをもっと効果的にしなければならない。攻撃でボールを失った後のリカバリーも大事だ。特に最後のタッチのミスはもう許されない。エムバペだけでなく、他のみんなもそうだが、もっと正確にプレーすべきだ」

 そしてアンチェロッティは、「エムバペは練習では頑張っている」と言い、彼が前向きな姿勢を保つ限り「調子は改善されると信じている」と締めくくった。

【PSGとレアル・マドリードの違い】

 いずれにせよ、ここまでの状況を見る限り、エムバペの移籍は成功とは言えない。彼が犯した一番のミスは、移籍する時期を見誤ったことだと、筆者は思っている。

 特にヴィニシウスの活躍により、CLで圧倒的な勝利を収め、彼が絶対的なチームの主役となった直後にレアルに来たのはタイミングが悪かった。現在、エムバペはセンターでプレーし、ヴィニシウスが、エムバペの好む左サイドで先発している。アンチェロッティはふたりのポジションを入れ替える気があるかと尋ねられると、率直にこう答えている。

「違いを生み出す選手を変えたくない」

 これは、レアルにおける序列を明確に物語るものだろう。

 さらに、ロドリゴやオーレリアン・チュアメニ、エンドリッキ、アルダ・ギュレルなど、若く優秀な選手や、将来のバロンドール候補ともなり得る選手たちもどんどん成長している。また、アンチェロッティが、今後もレアルのベンチに座り続けるかどうか(契約は2026年6月まであるが)、迷っている時にやって来たのもマイナス要因だったかもしれない。

 エムバペがレアル・マドリードで圧倒的なスターになりたかったのならば、その可能性のあった2年前に移籍すべきだったのだ。

 もしPSGに残っていたなら、今シーズンも彼は注目の的となっていただろう。好き勝手が許されただろうし、もし夢のCLのタイトルを獲得しようものなら、彼はチームの歴史に名を残す英雄、そして国民的スーパーヒーローになったはずだ。ジネディーヌ・ジダンと同じレベルに達したかどうかはわからないが、フランスサッカーの顔となったことは確かだ。

 だが、マドリードではエムバペはスポットライトを独占するわけにはいかない。たとえCLを勝ちとったとしても、レアル・マドリードにはそれを経験した選手は山ほどいるからだ。

 スペインでの逆境のなか、エムバペが彼に必要な「愛情」と「尊厳」を見出せるのは、キャプテンを務めるフランス代表チームのはずだった。しかしこの11月のネーションズリーグ戦にディディエ・デシャン監督はエムバペを招集しなかった。エムバペ自身はプレーしたがっていたが、デシャンが見送ったのだという。エムバペがフランス代表に選ばれないのは、これで2回連続になる。10月は体調不良のための欠場だったが、今回はケガではなかった。

【代表に招集されなかった理由】

 デシャンはなぜキャプテンを招集しなかったのか。彼はそれを「フィジカル的な要因と心理的な要因がある」と説明している。メンバー発表の3日前、エムバペには直接、その理由も説明したということだった。

 デシャンは純粋にピッチでの問題だとするが、『レ・キップ』紙をはじめとしたフランスメディアはそう見ていない。監督の声明とは裏腹に、エムバペの欠場は10月に起きたレイプ告発と関連していると主張しているのだ。

 10月の代表ウィーク中、ケガでメンバーから外れていたエムバペは、仲間数人とスウェーデンを訪れた。元PSGのチームメイトで、現在はレバークーゼンでプレーするノルディ・ムキエレなども一緒だった。エムバペたちはストックホルムの中心部にあるナイトクラブで遊んだのち、ホテルで性的暴行事件を起こしたと告発されたのだ。

 エムバペは自身のSNSに「フェイク・ニュース!!」と書き込み、全否定している。スウェーデンの検察当局は「捜査している」と発表しているが、容疑者の名前を含めた詳しい情報は明かしていない。

 事実かどうかは別として、もしそんな渦中のエムバペを招集すれば、この事件が注目され、試合とは関係ない多くの質問を受けるだろう。落ち着いてプレーするにはほど遠い環境になるのは目に見えている。またフランスサッカー協会とデシャンは、「代表ウィーク中にエムバペがスウェーデン当局から呼び出されることも恐れていた」と、フランスメディアは報じている。

 そもそも前回、体調不良で代表を外れていたにもかかわらず、スウェーデンに遊びに行ったこと自体、今回も外された原因のひとつだという見方もある。デシャンはこの時のエムバペの行動をよく思ってはおらず、「自分の帰属がどこか(フランス代表のメンバーであること)をよく考えるべき」とコメントしている。

 フランスの一部メディアは、デシャンがフランス代表の指揮を執り続ける限り、エムバペが代表に戻ってこない可能性さえあると言っている。まさかそれはないだろうが、たとえレイプの告発があったとしても、もしエムバペがレアル・マドリードで好調を維持し、多くのゴールを決めていれば、デシャンも彼を招集しただろうというのが大勢の意見だ。

 ちなみに、エムバペ不在のフランスはイタリアを3−1で下し、グループリーグ首位通過でネーションズリーグ準々決勝に駒を進めている。

 レアル・マドリードでの不調、多くのライバルたち、スウェーデンでの疑惑、そして距離が生まれたフランス代表......かつて王のようにふるまっていた頃とは大違いだ。『レ・キップ』紙は、エムバペが「メンタル面で苦しんでおり、専門家に助言を求めている」と報道している。まさに「ル・マレーズ」なのである。

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