「青春18きっぷ」大ブーイング やっぱり、新ルールは改悪か 利用者の本音とJRの狙い

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2024年11月23日 08:21  ITmedia ビジネスオンライン

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新「青春18きっぷ」が登場、デメリットばかり?

 JRグループは2024年11月26日に「青春18きっぷ」の冬版を発売する。販売終了は3日間用が2025年1月6日で、5日間用が2025年1月8日。利用期間はどちらも2024年12月10日から2025年1月10日まで。冬休みの小さな旅や帰省で使っている人にとって、普通列車専用とはいえ、長距離を安く移動できてありがたい切符だ。


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 しかし、今回からルールが大きく変わった。過去に利用したことがある人は、昨年までのような使い方はできない。


・「バラ使い」ができなくなった。


 前回までは「5回」利用できた。つまり利用期間中の「任意の5日」を選べた。例えば、12月14日に1回分で日帰り、21〜22日に2回分で往復、27日に故郷へ帰省して、1月6日に帰ってくる、といった具合だ。今回からこの使い方はできない。5日間連続使用、3日間連続使用の2種類になって、1日単位のバラ使いはできない。


 バラ使いができないから「2名以上が同一行程で使用」もできない。「2名が1回分ずつ使って1日利用して合計2回分を消費し、残り3回分を1人で使う」もダメだ。切符を買った本人が、5日間連続、または3日間連続で使える。5日間連続用が1万2050円で前回までと同額。新たに設定された3日間連続用が1万円だ。


●利用者にとって便利な面も


・自動改札機を利用できる


 自動改札を使えるようになって利用者は便利になった。


 前回までは、有人改札で日付印を押してもらってから利用していた。あるいは最初に乗った列車の車掌に見せて日付印を押してもらう。自動改札を通れないので、大きな駅では必ず有人改札を通る必要がある。駅によっては複数の改札口があっても有人改札が1カ所だけで、北口から外に出たいのに南口しか使えないなどの不便があった。また有人改札の稼働時間は日中に限られており、始発から乗る場合に日付印がもらえない。


・その他の変更


 青函トンネルは普通列車が走らないから青春18きっぷは使えない。ただし別売りの「青春18きっぷ北海道新幹線オプション券」を使うと、北海道新幹線の普通車の空席を片道1回だけ利用できる。さらに道南いさりび鉄道の木古内〜五稜郭間を通過利用できる。これでJR東日本区間とJR北海道区間がつながる。その区間が従来の「奥津軽いまべつ〜木古内」から「新青森〜木古内」に拡大された。ただし料金は区間延長に応じて2490円から4500円に値上げされた。


 乗車日が翌日にまたがる列車は、前回までは「0時を過ぎて最初に停車する駅まで有効、東京・大阪の電車特定区間は終電車まで」だった。今回から「最終列車まで有効」に統一された。ただし、大晦日などの終夜運転では通常ダイヤの最終列車までだ。


 JRホテルグループの加盟ホテルの宿泊割引が廃止された。ここにも意味があるけれども、これは後述する。


●発表時に大ブーイング、運動に3万人超が署名


 今回の青春18きっぷの冬版は10月24日に発表された。前出のルール変更は、従来からのユーザーに「改悪」と捉えられ、概ね不評だ。概ね不評といえるのは、自動改札対応を評価する声が一部にあるためだ。


 地方の駅で有人改札が減少し、都心部や観光地の駅では有人改札が訪日観光客で混雑しているからだという。また「青春18きっぷ北海道新幹線オプション券」は、津軽線の蟹田(かにた)〜三厩(みんまや)間が災害で不通となっており、青森県側の奥津軽いまべつ駅に到達しにくい状況だから、仕方ないともいえる。


 不満は、「任意の5日」が「連続5日」に変更された点に集中した。私も青春18きっぷを使うときは日帰りの旅が多かった。首都圏の日帰り圏は狭いけれど、航空券や夜行バスを組み合わせれば、北海道、北陸、京阪神、中部地域でおトクに使える。5週間にわたり毎週末に出掛けるという利用者も多かったのではないか。各駅停車ばかりの5日連続の旅は考えにくい。新たに3日間用が発表されたけれど、3日連続も使い勝手が悪そうだ。


 ところで、新たに設定された3日間用は「秋の乗り放題パス」によく似ている。「秋の乗り放題パス」は青春18きっぷが設定されない秋季用のきっぷで、今年も発売された。利用期間は10月5日から10月20日までの連続3日間だ。普通列車限定で、青函トンネル用の「秋の乗り放題パス北海道新幹線オプション券」もある。その他、並行在来線第三セクターの通過利用や、普通列車の少ない区間の特急乗車の特例なども、青春18きっぷの諸条件と同じ。料金は7850円だ。


●冬の青春18きっぷの中身は「冬の乗り放題パス」


 秋だけ別のきっぷが生まれた背景には、青春18きっぷと「秋の乗り放題パス」の生い立ちに違いがあるからだ。青春18きっぷは学生の夏休み、冬休み、春休みを前提に、国鉄時代の増収策として発売された。発売時は「青春18のびのびきっぷ」という名称だった。


 「秋の乗り放題パス」のルーツは、1996年から2011年まで販売された「鉄道の日記念・JR全線乗り放題きっぷ」だった。10月14日は日本の鉄道開業日にちなんだ鉄道の日。そこで多くの人々に鉄道の旅に親しんでもらうために設定された。効力は青春18きっぷに似ており、鉄道の日の前後16日間の有効期間内に3回利用できた。料金は9180円で、1回当たりの料金は青春18きっぷより割高だった。しかし、秋も青春18きっぷがほしいという利用者に歓迎された。


 「鉄道の日記念・JR全線乗り放題きっぷ」は、2012年から「秋の乗り放題パス」になった。主な変更点は有効期間内の「3回利用」が「連続3日」になった。つまり今回の青春18きっぷと同じ変更だ。当時、今ほど多くの反発があったという記憶はない。むしろ価格が7500円(当時)に値下げされたことを歓迎する声が多かった。その背景として、1989年の祝日法の改正により、祝日が月曜日に移動して3連休が増えたこともありそうだ。


 ともあれ、今回の青春18きっぷの変更は、見方を変えれば「秋の乗り放題パス」にならった形である。むしろ「青春18きっぷをとりやめ、冬の乗り放題パスにします。新たに5日間用を追加します」としてくれたほうがスッキリする。ちなみに青春18きっぷの3日間用は1万円だから、現在の「秋の乗り放題パス」の7850円より割高になった。そこも反発の理由になっていると思う。


 それでもJRグループは「青春18きっぷ」のブランドを捨てなかった。人気商品のブランドを取りやめると、顧客を一気に失ってしまう。もしかしたら「秋の乗り放題パス」のほうを「秋の青春18きっぷ」にするかもしれない。そして価格も統一するだろう。つまり秋の方を値上げする。収益を考えると、その方向性も見えてくる。


●青春18きっぷによる「機会損失」もあったかも


 今回の改定は、青春18きっぷ廃止の布石という見方もある。しかし廃止するならやめれば良いだけで、手間をかける必要はない。商品を改定する理由は「そのほうが売れるから」「そのほうが利益につながるから」である。利用者目線で改悪であっても、サービスの提供側に利点があるはずだ。


 11月12日の毎日新聞によると、青春18きっぷは2023年度に約62万枚売れたという。1枚1万2050円だから、約74億7100万円の売り上げだ。JRグループの総売り上げから見れば小さい数字かもしれないけれど、見過ごせない商いだ。2022年3月23日の日本経済新聞によれば、2019年度は約61万枚を発行したというから、コロナ禍からの回復どころか売り上げを増やしている。


 その青春18きっぷを改定するのであれば、JR側にはそれを必然とするデータがあるはずだ。その1つとして考えられるのは、実際はネット上で反発するユーザーよりもバラ売り志向が少なく、3日程度の連続使用が多かった。だから5日間用を残しつつ、本命は3日連続用で、むしろ値下げという見方だ。実は私も、1〜2日分を余らせて、もったいないから山手線で渋谷〜新宿の往復に使った日もあった。


 もう1つの背景は「JRホテルグループ加盟ホテルの宿泊割引廃止」だ。しかし正直、これはどうでもいい。そもそもJRホテルグループはシティホテルで、ビジネスホテルに比べるとランクが高い。そしてホテル業界は訪日観光客の増加で1泊当たりの単価が上がっている。JRホテルグループは主要駅、主要観光地にあるから、青春18きっぷユーザーを割り引く理由がない。


 さらにいえば、JRホテルグループは青春18きっぷを愛用するような節約旅にふさわしくなかったし、JRホテルグループに泊まれるような人は青春18きっぷを使わずに、新幹線や特急など速くて快適な列車に乗っているはずだ。


 実はここに、青春18きっぷの悩み「ユーザーの高齢化」がある。1980年代に青春18きっぷを楽しんだ人々が、40年経っても青春18きっぷを使い続ける。「実は18歳以上でも使えます」や「シニアにもお勧め」とあおるメディアもある。その結果、本来は新幹線や特急列車に乗っていただきたいお客が、青春18きっぷに固執する。実態として、高齢者の利用が多くなった。


 そうなると、青春18きっぷで70億円を稼いでいたつもりが、80億円の機会損失となっていたかもしれない。これを解消したいという意図もありそうだ。あるいは、自動改札対応で実質値下げになるから今までより売れるはずだ。これが今回の改定理由だと想像する。


●「ハッピーセット戦略」の失敗と代替「きっぷ」包囲網


 青春18きっぷはその名の通り「若い人に鉄道旅を楽しんでもらいたい」が主旨だった。マクドナルドのハッピーセットと同じで、子どもの頃に味を覚えてもらえば、ソウルフードとなって、大人になっても来店してくれる。ただしその時はハッピーセットではなく、ビッグマックやダブルチーズバーガーになり単価が上がる。食べる量も増える。


 ところが往年の青春18きっぷユーザーときたら、大人になっても青春18きっぷから離れてくれない。新幹線にも乗ってくれず、LCCで北海道や九州へ飛び、1日か2日分の青春18きっぷを使う。元が取れたら、それ以降は日常の雑用で消費するか、困ったことに金券ショップに売ってしまう。


 かといって、青春18きっぷをいまさら「U18限定」にすれば大混乱だ。そこで、本来のターゲット層に絞った使い道「3日連続」「5日連続」に変更したのではないか。


 青春18きっぷから締め出された大人たちはどうしたらいいか。実はJRは、大人たちに快適でお得な切符を用意している。「Peach/FDA ひがし北海道フリーパス(2万円)」「四国フリーきっぷ(1万8000円)」「旅名人の九州満喫きっぷ(1万1000円)」など、調べればいくつも出てくる。これらの切符は飛行機で現地に行ってから使う。特急に乗れて、指定席も使えるタイプもあるし、JR周辺の私鉄も組み合わせたタイプもある。


 JR各社が自社線内で完結するフリー切符を出している。だからもう青春18きっぷは必要ない、という見立てもできる。しかし青春18きっぷは残った。実情として、シニアが使う青春18きっぷはビジネスのバランスを崩している。いつまでも青春18きっぷに固執しないで、可処分所得と可処分時間に見合った切符に誘導したいというJR側の意図がありそうだ。


 そもそも青春18きっぷは「お金はない、時間はたっぷりある」という人向けの切符だ。大人になると「時間が足りない。お金で解決できるなら割高でもいい」となる。青春18きっぷは本来の趣旨、「若い人に鉄道旅を楽しんでもらいたい」に立ち返る。これがJR各社の提案だと思われる。それがうまくいくかどうか、この冬の売れ行きにかかっている。


(杉山淳一)



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  • 18きっぷは「お試しセール」的な部分もあったと思う。これで知らなかった路線や旅を知って、次回はそこにもっとお金を使う。
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