ようやく悲願が叶った。11月10日。福岡県でアマチュア野球の垣根を越えたイベントが開催された。県内の高校、大学(九州六大学連盟=福岡大、西南学院大、九州国際大、北九州大、久留米大、九州大)、社会人(西部ガス、日産自動車九州)の3団体選抜チームが、福岡市東区のSGマリンフィールド東浜に集結。交流戦、野球教室で親睦を深め合った。
【交流戦開催までの険しい道のり】
分厚い雲が上空を覆い、時折雨が落ちるコンディションのなか、選手たちの大声が響き渡る。近いようで遠かった3団体が、ようやく一堂に会することができた。発起人の西南学院大学・東和樹監督は「この3つの団体が集まって交流戦をやるのは、日本で初めての試みだと思います」と万感の表情で切り出した。
「まずは福岡県高野連、九州六大学連盟、福岡県社会人の関係者のご尽力があり、開催できたことを心より感謝申し上げたいです。開催の目的としては、高校生にとって、甲子園という目標も大切ですが、もっと長期的な展望で、大学や社会人という世界があるということを、実際に試合を通じて、将来をイメージしやすい経験をしてもらいたいということです。私は大学で監督をしていますが、個人的には社会人野球がとにかく大好きで、大人が仕事をしながら野球の真摯に向き合う姿を、高校生のうちに知ってほしいというのが一番の目的です」
東監督は鹿児島商工(現・樟南)出身。現役当時、社会人チームの合宿に参加したことがあり、そのレベルの高さが強く印象に残っていた。
「県によっては社会人チームがないところもあり、若い時にアマトップクラスの野球を観る機会が少ない中、福岡は社会人、大学、そして高校とチーム数が多いので、まず福岡から、3団体が交流できるイベントができないかと思ったのが始まりです」
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大学と社会人は普段からオープン戦を行なうことも多いが、そこに高校を絡めることに「意味がある」と東監督は力説する。2018年から構想を練ったが、実現までの道のりは長く、そして険しかった。
まず、福岡県下の130校を超える高校から、交流戦のためだけに選抜チームをつくることが難しかった。それならばと2020年、地元の強豪である筑陽学園(太宰府市)のみの単独チーム、九州六大学選抜、福岡県社会人選抜で交流戦の開催決定までこぎつけたが、コロナ禍であえなく中止となった。
そしてコロナ禍が明けた昨年、あらためて3団体の選抜チームを揃えて開催に動いたが、高校側の準備が間に合わず、九州六大学選抜と社会人選抜の1試合を行なったのみだった。
福岡県高野連の吉岡徹郎理事長は「どういう手続きが必要なのかも含めて調整に時間がかかりました」と経緯を説明する。
開催日の調整も簡単ではない。開催月は、3団体が本格的なシーズンオフに突入する前の11月がベスト。社会人は日本選手権後、大学、高校は神宮大会前の数少ない土日のなかから、日程をすり合わせていった。
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【構想から6年でついに実現】
そして11月10日。構想から6年の時を経て、3団体の交流戦は、ようやく実現の時を迎えた。高校側の受け入れ態勢がタイミングよく整ったことも、開催のあと押しとなった。吉岡理事長が続ける。
「12月に県の選抜チームが、福岡県スポーツ局の事業としてオーストラリアに遠征して試合をします。それと合わせた形で、選抜メンバーを編成するという手続きができました」
第1試合、福岡県高校選抜は、東監督が率いる九州六大学1年生選抜と7回制で対戦。初回に1点を先制したが、その後は九州六大学1年生選抜のペースで試合が進み、1対7であえなく逆転負けとなった。
野手陣は大学生投手の前に、わずか2安打に抑え込まれた。「1番・遊撃」で6回に右前打を放った尾辻佑晟(ゆうせい/修猷館2年)内野手は「本当にいい機会をもらえました。大学の先発の方は伸び上がるような球を投げていて、初めて見ました」と驚けば、「3番・中堅」で無安打に終わった市川大智(東筑2年)外野手も「東筑にも140キロを投げる投手はいますが、同じ140キロでも球の質が全然違いました」と目を丸くする。
ただ、勝敗以上に得ることのほうが大きかった。高校選抜を率いた益田和毅監督(嘉穂東監督)は、ベンチで「こんな経験は二度とないぞ! 打たれてもフォアボールを出しても明るくいけ」と声を張り上げ、投手陣を送り出した。
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5番手で登板した木村洸士郎(田川2年)投手は、最速140キロの直球を主体に、打者6人を相手に3三振を奪った。「もう少しやれるかなという感じもありましたが、85点はつけられると思います。自分の力が少しでも通用するかなという自信になりました」と胸を張った。
益田監督は試合後、「来年以降もぜひやっていただきたいです」と、交流戦の継続開催を熱望した。
「九州六大学さんは1年生で、体はまだできあがっていなくても、スピードがすごかったです。選手たちは、それぞれの大学さんのパンフレットをいただきました。大学野球を知るきっかけになるし、進路授業としても本当にいいと思います」
【3団体交流戦の意義】
第2試合は九州六大学2、3、4年生選抜と福岡県社会人選抜が対戦。高校選抜メンバーは、オーストラリア遠征の結団式とユニホーム採寸を終えたあと、ハイレベルな投手戦を食い入るように観戦した。
福岡県社会人選抜の松薗史敏監督(西部ガス監督)も、3団体交流戦の意義を語る。
「アマ同士の裾野を広げるという意味でも、いい試みだと思います。大学生とはよくオープン戦をしていますが、アマチュア最高峰と言われている社会人というカテゴリーの選手がどういうプレーをしているかを高校生に知ってもらうのは、本当に大事なことだと思います。野球の技術だけじゃなくて、大人が全力で取り組んでいる姿勢を見せるだけでも、プラスになるんじゃないかと思います」
高校選抜と社会人選抜は試合ではなく、野球教室で交流。球児たちは、アマトップクラスの技術をしっかりと吸収し、それぞれのチームへと持ち帰った。手探りのなかで始まった3団体交流戦は、大成功のうちに幕を閉じた。東監督が来年以降の青写真を語る。
「ここに福岡六大学さん(九州産業大、福岡工業大、九州共立大、日本経済大、福岡教育大、九州工業大)も入れて大学選抜にしたり、高校はチーム数が多いので4地区ほどに分けて、4年に一度回ってくるような形にしたいですね。中学生も呼んで、野球教室もやりたいです。まず福岡県がやれば、全国でもできるんだということで広まっていってほしいです」
近年、長く断絶状態が続いていたプロ・アマ間の雪解けが急速に進んでいる。アマ同士も縦同士の交流がより密になれば、野球界のさらなる発展につながってくる。