「中間管理職を減らしたい」企業の盲点 リストラで起こる、3つのリスクに備えよ

0

2024年11月24日 08:21  ITmedia ビジネスオンライン

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

ITmedia ビジネスオンライン

アマゾンの管理職を対象にしたレイオフが話題となった(画像:以下、ゲッティイメージズより)

 こんにちは。パロアルトインサイトCEOの石角友愛です。本日は多くの企業で起きている中間管理職削減の動きについてご紹介し、今後の動きを考察したいと思います。


【画像】中間管理職の削減することのリスクとは?


 先日、米Amazon.comが効率的な経営とコスト最適化を図る目的で管理職を1万4000人削減する計画であることをBusiness Insiderが報じました。


 もともと、一部のベテラン社員の間ではここ数年、こうした動きを予想する声があったといいます。なぜなら、ビッグテックとして年々成長し、巨大な組織となったAmazonでは、延々と熟考を重ね、不必要な会議を開き、社内の承認手続きにいくつもの階層がある状況が常態化してしまっていたからです。


 実際、Bloombergの報道によると、AmazonのジャシーCEOはこうした状況について、自身のメモの中で「決定を下すための複数の会議、そのための事前会議、さらにその事前会議のための事前会議。幹部の人数も増え、彼らは案件を前に進める前に自分たちが中身を見直す必要があるように思っている。決定が別の場所で行われることから、発案者は自らが提案する必要はないと感じている」と指摘しています。今回の管理職の削減により、組織のフラット化と迅速な意思決定が期待されていることが分かるでしょう。


 モルガン・スタンレーの試算によれば、この削減によりAmazonは年間36億ドルの財務効果を得ると推定されています。これは人件費の削減や業務効率の向上によるものと考えられています。なお、同社は過去にも人員削減や組織改革を行っており、今回の管理職削減はその一環と見られています。


 このような動きは、実は米国に限らず、日本の企業でも起きていることです。他の大企業の事例と他の大企業の事例と「中間管理職の削減」による盲点とその対策についても解説します。


Meta


 米Metaもまた、組織の効率化と意思決定の迅速化を目指し、大規模な管理職削減を進めています(参照:Business Insider「メタ、アマゾンが推し進める組織のフラット化。大手テック企業の中間管理職が続々と淘汰されるかもしれない理由」)。


 実際、CEOであるマーク・ザッカーバーグ氏は従業員に対し、2023年を「効率の年」と位置付け、リソースの最適化に焦点を当てると表明。経営コストの削減に加え、よりフラットな組織構造を実現するために戦略的に取り組むことをメッセージとして発信しました。


 特に中間管理職を削減し、役割を最小化することで業務プロセスの簡素化と意思決定のスピード向上を目指すとしており、実際に大規模なレイオフが行われました。こうした動きは、同社が過去に実施したリモートワーク制度の変更などの柔軟な労働環境改革とも連動しており、Metaが継続的に全社的な経営効率の改善を試みていることが分かります。


Alphabet


 2023年の話ですが、米Google(親会社:Alphabet)は全従業員の約6%に相当する約1万2000人の人員削減を発表しました(参照:CNBC「Google to lay off 12,000 people ── read the memo CEO Sundar Pichai sent to staff」)。


 この動きは、経済状況の変化や広告市場の不振、コスト削減圧力に対応するためだと言われています。この時も中間管理職を中心に削減され、組織のスリム化を図りました。管理層を減らすことで、意思決定を迅速化し、よりフラットな組織を目指す取り組みが進められました。


資生堂


 日本企業では、資生堂が今年、経営効率化と持続的な成長を目指し、国内で1500人の早期退職者を募集したことが話題になりました(参照:日本経済新聞「資生堂、国内で早期退職1500人募集 社員の1割強に相当」)。


 この募集は、国内事業を手掛ける子会社の資生堂ジャパンで45歳以上かつ勤続20年以上の社員が対象となり、年齢に応じた加算金を通常の退職金に上乗せするほか、希望者には再就職の支援サービスも提供するという条件で行われました。同社が大規模な早期退職者を募ったのは、1000人規模で募集した2005年以来の出来事です。


●中間管理職のレイオフがもたらす、3つのメリット


 中間管理職の削減は、一見、組織にとって厳しい選択のように思えるかもしれません。しかし、適切に実施されれば、組織の活性化、効率化、そして将来への成長につながるさまざまなメリットも期待できます。


 まず、コスト削減という大きなメリットがあります。中間管理職は一般的に給与が高いため、彼らのレイオフによって人件費を大幅に削減できます。


 次に、意思決定のスピードアップです。中間管理層が減ることで、情報の伝達や意思決定の階層が減り、より迅速な意思決定が可能になります。特に、変化の早い業界や市場環境ではスピーディーな意思決定が競争優位を生み出すため、重要な要素です。


 また、組織のフラット化も大きなメリットです。中間管理職の削減により、組織がよりフラットになり、上層部と現場社員の距離が縮まります。これにより、より直接的なコミュニケーションが可能になり、現場の意見やアイデアがよりスムーズに上層部に伝わるようになります。


 中間管理職の削減は、若手人材の育成と登用にもつながります。中間管理職が減ることで、若手や現場の社員が新たな責任や役割を引き受ける機会が増えます。若手社員にリーダーシップの機会を与えることで、組織の活性化や次世代リーダーの育成を促進できます。


 これらのメリットを最大限に生かすためには、同時にリスクも理解して正しいステップで組織の再構築を進めることが重要です。


●中間管理職のレイオフによる3つリスクと対策


 勤務年数も長く給料が高い中間管理職をレイオフし、企業のスリム化を図ることにはメリットも多く、理屈上は筋が通っているとも言えます。しかしそれにはメリットだけでなく、リスクが伴うことも忘れてはなりません。企業には同時にリスクも考慮した対応を取ることが求められています。


 そこで、中間管理職の削減に伴うリスクとその理由を挙げ、対策を分析したいと思います。


 1つ目のリスクは、コミュニケーションの断絶です。中間管理職は、経営層と現場の橋渡し役として、情報の伝達や意見交換を円滑に行う役割を担っています。彼らの削減によって、現場の従業員は経営方針や目標を理解しづらくなり、現場の意見やフィードバックが経営層に届きにくくなってしまう可能性があります。その結果、逆に迅速な意思決定や戦略の適応が難しくなり、組織全体の効率性が低下する恐れがあります。


 次に、管理機能の低下です。中間管理職は、業務の監督や進捗管理、パフォーマンス評価など、現場を円滑に運営するためにも重要な役割も担っています。彼らの削減によって、これらの管理機能が手薄になった結果、業務の進捗が遅延したり、品質が低下したりする可能性があります。


 さらに、従業員の不安や混乱も懸念されます。管理職の削減は、従業員にとって大きな不安材料となり、将来のキャリアパスや仕事の負担に対する不透明感を抱かせる可能性があります。大手テック企業で働いている筆者の友人は中間管理職ですが、「レイオフが始まってから職場の空気が悪くなり、次は自分たちかもしれないと皆が思ってしまっている。チームの管理が大変だ」と話していました。


 では、こうしたリスクを回避し、組織の安定と成長を図るためには、どのような対策を講じれば良いのでしょうか。


 まず、情報伝達チャネルの多様化や双方向コミュニケーションの促進など、効果的なコミュニケーション体制を構築することが重要です。また、業務プロセスやツールの改善、自律的なチーム運営のための仕組み構築など、管理機能の強化と効率化を図る必要があります。


 実際にリストラを行う会社は、残された従業員に対する不安解消、キャリアパスに関する情報提供、業務量の増加への対応、AI導入による業務の簡素化など、心理的なサポートとモチベーション維持にも力を入れる必要があります。


 最後に、社内文化の変化への対応です。中間管理職は、会社への勤続年数が高い分、実は社内文化やチームの雰囲気を維持する上で重要な役割を果たしています。そのため、この層を一気に削減してしまうと、社内文化が変化し、従業員のエンゲージメントが低下するというリスクがあるのです。これは意外と盲点ではないでしょうか。


 社会構造の変化やテクノロジーの進歩に伴い、日米の企業で起きている中間管理職削減の動きは今後も一層強まることが予想されます。中間管理職の削減は、組織にとって容易な選択ではありません。その選択をする際には、新しいコミュニケーションラインの構築、残された従業員のケア、新しい企業文化の醸成など、適切なリスク対策を行うことが必要です。


著者プロフィール:石角友愛(いしずみ・ともえ) 


パロアルトインサイトCEO/AIビジネスデザイナー


2010年にハーバード・ビジネス・スクールでMBAを取得した後、シリコンバレーのグーグル本社で多数のAI関連プロジェクトをシニアストラテジストとしてリード。その後HRテック・流通系AIベンチャーを経てパロアルトインサイトをシリコンバレーで起業。東急ホテルズ&リゾーツのDXアドバイザーとして中長期DX戦略への助言を行うなど、多くの日本企業に対して最新のDX戦略提案からAI開発まで一貫したAI・DX支援を提供する。2024年より一般社団法人人工知能学会理事に就任。


AI人材育成のためのコンテンツ開発なども手掛け、順天堂大学大学院医学研究科データサイエンス学科客員教授(AI企業戦略)及び東京大学工学部アドバイザリー・ボードをはじめとして、京都府アート&テクノロジー・ヴィレッジ事業クリエイターを務めるなど幅広く活動している。


毎日新聞、日経xTREND、ITmediaなど大手メディアでの連載を持ち、 DXの重要性を伝える毎週配信ポッドキャスト「Level 5」のMCや、NHKラジオ第1「マイあさ!」内「マイ!Biz」コーナーにレギュラー出演中。「報道ステーション」「NHKクローズアップ現代+」などTV出演も多数。


著書に『AI時代を生き抜くということ ChatGPTとリスキリング』(日経BP)『いまこそ知りたいDX戦略』『いまこそ知りたいAIビジネス』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『経験ゼロから始めるAI時代の新キャリアデザイン』(KADOKAWA)、『才能の見つけ方 天才の育て方』(文藝春秋)など多数。


パロアルトインサイトHP


お問い合わせ、ご質問などはこちらまで:info@paloaltoinsight.com



    ランキングトレンド

    前日のランキングへ

    ニュース設定