甲田さん(仮名・30代男性) 2024年10月4日、東京都議会は全国に先駆けて「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例」を可決。2025年4月から施行するとしている。体感としても、ここ数年、「カスハラ」に関する話題が増えたと感じる人も多いのではないだろうか。
しかし、カスハラという言葉がまだないころから、利用客による理不尽なクレームや言動は存在していた。なかでも、サブスクの隆盛によって現在は減少しているレンタルビデオ店では、カスハラが昔から横行していたと勤務経験のある人物が異口同音。
あのころのレンタルビデオ店で、一体どんなカスハラが起こっていたのか。かつて、レンタルビデオ店でアルバイトをしていた宇治さん(仮名・40代男性)と、現役でレンタルビデオ店に勤務する甲田さん(仮名・30代男性)に話を聞いた。
◆返金希望の男性客、まさかの理由に驚き
――これまでどんなカスハラを経験したんですか?
甲田:テレビにまつわるケースが多かったですね。
――テレビとの関係?
甲田:洋画のヒット作のDVDを借りていった男性が、翌日やってきて「返金してほしい」と言うんです。盤面が傷ついて見れなかったなどかと思ったら「昨日の夜、この映画をテレビでやっていたので、テレビで見た。このDVDは見ていないから、返金してくれ」と。
――返金に応じたんですか?
甲田:いえ、もちろんお断りしました。でも、急に大声で怒られました。「貸すときに『今夜、テレビで放送されますよ』と教えないのは、そっちが悪いだろ!」って。
――責任の所在をそんな風に捉えるんですね。
甲田:そんな責任は店側にはないことを丁寧に話しても引き下がってくれず、「字幕と比べて観たいという理由で借りる方もいますし」と言って突き返そうとしても収まりませんでした。「客に無料で見させないようにしている!これは詐欺だ!」と騒がれて大変でしたね。15分くらい押し問答みたいになって、最後は「消費者センターに訴える!」と言い放って帰って行きました。
――テレビでやっていたから返金してほしいというのがよくあるんですね。
甲田:そうですね。他にも何度かありましたし、同僚も同じ経験をしている人が多いです。
――対策はできないものですか?
甲田:直接的ではないですけど、しばらくしてからカウンターの横にこの先のテレビ番組表のコピーが貼られるようになりましたね。
◆「怖すぎて観れなかった」…監督に言ってくれ
――カスハラの発端は「返金しろ」から始まることが多いですか?
甲田:そうですね。店に早足で入ってきて、明らかに怒っている様子の中年女性にいきなり「これ何!お金返してよ!」とキレられたこともありました。
――どういう事情だったんですか?
甲田:その方が借りたのがホラー映画だったんですが、「怖すぎて1/3も観れなかった!」って言うんですよ。「こんなに怖いものを、誰でも借りられるところに置いておくのはおかしい!」「こんなに怖いなら、ちゃんとわかるようにそう書いておくべきでしょ!」と畳みかけられました。
――ホラー映画なら、パッケージでも怖いことは書いてありますよね。
甲田:もちろん、返金はお断りしたんですが、「だったら観れなかった2/3の分の料金の割引券をだしなさい!」と言い出して。どうしても引き下がってくれないので、確認のためマネージャーに電話したら、「こっちに落ち度はないから、返金も割引券も対応しなくていい。どうにもならなければ警察を呼んでいいよ」と言われました。
――賢明な指示ですね。
甲田:マネージャー、電話を切る直前に「観れないほど怖すぎたって、ホラー映画なんだから、すごい褒め言葉だよね。それ、うちじゃなくて監督に言ってやりなって、そのお客さんに伝えといて」と言われました(笑)。もちろん、そんなことは伝えずに警察に来てもらいました。
◆販売用なのに「レンタルさせろ」と騒ぐ客
――宇治さんは「返金しろ」以外で、カスハラを受けた経験はありますか?
宇治:販売用で陳列していたVHSを持って来て「これをレンタルさせろ」という方がいましたね。
――レンタルでは出していない作品だったんですか?
宇治:人気の最新作だったのでレンタルは全部貸し出し中だったんです。販売用はレンタルできないことを伝えると「全部貸し出し中になっているのは、店の在庫管理や売上予測のミスだろ! そのしわ寄せを客にかぶれというのか! 客商売というのはな……」と、商売に関する持論を大きな声で怒りながらずーっと話されました。
――たしかに、最新作は貸し出し中ばかりだった思い出があります。
宇治:その日は長い説教で終わったんですが、それから新作が出るたびに「取り置きしておけ」って、仕事にならないレベルで1日に何度も電話して来るようになっちゃって大変でしたね。
◆「延滞金10万円」を土下座で切り抜けようと…
――別のタイプのカスハラも、経験があれば教えてください。
宇治:延滞金に関わるものがありますね。延滞金が10万円を超えて返しに来た中年の男性がいて「絶対に支払わない!」と言い張るんです。
――自分が延滞しているのに?
宇治:その人に言わせると「返却期限の前に、もうすぐ返却日であることを店が連絡してくるべき! それを怠っているのは職務怠慢だ!」って。「カラオケ屋でも、時間前に『もうすぐ時間です』って連絡来るだろ」と引き下がってくれませんでした。
――自分の中には確固たる理屈があるんですね。
宇治:返却前の連絡はしませんが、延滞から1週間すぎるとハガキが送られるようになっているのでそのことを伝えたんですが「そんなの見るわけないだろ!」という、今度は理屈もクソもない話になるんですよ。
――そういった場合、最終的にはどうするんですか?
宇治:店長に警察を呼んでもいいと言われていたので、110番をしようとしたら急に「謝るから許してくれ!」って、レジ前で土下座しはじめました。土下座でなくて支払いをしてもらうようにお願いするんですが、「延滞金が免除されるまで動かない!」と言って、そのまま動かないんです。肩に手をかけて起こそうとしてもガチガチで全く動きません。しょうがないので、やっぱり警察を呼んで対応してもらいました。
◆「アダルト専門館」の利用者は実に従順
――宇治さんは、そのお店のアダルト専門館でも働いていたんですね。アダルト館ならではの出来事はありますか?
宇治:アダルト専門って、お客さんもそれなりに引け目があるし、何か問題を起こしたら見たい作品が見れなくなるから、わりとみんな従順だった印象です(笑)。明らかな子供が、間違えたフリして入ってきてビクビクしながらうろついているのは微笑ましかったですけど、注意してもカスハラみたいにはならずに、逃げ帰っていましたね。
――アダルト専門は、カスハラが少ないのは知りませんでした。
宇治:カスハラではないかもしれませんが、迷惑客はたまにいました。おかしいくらい短いホットパンツのようなものを履いていたお客さんが、奥の棚の方でモゾモゾしてるんですよ。万引きかと思って、防犯カメラ見ていたら裾からヒョイっとアレを出して、借りずにDVDの表紙だけで店内でコトを済まそうとしていました。店長もいたので、すぐ追い出されましたけどね。
<取材・文/Mr.tsubaking>
【Mr.tsubaking】
Boogie the マッハモータースのドラマーとして、NHK「大!天才てれびくん」の主題歌を担当し、サエキけんぞうや野宮真貴らのバックバンドも務める。またBS朝日「世界の名画」をはじめ、放送作家としても活動し、Webサイト「世界の美術館」での美術コラムやニュースサイト「TABLO」での珍スポット連載を執筆。そのほか、旅行会社などで仏像解説も。