2025年のドラフト上位候補 創価大・立石正広が波乱の1年を乗り越えてたどり着いた新境地

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2024年11月25日 10:01  webスポルティーバ

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 気温9度。断続的に小雨が降りしきる極寒の神宮球場で立石正広(創価大)が放った打球は、右翼方向に美しい弧を描いた。

 とてもフルスイングをしたようには見えなかった。佛教大の先発右腕・合木凜太郎が投げ下ろした141キロのストレートに、軽く合わせたようなスイング。てっきりライト後方のフライアウトかと思った打球は、フェンスを越えて右翼スタンドに並ぶ青いシートの間に消えていった。

「あのスイングであそこまで飛ばすなんて!」

 思わずそう叫んでしまった。明治神宮大会の第4試合ともなると、スタンドは閑散としている。だが、立石の一打は見る者の心を動かす力があった。

【課題は好不調の波の激しさ】

 試合後、立石はこの一打をこんな言葉で振り返っている。

「ある程度、真っすぐに絞っていました。逆方向に飛ばすのは自分の長所でもあるので、あの感じならいくだろうなと思いました」

 11月20日、明治神宮大会1回戦・創価大対佛教大の1回表。立石の第1打席で飛び出した2ラン本塁打だった。試合前から「めちゃくちゃ寒いな」と感じていた立石は、暑さを覚えるくらい上着を羽織り、カイロで手を温めて試合に臨んでいたという。

 この日の立石はこれで終わらない。2打席目には122キロのスライダーをとらえ、右中間フェンスを直撃する二塁打。5打数3安打2打点という立石の活躍もあって、創価大は8対4で快勝している。

 立石はよほどのことがない限り、2025年ドラフト戦線の中心人物になるはずだ。あるプロスカウトと2025年のドラフト候補について話した際、立石について聞いてみるとスカウトは「ああ、彼は間違いないね」と力強く言った。

 身長180センチ、体重87キロとたくましい体躯の立石だが、その打球の迫力や飛距離は日本人離れしている。

 今夏は大学3年生にして大学日本代表に選ばれ、チェコ、オランダで国際大会を転戦。1学年上の渡部聖弥(大阪商業大→西武2位)に立石について聞くと「打球速度は速いしコンタクト率が高くて、同じ右打者として『めちゃくちゃいいな』と感じます」と語っていた。

 ただし、立石を手放しで称賛できない要因もある。今年に入ってから立石は好不調の波が激しくなっている。今春のリーグ戦開幕時は本人が「最悪でした」と振り返るほどの絶不調で、三振を重ねた。シーズン途中から持ち直して大学日本代表に選ばれたものの、代表招集期間に再びスランプに陥る。当初は代表の4番打者を任されていたが、最後はスタメンを外されていた。

 立石は当時の心境をこう明かしている。

「自分のバッティングがわからなくなりました。いろんな選手が活躍しているのに焦って、自分で勝手に変化してしまいました」

 不振は秋のリーグ戦も続いた。東京新大学リーグで打率.244、0本塁打、2打点。立石は「まともなバッティングができなかった」と語るほど、実力を発揮できなかった。

【評価されすぎじゃないか】

 そんな立石に転機が訪れる。リーグ戦が終わり、明治神宮大会の出場権を決める横浜市長杯(関東地区大学選手権)でのことだ。立石はこれまでの感覚をリセットして臨んでいた。

「トスバッティングのつもりで、『振らなくても飛ぶ』という感じでラクに構えるようにしました」

 今まで広くとっていたスタンスの幅を狭め、力を抜くことを意識した。すると、湿り続けた立石の打撃に変化が起こる。

 中央学院大との初戦、1打席目から2打席連続ショートゴロに倒れた後の3打席目だった。立石本来の鋭いターンから弾かれた打球は、横浜スタジアムのセンターフェンス上部を直撃する。この二塁打が立石を蘇らせた。

「ちゃんとセンターへ打ち返せたので、自分のなかで『これからに生きてくる打席だ』といいイメージが持てました」

 つづく4打席目は、内角のストレートをとらえて左翼スタンドに放り込む逆転3ラン。立石は大会3試合で5安打を放ち、チームを明治神宮大会出場に導くとともにMVPを受賞している。

 横浜市長杯で好感触を得て、明治神宮大会での爆発につながった。立石は佛教大戦の試合後にこんな手応えを語っている。

「よく考えたら、大学生になってからいい時は逆方向にホームランが出ていました。悪い時は力んで体が早めに開いてしまうんですけど、今日は力を抜いてリラックスして逆方向に打てました」

 つづく富士大との2回戦では2安打を放っただけでなく、盗塁や迅速なバント処理など走塁・守備でも輝きを放った。50メートル走で6秒18をマーク(光電管センサーによる計測)したように、俊足も隠れた武器なのだ。

 立石が来年のドラフト戦線の主役になる可能性は十分ある。ただし、佛教大の試合後の会見で、記者からスカウト陣からの高評価を伝えられた立石はこう答えている。

「自分としては、評価されすぎじゃないかと思っています」

 立石はまだ、自分のスラッガーとしての資質に確固たる自信を持っていない。こんな自己評価も語っている。

「自分よりもっと飛ばす人はいますし、チーム内でも特別飛ばせるわけじゃないですから。今も自分が『飛ばせる選手』だとは思ってないです」

 最後に立石に聞きたいことがあった。今秋に見せたパフォーマンスは、「本来の自分に戻った」という感覚なのか、それとも「今までの自分にない新境地」という感覚なのか。すると立石は「うーん、どっちなんだろう......」と長考してしまった。

 別の記者が「力を抜くという意味では新境地かな?」と助け舟を出すと、立石は「そうですね」とうなずいた。

 立石は将来的なMLB志望を明かしている。「一番レベルが高い世界だから」というのがMLBを目指す理由だ。

 立石がスラッガーとして頂を目指すなかで、どんな姿を見せてくれるのか。たとえ不振に苦しんだとしても、そのひと振りひと振りが養分になり、見る者にとってロマンを与えるはずだ。

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