悲願のプレミア12初優勝を飾ったチャイニーズタイペイのファンが『We Are The Champions』の大合唱を東京ドームに響かせるなか、敗戦投手になった日本の先発・戸郷翔征(巨人)は一塁側ベンチ前で報道陣の取材に応じた。
「あのイニング(5回)はフォークが抜けていたので、ちょっと難しい投球になりました。(2本目のホームランを打たれた)球自体は僕のなかではすごく納得して投げたけど、そのボールをホームランにされたのがすごく悔しいです
【2本のホームランで4失点】
侍ジャパンの大会連覇を託され、プレミア12決勝のマウンドに登った戸郷は4回まで無失点。初回二死二塁から4番リン・アンクアをフォークで空振り三振に仕留めるなど、立ち上がりはこのウイニングショットをうまく印象づけた。
すると3、4回は力のあるストレートを効果的に使い、スコアボードにゼロを並べていく。慣れ親しんだ東京ドームで、危なげないピッチングだった。
勝負を分けたのは5回表。先頭打者の8番リン・ジャーチェンに2球目、真ん中に甘く入った150キロのストレートをライトスタンドのギリギリに運ばれる。失投で1点を先制されると、そこから宝刀のフォークが抜け始めた。甘い球を逃さずに仕留められた動揺や、国際大会決勝という重圧、さらに疲労ものしかかってきたのかもしれない。
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一死からライト前安打と四球で一、二塁。初回に左中間へ二塁打を打たれている3番チェン・ジェシェンを打席に迎えた。
4球目までにフォークが3球外れ、ストレートとスライダーがファウルになって迎えた7球目。戸郷は右腕を思いきり振ると、150キロの速球が内角低めの厳しいコースにいったが、ライトスタンドに弾き返された。
戸郷にとって「納得して投げたボール」だったように、捕手の坂倉将吾(広島)も同じ胸の内だった。
「打たれてしまったのでフォーカスされやすいですけど、投げた球も悪くないと思います。相手が上手(うわて)だったっていうことですね」
0対4。日本はこの2本の本塁打以外に失点を許さなかったものの、前日まで4試合続けて2ケタ安打の打線が4安打に封じ込められて完封負けを喫した。5番の栗原陵矢(ソフトバンク)が振り返る。
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「(相手投手陣は)コントロールがよかったです。バッター有利なカウントでなかなか進められなかったなと思います」
チャイニーズタイペイの先発リン・ユーミンは150キロ前後のフォーシームやツーシーム、カットボールやスライダー、チェンジアップ、カーブと多彩な球種を内外角にうまく投げ分けた。ダイヤモンドバックス傘下の3Aに在籍する21歳で、プロスペクトと期待されるだけの投球で侍ジャパンを封じ込めた。
4回を投げ終えて69球で交代。11月13日の韓国戦では5回途中で74球を投げた時点で代わっており、所属球団との約束があったのかもしれない。
2番手で登板したジャン・イー(元オリックス、西武でNPB時代の登録名は張奕)は150キロ前後の速球とフォーク、カットボールをうまく使って3イニングを無失点。
3番手で元ロッテのチェン・グァンユウ(陳冠宇)、4番手リン・カイウェイがそれぞれ1イニングを無失点に抑え、チャイニーズタイペイが完封リレーで逃げ切った。
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「力不足しかないです。勝ちきれなかった。まだまだ技術が足りないです」
最後の打者になった栗原はそう話したが、今大会トップレベルの投手たちが決勝で立ちはだかった、という格好だった。
「そうっすね。でも、打たないといけなかったです」
【国際大会の連勝が27ストップ】
国際大会の連勝が27でストップ。プレミア12ではオープニングラウンド初戦から攻守にスキのない野球で8連勝を飾ってきたが、最後の最後で勝てなかった。
今大会ではチャイニーズタイペイと3度対戦し、2勝したあとに1敗。その黒星が決勝という舞台で刻まれた。これが一発勝負の難しさと言えるのではないだろうか。ミックスゾーンで沈痛な表情を崩さない坂倉に尋ねた。
「そうですね。難しさと言えば、ずっと難しかったですけど。あらためて勝負事だなっていうのは実感させられました。最後に負けては意味なかったんで、そこは悔しさしか残らないです」
当然、勝利だけを目指した選手たちは悔しさに襲われているだろう。
だが、運の要素が多くを占める野球という競技で、ここまで勝ち続けたのは"奇跡"のような話だ。たとえば、今季セ・リーグを制した巨人は勝率.566。本来、勝ったり負けたりするのが野球という競技なのである。
もし、戸郷を5回の途中で代えていれば......。
はたして、打率.207の桑原将志(DeNA)を1番で使い続けた采配は正しかったのか......。
試合後の会見ではそのような趣旨の質問が井端弘和監督にぶつけられたが、スーパーラウンドまでは同じ戦い方で破竹の8連勝を飾っている。
もし決勝を迎えるまでに一度でも敗れていたらそうした原因を探るべきだが、最後の一発勝負で負けたあとは相手を讃えるべきだろう。ファイナルラウンド最終戦のレポートでも述べたように、チャイニーズタイペイは打倒日本に並々ならぬ意気込みで臨んできた。その執念が、侍ジャパンを上回ったということだ。
【日本は勝たなきゃいけない】
勝負事に負けていい試合はないが、負けることで得られるものはたくさんある。国際大会27連勝というプレッシャーについて聞かれた坂倉は、こう答えた。
「やっぱり決勝は雰囲気も違います。いろんなものが入ってプレーするのがこの世界ですし、そこは別にひとりで背負うものではないと思いますし。特にプレッシャーはなかったですけど、やっぱり勝たなきゃいけないんだなっていうのは、負けてみて初めて経験できたというか。日本は勝たなきゃいけないっていうのを経験できたかなっていうのはあります」
リードに正解はないなか、打たれたら捕手として責任と向き合う。いろんなチームの投手と組み、日々反省を繰り返した坂倉は2026年のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)、2028年のロサンゼルス五輪に向けてこう話した。
「まずはまたチームで頑張らないと、そういう舞台に立てないと思っているので。しっかりもう1回、個人のレベルアップもそうですし、しっかり成績を残せるように頑張りたいと思います」
2026年WBCまで井端監督の続投が決まっているなか、次の舞台でも期待したくなる選手たちが数多く現われた。今季開幕前に中継ぎへ配置転向され、侍ジャパンでも8回を任された藤平尚真(楽天)はその筆頭格だ。
「優勝して、みんなで喜びを分かち合いたかったなっていう気持ちはすごく強いです。でも個人としては、自分自身を成長させてもらえましたし、本当にもっと上を目指したいなって思った大会でした」
打率.278と状態がよかったなか、同じショートの源田壮亮(西武)に阻まれて出場機会を思うように得られなかった紅林弘太郎(オリックス)は、ここから数年でどこまで成長できるか。
第三捕手として献身した古賀悠斗(西武)は、10月末の宮崎合宿から参加した収穫をこう話した。
「一番は、課題のバッティングについていろんな話を聞けました。あとは違うチームで戦っているピッチャーがどうアップしてブルペンに入って、試合中にどういう会話をするのか。そのあたりが学びになりました。僕はこれからライオンズに戻ってやっていくので、自分がまだそういう(教えるような)立場じゃないのも承知のうえですけど、ライオンズの若手が成長していかないといけない時期のなかで『侍ジャパンではこういうことをしていたよ』と話をするだけでも違うと思います」
井端ジャパンの集大成は2026年のWBCだ。2年後に振り返ったとき、今回のプレミア12からつながっているものがたくさんあるはずだ。当然、悔しい思いをした井端監督も「次こそは」と挑んでいくはずである。
今回チーム最年長の源田が、試合後の会見でこう締めた。
「初めてジャパンのユニフォームを着た選手は、またこのユニフォームで野球がやりたいと思ったと思います。僕自身もまたこのユニフォームで野球をやりたいなとあらためて感じました。日本の野球界全体のレベルアップを選手みんなで頑張っていって、次は優勝を狙えるようにやっていければと思います」
8連勝、そして1敗。負けて終わった第3回プレミア12を糧に、日本の野球はまた強くなる道を求めていく。