「FAの話は持ち込まないようにしていたんですが、ハイタッチの時だったり入場の時だったり、(ファンに)声をかけていただけるって本当に幸せだなと感じています」
11月23日に甲子園で開催された阪神タイガース「ファン感謝デー」に参加した原口文仁選手(32、以下敬称略)。同イベントで「最優秀賞選手賞」を受賞した原口にはファンから一番の大歓声が送られ、沸き起こった「原口コール」に感謝した。
2009年の入団から右の主砲として期待されるも、度重なる怪我や、2019年のキャンプイン直前に見つかった大腸がんの手術、治療もあって、チーム内では絶対的レギュラーとは言えない原口。それでも“代打の切り札”として52試合に出場し、がんの完治も報告した2024年シーズン。
チーム内でも評価される真面目で謙虚な人柄と、ガッツ溢れるプレーでファンから愛された原口だが、来シーズンを33歳で迎えるだけにプレーできる日々も限りがある。そんなFA(フリーエージェント)権を行使した背景に、野球選手として多くの出場機会を求めたことをファンも理解しているようだ。
甲子園で沸き起こった「原口コール」には、彼の決断を尊重する、新天地でも頑張ってほしい、と快く送り出したいファンの気持ちも込められているのだろう。
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「何もないですよ」
11月11日にFA宣言してから約2週間が経過し、トレーニングを行っている甲子園のクラブハウスに集まった報道陣に、依然として他球団からのオファーがないことを明かす原口。未だ交渉の場にもつけない状況に立たされている。
埼玉出身の原口にとって地元凱旋
「一塁手やDH(指名打者)での出場が現実的で、必然的にパ・リーグのチームが理想の移籍先でしょう。中でも12球団で最下位の得点力不足に悩まされた、今シーズンを6位で終えた西武にはうってつけの人材。補強に動くと見られていました」
移籍事情に詳しいスポーツライターが指摘するように、一塁手を任されていた山川穂高(32)が福岡ソフトバンクホークスにFA移籍し、その穴を埋めきれずにいた埼玉西武ライオンズ。しかも埼玉出身の原口にとって地元凱旋、西武球団にとって営業面でもプラスに働く補強と言えよう。
同じく関東出身で、FA権を行使した大山悠輔を獲得するには、年俸4億円の複数年契約を要するとされるだけに早々に“白旗”。ならば人的補償・金銭補償も生じないCランクで、現年俸も3100万円の原口は“お買い得”にも思えるが……。
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11月24日、西武は新戦力の獲得を発表。ソフトバンクを戦力外になった、内外野を守れるユーティリティプレーヤーの仲田慶介(25)を育成契約(年俸700万円)で迎えたのだった。
本人も期待していたであろう西武からのオファー。このまま他球団からお声がかからなかった場合、懸念されるのが原口が置かれている立場だ。2015年オフに広島東洋カープからFA宣言するも獲得球団が現れず、自らの決断で“引退”危機に追い込まれた木村昇吾(44)の例もある。
FAのシビアで残酷な側面が露わに
「ネット上で“セルフ戦力外通告”と例えられた木村の宣言は、大物選手らには派手なマネーゲームが繰り広げられる一方で、FAが持つシビアで残酷な側面が露わになった騒動として認識されることに。
結局、年を跨いでも移籍先は決まらず、テスト生の形で西武キャンプに参加。広島時代の半分以下の年俸2000万円で、かろうじてプロ野球選手であり続けました」(前出・ライター、以下同)
当時の広島は宣言残留を認めておらず、退路を断って権利行使した木村。チームでは重宝されていたユーティリティプレーヤーだったが、当時35歳のベテラン選手は、Cランクでも他球団から「絶対に欲しい」選手には映らなかったようだ。
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いまだ“買い手”がつかない原口にも「セルフ戦力外」が待ち受けるのかーー。
「阪神は宣言残留を認める方針で、仮に原口と他球団の契約がまとまらなかった場合は再契約の道を残しています。それに大山が退団すれば、一塁手としての出場機会も増えるかもしれません。
ファン感では“阪神に残ってくれ”と声をかけるファンも多かったと聞きます。もちろん最後は本人が決めることですが、球団から、ファンから求められる現状が野球選手として幸せな道を歩めるのかもしれませんね」
来シーズン、甲子園でまた「原口コール」が起きるかもしれない。