F1第22戦ラスベガスGPレビュー(後編)
◆レビュー前編>>
ショーアップされたセレモニーとアメリカ国歌演奏のあとに迎えたラスベガスGP決勝で、角田裕毅(RB)は堅実なスタートを決めた。
マクラーレン勢に挟まれながらも同等の走りを見せ、最初のピットストップでは同時に入ったピエール・ガスリー(アルピーヌ)をわずかに抑えて、中団トップの座を掴み獲った。
入念なセットアップ変更の甲斐あって、タイヤのコンディションは上々だった。
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しかし、戦略面ではハースのほうが一枚上手だ。ニコ・ヒュルケンベルグはミディアムタイヤに苦しみながらも第1スティントを4周長く引っ張り、そこからはレース全体にわたって角田よりも4周フレッシュなタイヤで走るというアドバンテージを創り出した。
その背後には、僚友ケビン・マグヌッセンが角田やガスリーらピットストップ組を抑え込んでタイムロスさせる、というチームプレーもあった。
レースペースに優るヒュルケンベルグを1秒うしろに抱え、角田は懸命に抑え込み続けた。コンストラクターズランキング6位を争う相手だけに、負けられない。
1.9kmのバックストレートエンドでは2度にわたって仕掛けられたものの、インを守って必死のレイトブレーキングでポジションを守る。ロックアップをしてしまえばタイヤは壊れ、その時点でレースを失ってしまう。その限界ギリギリを攻めたドライビングだった。
だが44周目、残り6周で力尽きた。ヒュルケンベルグに抜かれ、8位を奪われた。
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それでもまだ背後には、レッドブルに乗るセルジオ・ペレス、レース巧者フェルナンド・アロンソ(アストンマーティン)が秒差で控えている。少しでも気を抜けば、入賞すらできなくなってしまう。
角田は最後の力を振り絞って自己ベスト連発の走りを続け、50周目までペレスを抑え込み続け、9位でフィニッシュを果たした。
「悔しいです」
開口一番、レースを終えた直後の角田が言ったのは、入賞できたうれしさよりも、ヒュルケンベルグに先行を許した悔しさのほうだった。
【日に日に増す角田裕毅の存在感】
続けて角田は言う。
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「やれることはやりました。ペースを見ても正直に言ってハースはレースペースがかなり速かったですし、そのなかでもギリギリまで戦えたのはよかったと思いますし、特に最後にチェコ(セルジオ・ペレス)を抑えきれたのはよかったと思います。でもまぁ......悔しいですね」
クルマから降りたヒュルケンベルグは、角田とにこやかにバトルのことを語り合っていた。
「お互いにリスペクトし合いながらいいバトルをしていましたし、もちろん向こうは勝ったんでうれしいでしょうけど(苦笑)、僕としてもいいバトルだったので、お互いに讃え合ったという感じでした」
ペレスも角田の走りを讃え、4度目のタイトル獲得を決めたマックス・フェルスタッペン(レッドブル)も角田を讃えた。
華やかなライトアップの陰で、確実に今、角田裕毅というドライバーがその存在感を強くしている。
「フリー走行のままでいっていたら、絶対にこのペースでは走れなかったと思いますし、この順位で終われなかったと思います。今週末はFP1から最後の最後までマシンを改善していくことができたとは思いますし、それはよかったですけど、それでもハースやアルピーヌと比べると、まだ少しコンマ数秒足りていなかったと思います」
純粋なパフォーマンスという点では劣るマシンで、ライバルたちよりも多くのポイントを獲得し、ランキング6位を取り戻すこと。そのためには、想像を絶するような細かな改善の積み重ねで、コンマ1秒を創り出さなければならない。
「理想を言えば、FP1からもっといい状態で走り始められれば(ドライビングの)自信をビルドアップしていくこともできますし、最後の1000分の1秒を争う部分には間違いなく影響してきます。中団グループがこれだけタイトなだけに、予選で前に行くには特にそれが重要になってくると思います。そうやって今回のように予選で最大限上位に行って、最後までもつれるようなレースをするしかないと思います」
6位ハースとは4点差、7位アルピーヌとは3点差。残り2戦で、その差を埋めることを角田はあきらめていない。
煌(きら)びやかにライトアップされる表舞台だけがF1ではない。いや、むしろその裏側にこそ真の戦いがある。角田裕毅が戦っているのは、そんな世界だ。