今、話題の人間関係リセット症候群という症状をご存じだろうか。SNSなど人間関係が鬱陶しくなり、衝動的にアカウントを削除してしまったことがあるという人もたくさんいると思う。そんなアカウント削除や会社や友人などの「衝動的な人間関係のリセット」について書かれた本が、ゆうきゆうの『人間関係リセット症候群』である。
前回は人間関係リセット症候群がどんな症状なのかを触れたが、本書ではリセット自体は完全に悪いことではなく、「いいリセット」も存在するという観点に立ってこの本が書かれているが興味深い点だ。
たとえば強烈なブラック企業でめちゃくちゃな重労働を課されていたり、複数人からいじめられていたり、恋人や配偶者からDVを受けていたり……といった厳しい環境からは、すぐに逃げて一旦状況をリセットした方がいいに決まっている。本書は、そういったリセットは積極的に行ったほうがいいという立場をとっている。
それ以外にも、「状況をリセットしたい」という欲求が人類の発展には不可欠だったという話も書かれている。そもそも人類は、個体同士の関係を築きつつ原始時代から現在までを生き延びてきた。まとまって住むことで生活は安定するが、時には集団の入れ替えがなくては進化の過程では問題が生じる。新しい遺伝子を求めて状況をリセットしようとした人間がいたからこそ、人類は地球上の広い範囲に散らばっていくことができたと、本書では説明されている。
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つまり、リセットしたい、新しい場所で心機一転したいという欲求は、成長や進化につながる本能なのだ。「いいリセットとよくないリセットがあり、よくない方は人間関係を破壊したり人格的成長につながらなかったりするので、できるだけなんとかしてみましょう」というのが、本書の主張である。
と、ここまで書いてきたのだけど、実のところ自分は「衝動的にSNSのアカウントを爆破したくなる人」の気持ちが全然わからないままここまで生きてきた。仕事を転々としたこともないし、友人関係を一気に絶ってリセットをかけようとしたこともないし、SNSのアカウントをいきなり消したこともない。引っ越したり環境が変わったりという理由で人間関係が変化することはあるが、別にそれは自然だし「衝動的な人間関係のリセット」ではないと思う。「この場から消え去りたい!」「自分が消えちゃえばいいんだ!」と思って、実際にそれをやっちゃう人のことが全然わからず、SNSなどで唐突に消える人を見ては「なんでそんなことを……?」と思っていた。
そんな人間にとって、本書は目から鱗、なるほどそういう気持ちから人間関係をリセットしちゃうのか、という発見が散りばめられたものだった。職場の人間関係がうまくいかなくて転職を繰り返す、という程度ならまだ理解できたけど、まさか「LINEやSNSを気にしすぎて気疲れしたり劣等感に苛まれたりする」という気持ちが人間関係リセットのトリガーになっていたとは。ネットでのコミュニケーションに限った話ではなく、対人関係に関する感覚や考え方が自分と根本的に異なる人がいて、その人たちは何をどう考えているのかがわかることも、本書のいいところだと思う。
『人間関係リセット症候群』は、つい衝動的に人間関係をリセットしてしまう人だけではなく、「なんであの人はすぐに人間関係をリセットしちゃうんだろう」という疑問を感じる人が読んでも得るものが多い本である。人間関係に敏感な人もそうでない人も、必要なのは相互理解。コミュニケーション方法が多種多様になり、時間と場所を問わずに人と人が繋がるようになった昨今、不要な人間関係のトラブルを避けるためにも一読をおすすめしたい一冊である。
人間関係のリセット方法の症状と対処法がわかりやすい! 話題書は下記をチェック
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