【写真】泣き笑いの絵文字が印象的な展示「常温サウナβ」
■若い世代に感情の“クロッシング”を感じてほしい
――10月12日より開催されている「エモーション・クロッシング展」。どのような内容なのかを教えてください。
「エモーション・クロッシング展」は、感情をテーマにした展示です。普段目に見ることが難しい“気持ち”をクリエイティブやテクノロジーの力で展示し、体験できるような形にしました。それによって来てくださった方たちが、自分でも気づいていなかったような感情になっていただいたり、あるいは自分以外の方がそういう感情になっている様子を見ていただいたりして「未来の暮らしの中には、こんな新しい感情の“クロッシング”、交換が起こるんじゃないか」っていうことを感じていただきたいなと思っています。
――体感型にしたのは、そのような理由からなのでしょうか?
はい。やはり未来の暮らしを想像していただくのがポイントとなっているので、いわゆる展示を観るだけではなくて体験、その先で体感するということまでしてもらいたいなと考えました。
――実際に、どのような層の方に見ていただきたいですか?
無料で入場できる施設でもあるので、特定の誰かというよりも、できるだけ多くの方に見ていただきたいなとは考えています。その中でも、あえて誰かというのであれば「未来の暮らしってどんなふうになるんだろう」と期待している若い方たち。今って、なかなか良くないニュースがあったり、前を向けないようなこともあると思うんですけど、こういうところに来たら「あ、こういう未来の暮らしもあるんだったらいいかもな」って思ってもらえるのではないかと思うので、ぜひ来てほしいです。
■それぞれの展示が伝えるメッセージ
――亀山さん自身は、これまでに「感情が可視化されたことで気付けた感情」はありますか?
「常温サウナβ Laughter Meditation」で使用されている泣き笑いの絵文字は「泣いているのか笑っているのかわからないけど、ああいう感情ってみんなあるよね」っていうことで便利に使われた例だと思っています。
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――たしかにどちらも当たり前のように使っていますけど、数年前までは言い表せていませんでした。
発明ですよね。そういう意味で言うと、絵文字の中には、楽に、スピーディーに感情を共有できるものが多いと思います。
――「Strange Deep Forest」は香りに関する新しい体験が楽しめる作品だなと感じました。
いわゆる普通の美術館では、匂いのきついものって展示できないことが多くあります。でも、本展ではそういうこともできました。「Strange Deep Forest」は、1つの空間の中に複数の香りがあって混ざり合うことも計算されていたりします。「想像していたよりも香りの力って感情と近いんだな」と話してくださる方もいて、非常に印象的だなと感じています。
――「Emotions Unveiled(解放された感情)」や「Crossing Emotions」は、感情がアートとしてアウトプットされるような作品ですね。
やはり「エモーション・クロッシング展」なので、いろんな人の感情が交差している状態を作りたいなと思いました。自分がどう思ったかをアウトプットして、他の方がどう思ったかを知れることが大事かなと。そうすることで、自分の新しい感情の気づきになったりすることが大事なんじゃないかなと考えました。
特に「Crossing Emotions」はオープンアートになっていて、見ていただいた感想を色や言葉で感覚的に入力してもらうと、この画面上に投影される仕組みになっています。そこで、同じことを体験しても、それぞれ違う感情になるということをビジュアルで見てもらえたら嬉しいです。
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――展覧会全体のことに話は戻りますが、“未来の暮らし”を考える上で“感情”にフォーカスをしたのは、なぜだったのでしょうか?
実はこの「SusHi Tech Square」での展示は、今回が第4期になるんですけど、1期目が「身体」、2期目が「都市」、3期目が「自然・環境」だったんですね。そう考えると、毎回、どんどんスケールが大きくなっていっていたので、次に開催する際には、もっと人間の内面をテーマに未来の生活や暮らしを感じていただきたいなと思ったんです。暮らしというのは、人の心や身体、繋がりなど、いくつかの要素で成り立っていると思うので、これまでやってきたこととは少し違う方法で提案するのもいいんじゃないかなと。
――なるほど。「感情」をテーマに進めていく中でスタッフの意見で印象的だったものはありますか?
感情は目に見えないものですが、人と共有するものじゃないですか。だからそれを展示や体験という形で共有できるようにするっていうのはおもしろいよねという意見が出ました。
ただ、一方で「決め付けない」ということも大切だな、と。「悲しいと思ってください」という作品を作るのではなく、あくまでもそれを見て、どういう感情が起きるか、喜怒哀楽にも分類されないような感情を表現するのが大切なのではないかと。関わっている側が、ある感情を誘導してないかっていうところは慎重にクリエイターの皆さんとも話し合いました。
――なるほど。たしかに、あまり簡易的に表現してしまうと感情の決めつけになってしまいますもんね。
はい。感情の問題を簡単に取り扱いすぎると、それはそれで危険だなと考えさせられました。世界を見てみると、伝わり方がうまくいかないから不幸なことが起きたり分断が生まれるじゃないですか。だから、自分の感情や相手の感情に対する理解とか許容とかっていうことがより進むことが、未来の暮らしでは必要なんじゃないかなって思って。決めつけず、ぶつからず、相手の気持ちを理解したり、許容したりみたいなことができるきっかけとしてのクリエイティブ体験がやりたかったんです。
――決めつけずに、許容していく…たしかに曖昧さみたいなところは感情を引き出す上で大切になってきそうですね。
例えば、ドキドキとかワクワクっていう言葉って、江戸時代の町民文化から出てきたんです。動悸がするほどのことをドキドキと、気持ちがわきあがることをワクワクと。こういうのって、今まで自分が思ってたことを誰かに伝えたかったり共有したかったりという意味では、発明だと思うんです。もちろんラベリングという危険性はありますが。
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――ありがとうございます。最後に、この展覧会を通して届けたいメッセージを教えてください。
今まで言ったことの繰り返しになってしまうのですが、クリエイティブやテクノロジーは、新しい気持ちの交流を生み出すためのものだと思っています。ぜひ見に来てくださった方には、自分の中の気づいていなかった感情に出会ってほしいですし、他の方にもそれをシェアしてほしいなって思います。(取材・文:於ありさ)
「エモーション・クロッシング展」は、12月25日まで「SusHi Tech Square」にて開催中。