実は今、北海道がアツい!? TSMCの投資額を超える巨大日の丸半導体メーカー「ラピダス」が進出し、地元経済の活性化が期待されている。本格的に稼働が始まれば、関連企業の株価も上がるはず。"ラピダス効果"を追い風にする企業を厳選して公開! ※データはいずれも11月19日時点。10銘柄すべて東証プライム市場に上場している
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■熊本のコンクリートメーカーは株価が7倍以上に
世界最大の半導体メーカーである台湾のTSMCは今年2月、熊本県に第1工場を開設した。
投資額は驚愕(きょうがく)の約1兆2900億円に上り、この莫大(ばくだい)な資金が国内の建設・土木・半導体製造機器メーカーなどさまざまな業界を潤した。来月の工場の操業開始後は、付随する人間の動きを受けてホテルや飲食などのサービス業にも恩恵が降り注ぐこととなり、周辺自治体は空前の活況を呈している。
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株式市場に目を転じると、さらに大きな資金が動いていた。例えば、有力地銀の九州フィナンシャルグループの株価は2022年の底値から一時はおよそ3.4倍に上がり、同時期コンクリートメーカーのヤマックスはなんと約7.5倍もの急騰を見せていたのだ!
ところで、今第2の熊本と目され、投資家の熱視線を浴びている地域がある。
トヨタ自動車、NTT、ソフトバンク、ソニー、NEC、三菱UFJ銀行など大企業群の出資を受け、半導体製造でTSMCに真っ向勝負を挑む新興企業・ラピダスが、北海道千歳市に工場を建設中なのだ。国の補助金を加えた総投資額は5兆円といわれており、北海道経済や関連企業へのインパクトはTSMCをはるかに上回る。
となれば、この波に乗らない手はない!
株式アナリストの宇野沢茂樹氏いわく、ラピダスのプロジェクトでは政府・民間の双方から本気度が伝わってくるという。いきさつはこうだ。
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「1980年代後半から90年代前半にかけて、日本の半導体メーカーは世界シェア50%を超える圧倒的な勝ち組でした。それが米国、韓国、台湾に次々と抜き去られ、国内の半導体産業は風前のともしびに。ところがここにきて復活の芽が見えてきました。そのきっかけは中国・ロシア連合と米国の対立構造です」
米中はかねて半導体を含め先端技術を競い合うライバル関係にあった。だがそれと同時に、アップルをはじめとする米国ハイテク企業のサプライチェーンにおいて、中国の工場は欠かせない存在でもあった。
それがロシアのウクライナ侵攻の影響もあり、米中は政治的な対立を深めていく。中国の台湾併合が懸念されるようになると、中国からの生産拠点引き揚げが本格化。同時に、半導体の生産をTSMCの台湾工場に任せておくことのリスクが意識されるようになったのだ。
「日本は半導体の製造装置や素材分野ではいまだ世界トップであることに加え、優秀な労働力を多く抱えています。そこで、半導体の工場やデータセンターなどを日本に移す動きが加速しているのです。
その受け皿になっているのが北海道。半導体の生産に不可欠な水資源や、膨大な熱を発するデータセンターに適した冷涼な気候に恵まれているのが大きいですね」
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この動きを受けて、政府も支援を本格化。北海道を国家戦略特区に指定し、再生可能エネルギーや水素エネルギーなどの振興へ躍起になっている。
■ラピダス投資の恩恵を受ける企業とは?
ラピダスの工場建設と経済特区指定の追い風を受ける分野は、大きく3つに分類できると宇野沢氏は言う。
「ひとつ目が半導体工場やデータセンターの建設・操業に関わる企業です。ふたつ目は、これらの企業を脇から支える役割や、国内の有力企業や取引先とのパイプラインの役割を担う企業。そして3つ目が、千歳や札幌周辺の経済を盛り上げる企業です。
ひとつ目の代表格として有望なのが、建設機械のレンタルを手がけるカナモト。同社のポイントは札幌に本社を置く地元企業であることと、熊本のTSMC工場建設においてすでに実績があることです」
同社の売上高は2000億円規模で、上場企業の中では中堅といえる。それだけに、今回の道内投資ブームが業績に与えるインパクトは大きい。
「北海道は首都圏に比べて同業他社との競争が激しくないので、価格のダンピングを行なわずに済むのも見逃せないところ。つまり利益を確保しやすく、収益が安定します。
PER(株価を1株当たり利益で割った指標で、小さいほど割安)12倍程度と株価も手頃で、まだ気づかれていない有望銘柄の筆頭格といえます」
続けて宇野沢氏から名が挙がったのは、北海道の最大手金融機関である北洋銀行だ。
「同社は道内の預金シェア、貸出金シェア共に約4割を占めるトップ銀行です。道内で新たに投資が盛り上がれば、資金面から支える同社の貸出需要が増加し、利益は拡大します。
同社の経営陣は経済特区指定を受け、半導体関連や再生可能エネルギーへの融資を拡大すると宣言。国内外の環境ビジネス投資のうち30兆〜40兆円は呼び込みたいと、鼻息を荒くしています」
地域で働き生活する人が潤えば、住宅ローンや金融商品の取引も活発になる点も見逃せない。株価はPER10倍と、こちらも割安だ。
続けて、道内経済の盛り上がりを支える担い手のひとつに、宇野沢氏はファイバーゲートを指名した。
「アパートやマンション、観光施設、商業施設などのWi−Fiサービスと、通信機器の製造・販売を行なっています。札幌に本社を置く地元企業で、すでにラピダス千歳工場の建設作業員用宿舎にWi−Fiサービスを提供しています」
同社の売りは、商材である通信機器を自社で製造していること。納品先に応じてカスタマイズできるため、他社製品を仕入れて設営するライバル企業に比べ、価格競争力の点で優位に立てるのだという。
「指標を見ても、同社のROE(純利益を自己資本で割った数値で、高いほど収益力に優れている)30%は尋常ではありません。これはつまり、案件をこなせばこなすほど利益が膨れ上がることを意味します。
札幌・千歳周辺に人口が流入するにつれ、住居や商業施設向けの同社サービスの引き合いも増えるでしょう。そうして利益が激増すれば、当然株価も跳ね上がります」
このほかにも有望株はまだまだあるので、下記を参考にしてほしい。どれも株価が上昇しやすい、中小型株から宇野沢氏が厳選した銘柄だ。冬のボーナスをどの株に投じるか、考えてみるのも一興では?
★注目の北海道株リスト10選
●カナモト(9678)サービス業
《最低購入価格》27万9800円
《配当利回り》2.68%
【企業概要】建設機械のレンタルが主力で、札幌本社・東京事業本部を拠点に広域展開。公共事業の堅い需要をベースに、クリーンエネルギー特需と半導体工場建設を見込んで強気に攻める
●北洋銀行(8524)銀行業
《最低購入価格》4万3600円
《配当利回り》2.98%
【企業概要】道内メインバンク動向調査では15年連続首位で貸出金シェアが約4割と、北海道経済の心臓部といえる存在。札幌市の「GX金融・資産運用特区」指定で受ける恩恵は計り知れない
●岩谷産業(8088)卸売業
《最低購入価格》19万3600円
《配当利回り》1.68%
【企業概要】カセットコンロのイメージが強いが、産業用のLPガスやヘリウムガスなども手がける。水素の製造・供給はシェア7割と国内トップで、次世代クリーンエネルギーの主役を担う存在だ
●ファイバーゲート(9450)情報・通信
《最低購入価格》9万円
《配当利回り》3.00%
【企業概要】マンションなどの集合住宅や観光・商業・医療施設向けにWi-Fiサービスを提供。通信機器を自社製造しているため価格面で競争力があり、施設需要の増加から受ける恩恵は大きい
●ダイセキ(9793)サービス業
《最低購入価格》37万8000円
《配当利回り》1.75%
【企業概要】廃油や廃液・汚泥といった産業廃棄物の処理・リサイクルで25%のシェアを誇る。工場建設需要に加え半導体製造プロセスは廃液などの環境負荷が大きく、同社の出番が増えそうだ
●北海道電力(9509)電気・ガス業
《最低購入価格》8万8170円
《配当利回り》2.27%
【企業概要】工場立地・データセンター立地共に電力はそのカギとなる。クリーンエネルギー推進や同社の泊原発再稼働は道内経済の基盤となるもので、実現すれば株価への跳ね返りは大きい
●長野計器(7715)精密機器
《最低購入価格》25万3300円
《配当利回り》1.82%
【企業概要】水道やガスなどの圧力を計る機械式圧力計で世界トップ。半導体の製造プロセスではさまざまな流体の精密な圧力管理が不可欠であり、最高純利益更新や増配が今後も期待できそう
●さくらインターネット(3778)情報・通信
《最低購入価格》46万9500円
《配当利回り》0.09%
【企業概要】国内企業で唯一、政府が利用するクラウドサービスのひとつに認定され存在感は爆上がり! 同社が道内で運営する石狩データセンターは再生可能エネルギーを活用している
●豊田通商(8015)卸売業
《最低購入価格》27万3050円
《配当利回り》3.66%
【企業概要】トヨタ系列の総合商社で、自動車関連事業で利益の7割を稼ぐ。近年は北海道を中心とする風力発電で国内トップのユーラスエナジーを完全子会社化。再生可能エネルギー事業を推進中
●アジアパイルHD(5288)ガラス・土石製品
《最低購入価格》7万8600円
《配当利回り》5.73%
【企業概要】構造物を支えるコンクリートパイル(基礎杭)の製造・施工で国内トップ。すでに熊本のTSMC工場建設で業績を伸ばしており、道内の半導体工場やデータセンター建設も追い風になりそう
取材・文/日野秀規 写真/時事通信社 共同通信社