北中米で開催される「FIFAワールドカップ26」の出場を目指すサッカー日本代表は、現在アジア最終予選を戦っており、15日にインドネシア代表と対戦して4−0、19日に中国代表と対戦して3−1で11月の試合を連勝で終えた。この結果を受けて勝ち点を16まで積み上げた日本代表は首位を独走。3月に開催予定の次戦で勝てば、早くもワールドカップの出場権を獲得することになった。
連勝した日本代表が属するグループCだが、19日の試合では10月まで3位につけていたサウジアラビア代表がインドネシア代表に敗れ、2位だったオーストラリア代表はバーレーン代表を相手に引き分けた。その結果、日本の勝点「16」に対し、オーストラリアは勝点「7」、その他の国は全て勝点「6」で並ぶことになった。
◆「ほぼほぼ当確が出た状態」に
最終的にグループ2位以上になればワールドカップの出場権を得られ、3位、4位になればプレーオフに回ることになるのだが、グループCは日本代表の1強状態となっている。残りは来年3月20日にホームでのバーレーン代表戦、同月25日(火)もホームでのサウジアラビア代表戦、6月5日にアウェイでのオーストラリア代表戦、同月10日にホームでのインドネシア代表戦の4試合となっている。
グループ首位の日本代表は、その4試合で1勝でも挙げれば2位以内が確定し、ワールドカップの出場権を得られることになった。仮に4試合で1勝もできなかったとしても、3分1敗の成績で出場権を自力で獲得できる。スポーツの結果は何が起こるかわからないとはいえ、今回の結果でほぼほぼ当確が出たといえる。
◆「日本代表の力を削ぐこと」に力を注ぐ?
さらに、グループCはどのチームも2位以内に入ることが可能な状況で、得失点差が大きく影響するほど2位以下は混沌としている。現段階で他チームが日本代表と対戦するときは、勝つ可能性を突き詰めるよりも負けないような戦略を立ててくることが予想される。ピッチ幅を通常より4メートルも狭めてきた中国のように、日本代表の力を削ぐことに力を注いでくることだろう。
幸いにして、残り4戦のうち3戦はホームの埼玉スタジアム2002での開催のため、今回の中国代表が行ったような奇策はないが、得点圏から離れたところでのファウルが増えたり、アウトオブプレーで時間を稼いだりと、これまで以上に日本代表が嫌がることを行ってくる可能性が高まった。
◆「FIFAランキング」の順位を伸ばしておきたい理由
気を抜くことなく戦い出場権の獲得を確定させなければならないが、これまでよりも本大会を見据えた戦いに比重をシフトしなければならない。
残りを3分1敗でも出場権を得られると説明したが、来年11月まではできるだけ勝っておきたいところだ。本大会の抽選会は来年末頃に行われる予定だが、直前のFIFAランキングを基にシードが決まり、抽選時にポッド分けされる。次大会から本大会の出場国枠が32カ国から48カ国に増え、グループリーグも4チームずつ8組から4チームずつ12組になった。
すでに開催国の3カ国は組分けされており、メキシコがグループA、カナダがグループB、アメリカがグループDに入ることが決まっている。この開催国シードを除けば、あと9カ国が第1シードとなりポッド1に入るのだが、現在最新の10月24日付FIFAランキングでいえばアルゼンチン、フランス、スペイン、イングランド、ブラジル、ベルギー、ポルトガル、オランダ、イタリアとなる。現在の日本は15位なので、第2シードとなりポッド2に分けられることが濃厚といえる。また、開催国のメキシコが16位、アメリカが18位なので、各国が順当に予選を突破すればポッド2は23位までの国が入る。
今の日本が約1年で8つも順位を落とすことは考えにくいので、ポッド2以上はほぼ確定しているといってもいい。前回のワールドカップ以後2年間で順位を8つ上げている日本だが、残りの約1年間で9位以内となるのは難しいだろう。ただ、前回大会では当時のFIFAランキングが6位だったイタリアが予選で敗退した。それによってシード国は繰り上げされたのだが、今回もそういったことが起こり得る可能性はあるので、ひとつでも順位を伸ばしておきたいところだ。
前回大会でいえば、順位が2つ低かったがためにポッド3となり、スペインやドイツと同組となった。結果的に両チームに勝利して決勝トーナメント進出を果たしているが、やはりグループステージから優勝経験国と戦うのは避けたいのが、誰しもの本音だろう。
◆層が薄い「左サイドバック」を発掘する必要が
気を抜かずに勝たなければならないなかでも、本大会を見据えると戦力の拡充も図りたい。
冨安健洋、伊藤洋輝に加えて谷口彰悟も負傷し、今回は瀬戸歩夢、板倉滉、町田浩樹といった急造の最終ラインで挑んだが、チャレンジ&カバーなど基本的な守備の連係でミスがありピンチを招いていた。この点においては、いつ負傷者が出るかわからないので、誰が出ても最低限の質を担保できるようにしておかなければならない。
今の日本の強みには異なるシステムを高水準に使い分けられることが挙げられるのだが、こちらも負傷者続出による左サイドバック不在のため停滞している状況だ。これまで日本代表で左サイドバックを経験してきた選手に負傷が続出している不運はあるものの、このポジションの層の薄さは長年の課題。これまでは長友佑都の獅子奮迅の活躍によって、この課題は封印されていたが、点取り屋といわれるストライカーと同様に左サイドバックも枯渇しており、ワールドカップ以後の将来を見据えても発掘・育成に取り組まなければならない。
◆選択肢が少なすぎる「攻撃面の戦術」
攻撃面でいえば、相変わらず戦術は選手任せで統一感がない。
中国代表戦でいえば、後半32分に伊東純也と橋岡大樹が交代したことによって、久保建英はそれまでより外側にポジションを取るようになった。その7分後の後半39分に久保は交代することになったが、代わって入った前田大然のポジショニングは内側だった。その7分間で中国代表も交代を行っているが、大きな状況の変化はなかったことを踏まえると、久保と前田の交代は戦術的意図というより疲労を考慮した交代といえる。しかし、ポジショニングに大きな違いがあり、それはチームの意図ではなく選手個々の判断ということが推察できる。
鎌田大地の投入には縦関係のポジションチェンジを活性化させたいという戦術的な意図を感じたが、鎌田はいつもどおりプレーしただけで特別に戦術的な指示を受けたようには見えなかった。
森保一監督が主張するように起用する選手で戦術を変えるという方法は、たしかにある。ただし、それでも最低限の決め事はある。アジア最終予選も半分を終えたが、その点における成長は感じられない。選手の起用によって戦術を変えるといっても、人材不足で4バックのシステムが使えない今、ウイングバックに誰を起用するかぐらいしか戦術の手札がないように思える。幸いにして、今回は鎌田大地が違いを見せてくれたため、インサイドハーフで南野拓実、久保建英、鎌田大地の誰を起用するかによっての戦術的な違いも手札としたかもしれない。それでも選手のポテンシャルを考えると、選択肢が少なすぎる。
本大会で勝つことを前提とすると、戦術的な手札の増加が最も急務である。現状の考え方、戦略で通すならば、人も組み合わせもできるだけ多くのパターンを試してふるいにかけたい。
<TEXT/川原宏樹 撮影/Norio Rokukawa>
【川原宏樹】
スポーツライター。日本最大級だったサッカーの有料メディアを有するIT企業で、コンテンツ制作を行いスポーツ業界と関わり始める。そのなかで有名海外クラブとのビジネス立ち上げなどに関わる。その後サッカー専門誌「ストライカーDX」編集部を経て、独立。現在はサッカーを中心にスポーツコンテンツ制作に携わる