17日に投開票された兵庫県知事選挙で当選した斎藤元彦知事。兵庫県のPR・広報会社、株式会社merchu(メルチュ)の代表・折田楓氏が斎藤知事の選挙運動においてSNS戦略の企画立案・運用を担ったとサイト「note」上で公表し、斎藤陣営から報酬が支払われていた場合は公職選挙法違反の可能性があると指摘されている問題。斎藤知事は25日の記者会見で、SNS運用について「(メルチュ社から)ご意見はうかがったり、アイデアは聞いたりしました」としつつも、報酬は支払っていないと説明。また、メルチュ社が斎藤知事の選挙運動の広報全般を任され、SNSの運用戦略立案を担っていたと折田氏がnote上に綴っていることについて、斎藤知事側は神戸新聞の取材に対して「事実と異なる」と明言した。選挙取材の経験がある全国紙記者は「現時点で公職選挙法および政治資金規正法に違反していることを示す明確な根拠はなく、最終的には斎藤知事による違法行為はなかったという結論になる可能性がある。そうなれば、またテレビなどのオールドメディアがミスリードしたと批判があがる事態になるのでは」という。
メルチュ社の代表・折田楓氏は今月20日、「note」上に、同社が今回の斎藤知事の選挙運動の広報全般を任され、監修者としてSNSの運用戦略立案、アカウントの立ち上げ、プロフィール作成、コンテンツ企画、文章フォーマット設計、情報選定などを責任を持って行い、具体的には以下を担当したと主張していた。
・コピー考案、メインビジュアル作成、デザインガイドブック作成(選挙カー・看板・ポスター・チラシ・選挙公報・公約スライドの制作に利用)
・SNSのハッシュタグを「#さいとう元知事がんばれ」に統一
・X(旧Twitter)本人アカウント、X公式応援アカウント、Instagram本人アカウント、YouTube公式チャンネルの管理・監修・運用
また、以下のとおり会社の業務として取り組んでいたとも綴っている。
「そのような仕事を、東京の大手代理店ではなく、兵庫県にある会社が手掛けたということもアピールしておきたいです」
「『広報』というお仕事の持つ底力、正しい情報を正しく発信し続けることの大変さや重要性について、少しでもご理解が深まるきっかけになれば幸いです」
公職選挙法では、インターネットを利用した選挙運動を行った者に、その選挙運動の対価として報酬を支払った場合には買収罪の適用があると定められている。そのため斎藤知事が公職選挙法に違反しているのではないかという指摘が相次いだが、斎藤知事は25日の会見で、SNSの運用や企画立案をメルチュ社に委託した事実はないとし、メルチュ社からSNS運用について「ご意見はうかがったり、アイデアは聞いたりしましたけど、斎藤元彦陣営・斎藤元彦として、主体的に対応した」と説明。ボランティアで選挙運動に参加してもらっていたという認識だと語った。また、ポスターなどの製作費として70万円を支払ったと説明した。
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斎藤知事の後援会名義でメルチュ社に支払われた費用の内訳は、以下のとおり。
・メインビジュアルの企画・制作:10万円
・チラシのデザイン:15万円
・ポスター・デザインの制作:5万円
・公約スライドの制作:30万円
・選挙公報デザイン制作:5万円
上記は税抜きで合計65万円、消費税込みで71万5000円。マーケティング支援を行う企業の管理職は「作業期間が1〜2カ月程度のボリュームであったとすれば、金額的には不自然ではない」という。
支払日は告示日(10月31日)後の11月4日。公示前に選挙期間中の使用が認められている文書図画を事前に制作するなどの立候補準備行為を行い、それに伴い対価を支払うことは法律上認められている。また、公示後も選挙事務所内で事務作業をする人、車上運動員、手話通訳者、ポスター製作を委託した業者などに報酬を支払うことは公職選挙法上は認められている。
また、公職選挙法では「国又は地方公共団体と、請負その他特別の利益を伴う契約を結んでいる個人・法人」は「その地方公共団体の議会の議員及び長」の選挙に関連する寄附ができないと定められており、もし仮にメルチュ社もしくは折田氏が選挙期間中に兵庫県と請負契約を結んでおり、かつ斎藤知事側への無償の選挙協力が寄附と認定されれば公選法違反となる。このほか、政治資金規正法では「会社その他の法人又は団体は、公職の候補者等に対する寄附をすることができません」と定められており、メルチュ社が法人として選挙期間中に斎藤知事側へ無償の選挙協力を行っており、それが寄附と認定されれば政治資金規正法違反となる。
中央大学法科大学院教授で弁護士の野村修也氏は公式X(旧Twitter)アカウント上で次のように解説している。
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<争点は、選挙期間中に、PR会社が兵庫県の請負業者だったか否かと、今回の選挙で行われていたボランティア活動が「会社による寄附」と認定されるか否かの2点に絞られることになる。?(編集部追記:=政治資金規正法で禁じられている公職の候補者に対する会社の寄付に該当するかという問題)についても、今回の選挙で行われていたボランティア活動が「会社による寄附」と認定されるかどうかによって結論が変わってくる。TVでは、いろいろな憶測が飛び交っているようだが、論点はかなり絞られている>
全国紙記者はいう。
「まず、斎藤知事側がメルチュ社に支払ったお金が約70万円のみだとすれば、その金額内でデザインなどの計5項目に加えてSNS戦略の企画立案から選挙期間中の運用までを一手に行うのは無理であると考えられるため、公選法で認められない業務を有償で委託していたかどうかという問題はクリアされることになります。残りは折田氏による斎藤知事側への意見やアイデアの伝達が寄附に当たるかどうかという問題ですが、たまに斎藤知事側が折田氏から意見を聞いていたというだけで、それが寄附に該当すると考えるのはちょっと難しい気もします。その意見が折田氏個人のものなのか、メルチュ社としてのものなのか、そして意見の頻度・程度の度合いがどうだったのかという観点で、選挙管理委員会が判断することになるが、寄附と認定されずに、結局、斎藤知事は何の違法行為もおかしていませんでしたという結論になる可能性も十分にあります。
もしそうなれば、まるで斎藤知事の公選法違反が濃厚であるかのように煽ってきたテレビは、また世間から『やっぱりオールドメディアは信用できない』と叩かれ、さらに信用を落とすことにつながるでしょう」
もし仮に斎藤知事の選挙運動が適法だと認められたとしても、大きな疑問は残ると同記者はいう。
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「もし斎藤知事がメルチュ社にSNSに関する業務を委託しておらず、対価も支払っていなかったとすれば、なぜメルチュ社はざわざわ公選法違反を疑われるような投稿を自発的にしたのかが不可解です。会社にとっては何のメリットもなく、その点は腑に落ちません。また、もしメルチュ社として違法行為を行ったという認識がないのであれば、会見なりを開いてきちんと説明すれば済む話ですし、会社のサイト上に経緯を説明するリリースを掲載するという手段も取れるのに、折田氏が雲隠れ状態で一切の説明を避けている点も疑問です」
行政書士で選挙プランナーの戸川大冊氏も11月26日付当サイト記事で次のように疑問を呈していた。
「メルチュ社がサイトに投稿した記事によれば、同社は公示前の10月上旬からSNS戦略の企画・運用に携わっていたとみられますが、公示前であれば選挙運動ではなく政治活動への協力となり、仮に公示前に有償で業務を受けていたとすれば形式上は適法となります。ただ、もし仮にメルチュ社がボランティアで協力していたとすれば、そのように記述するのが自然ですし、会社のイメージとしてもそのほうが良いでしょうから、わざわざ報酬を受け取ってるかのように虚偽の説明を行う合理的な理由が見つからないという点は疑問を感じます」
PR・広報会社としてのメルチュ社の振る舞いにも疑問が寄せられている。当該「note」記事には、メルチュ社が斎藤知事に示した提案資料の一部である「SNS運用フェーズ」の画像が掲載され、10月1日より順次「立ち上げ・運用体制の整備」「コンテンツ強化(質)」「コンテンツ強化(量)」を行うというスケジュール案が記載されていたが、指摘が出始めた後にその画像を削除。今回の県知事選の告示日は10月31日だが、告示日より前の選挙運動は公職選挙法により禁止されている。
マーケティング会社役員はいう。
「企業が実績のPRや宣伝のために自社が手掛けた顧客・ユーザーの導入事例を公表する場合、その相手顧客の合意を得て、かつ公表する内容を事前にチェックしてもらうというのはビジネス上の常識。斎藤知事側のコメントを見る限り、それを怠っていたとみられ、ビジネスの進め方として問題がある行為といえ、そうしたミスを顧客にPR・広報の助言を行う立場の会社がおかしたということになる。PR・広報を主たる業務とする会社が自社のPR・広報活動で大きな問題を招いてしまったという点も、同社の信用低下につながるのは避けられない。そして、やはり気になるのは、なぜ指摘が広まった後に何の説明もなしでnote記事の一部を削除したのかという点だ。問題が広まった後に説明なしでこのような行為を行うというのも、PR・広報のルールとしては問題がある」(11月23日付当サイト記事より)
メルチュ社は21日にANNの取材に対して、「(弁護士から)『答えるな』と言われています」などとして、公の場での説明を行っていない点にも疑問が寄せられているが、斎藤知事の代理人弁護士はメルチュ社と連絡が取れない状態だと説明している。
(文=Business Journal編集部)
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