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「肉弾戦なし」「追加プリキュアなし」でも“わんだふるぷりきゅあ!”の売り上げが絶好調です。その好調の要因はどこにあるのでしょうか?
少子化や市場変化の中で、「子ども向けアニメ」と「大人向けグッズ展開」とのはざまで揺れるプリキュアの現状を見てみます。
●「わんだふるぷりきゅあ!」絶好調
2024年11月6日、バンダイナムコHDの2025年3月期の中間決算の短信が発表されました。
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プリキュアの関連商品の売り上げであるトイホビー売り上げは上半期(4〜9月)で32億円。昨年同期の28億円と比較して114.3%と好調な推移となっています。この好調を受け、通期見込みも60億円から70億円へと上方修正されました。
玩具業界誌においてもプリキュアの好調が報じられ、キュアニャミー、キュアリリアンの変身アイテム玩具「シャイニーキャッツパクト」は人気のあまり入手が困難な状況が続いています。
また、2024年10月30日には「東映アニメーション」の中間決算短信も発表され、プリキュアの「国内版権売り上げ」は上半期3億4400万円。昨年上半期の2億5500万円から134.9%の大幅アップとなりました。
決算短信では「プリキュアシリーズのショップ事業が好調に稼働」との記載も見られ、グッズ関連の好調さもうかがえました。
さらに、2024年9月13日に公開となった映画「わんだふるぷりきゅあ!ざ・むーびー!ドキドキ・ゲームの世界で大冒険!」は興行収入12億円を突破し、オールスターズ映画を含めた全プリキュア映画の中で「歴代2位」の興行収入を記録しています。
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「わんだふるぷりきゅあ!」はバンダイの関連商品、東映アニメーションの国内版権、そして映画と全てにおいて好調な推移となっています。
●好調の要因は?
「肉弾戦がない」「追加プリキュアがいない」という、従来のプリキュアシリーズのパターンを変えながらも、好調が続いている「わんだふるぷりきゅあ!」。その好調の要因は何なのでしょうか?
まず大前提として、「プリキュア」ブランドの定着による信頼感に加え、「わんだふるぷりきゅあ!」が「子ども向けアニメーション」として丁寧に作られている点が挙げられます。
そして「肉弾戦がない」とはいえ、アクション自体は豊富で毎回キラリンアニマルたちを駆使したアイデアあふれる戦闘シーンも楽しく、パンチやキックがなくても「プリキュアのアクション」が成立することを証明しています。
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また「肉弾戦がない」ことは、小さなこどもたちにはプラスに作用しているようで、SNS上では「今作は怖いシーンがないので子どもが楽しく見ている」などの声も多数聞かれます。
さらに、いろはちゃんと兎山悟くんのストレートな甘い恋愛描写も描かれ、例年ならばプリキュアを卒業してしまう「小学生女子」を引き付けているようです。
「わんだふるぷりきゅあ!」は、これまでとは異なる層にもアプローチができているのです。
●「追加プリキュア」が登場しない?
また、「追加プリキュアが登場しない」のもプラスに働いているようです。
例年のプリキュアシリーズでは毎年5〜6月に「新しいプリキュア」が登場し、物語を盛り上げると同時に「新しい専用変身アイテム」などの玩具も発売され、市場を盛り上げます。
しかし、「わんだふるぷりきゅあ!」では初期に発表された4人のみが活躍し、いわゆる「追加プリキュア」は登場していません。
追加プリキュアが登場しないにもかかわらず、それが売り上げに全く影響していないどころか昨年対比で上がっているのです。
これは、バンダイのおもちゃの販売スケジュールを見てみるとその理由がよく分かります。
2月に「変身アイテム」「妖精アイテム」が、3月に「武器アイテム」が発売され、5月にキュアニャミーとリリアンの新しい変身アイテム「シャイニーキャッツパクト」と専用武器アイテム「アミティリボンタンバリン」が発売されています。
実はこれは、「追加プリキュアがいるときと同じ玩具販売スケジュール」なのです。
すなわち「キュアニャミー、キュアリリアン」が、販売戦略上は追加プリキュアの位置にいるのです。
「わんだふるぷりきゅあ!」は「追加プリキュアがいない」のではなく、「追加プリキュアが最初から発表されていた」といった方が正しいかもしれません。
「追加プリキュア」を最初から発表しておくことにより、多くのメリットが生まれました。
2月の放送開始時点からキュアニャミー、キュアリリアンのグッズ展開ができ、実際にこの2人のグッズは放送開始から売り上げも好調だったようです。
また例年だと、後半になって「新しいプリキュア」が登場すると、お菓子などの食品関係はパッケージをリニューアルする必要があったり、初期メンバーしか描かれていない衣類やグッズが陳腐化して売れなくなってしまうため、それならば最初から全メンバーを発表しておくのは、ある意味合理的なのかもしれませんね。
最初から「追加プリキュア」を発表し柔軟なグッズ展開ができていたのは、少なくとも今作では売り上げ的には有利に働いていたのではないでしょうか。
●少子化によるターゲット層の変化
プリキュアの売り上げを伸ばしている要因として、「大人向けグッズ」の展開もあるようです。
従来のプリキュアのメインターゲットは「子ども」です。しかし日本では少子化も進み、2024年の出生数は年間70万人を割る予測も出ていて「子ども向け」だけではプリキュア市場の成長が見込めなくなっているのも事実です。
そこで、「プリキュア20周年」を迎えた2023年から「かつてプリキュアを見ていた世代に向けた戦略」を公言するようになっています。
バンダイ常務取締役トイ事業部の辻太郎氏は、おもちゃ業界誌の中でプリキュアは「大人向け商品の販売にも力を入れている」ことを明言しています。
バンダイ トイ事業部、ライフスタイル事業部担当 辻太郎氏プリキュアなどは過去作品を視聴する子どもも増えていますし、大人層にも広がっています。また「なりきり」に特化したイベントの実施や大人向け商品の販売にも力を入れているなど、それぞれに合った展開を試行錯誤しながら進めています。東京玩具人形協同組合 月間トイジャーナル 2024年7月号(P46)
もちろんプリキュアのアニメーション自体は「子ども向け」なのですが、周辺のグッズ展開では確かに「大人向け」のものも多く発売されるようになっています。
これら3つの要因により、「わんだふるぷりきゅあ!」は売り上げを大きく伸ばしているのではないかと思われます。
●「わんだふるぷりきゅあ!」の売り上げ好調を支える3要因
(1)怖くてプリキュアを見られなかったお子さまや恋愛に興味のある小学生女子など新規層の獲得
(2)追加プリキュアが最初から発表されることによる柔軟なグッズ展開
(3)大人向け展開の促進
●大人向け展開の「弊害」とは
しかし、「大人向け」施策には弊害も生まれつつあります。
一部の大人プリキュアファンが「子どもたちとファミリー向け」の領域にまで踏み込み、ファミリーに迷惑を掛けてしまうトラブルが今まで以上にSNS上でも観察されるようになってきています。
もちろんトラブルを起こしてしまう大人は今に始まったことではなく、過去からずっとその存在は確認されています。
しかし、最近はそれが顕著に目立つようになってきているのも事実です。
プリキュアのイベントは、
(1)大人ファンが来場することを前提としたイベント(プリキュアライブや感謝祭など)(2)規模の大きいプリキュアショーやイベント(3)住宅展示場や商業施設などでの小規模なファミリー向けイベント
に大きく分かれています。
ファン層の拡大により、最近では大人ファンの一部が地方の小規模なファミリー向けイベントにも行くことが増え、そこで問題となる例も増えてきているようです。
もちろん、プリキュアのイベントを大人ファンが見ることに何ら問題はありません。ただ、大前提として「お子様、家族連れに迷惑を掛けない」ことが求められます。
最近ではプリキュアの「ファミリー向けイベント」では、「大人のみでの参加は配慮ください」との注意書きがされるようにもなってきています。
●「プリキュア音楽&映像商品公式X」から引用
本イベントはファミリーイベントです。大人のみでの参加のお客様は、ファミリーやお子様が参加しやすいようにご配慮ください。
全国規模で開催されているプリキュアの大型キャラクターショー「わんだふるぷりきゅあ! ドリームステージ♪」では「大人のコスプレ禁止」に加え、「大人が奇声や大声を上げたり、お子様に話しかけてお子様が怖がるケース」が報告されていることが記載され、「大人の方は留意してほしい」旨の注意喚起がWebサイトに記載されています(これは2024年からではなく、自分が観測できる範囲では5年前(2019年)からありました)。
わんだふるぷりきゅあ! ドリームステージ公演にご来場のお客様へお願いとご注意本公演につきましてはコスプレをした状態の大人のお客様の、ご来館及びご観劇を禁止とさせて頂きます。何卒ご理解賜りますようお願い申し上げます。大人のお客様で、奇声や大声を上げたり他のお子様に話しかけたりする事象があり、その結果お子様が怖がってしまうケースが報告されております。皆様に楽しんでいただくために、特に大人のお客様におきましては、十分に御留意いただきますようお願い申し上げます。ダンスレクチャータイム以外の撮影・録画・録音は一切禁止です。また、ダンスレクチャータイム中に写真撮影が可能なタイミングはMCからお伝えいたします。なお、三脚類や自撮り棒などを使用しての撮影行為は禁止です。予めご了承願います。「わんだふるぷりきゅあ! ドリームステージ♪」Webサイトから引用
例年開催される「プリキュアライブ」などの有料のイベントでは「親子席」が用意されたり、住宅展示場でのイベントなどでも「最前列にお子様席が用意」されることも多いのですが、全てのイベントで対応できているわけではありません。
また、2023年には非公式の着ぐるみで子どもに接触する行為があり、公式からXで注意喚起が出るといったこともありました。
●お子さまに迷惑を掛けない
プリキュア20周年を機に、プリキュア公式側も今までは明言していなかった「大人層への展開」を公言し、商品ターゲット層の一つにしてきています。
それはターゲット拡大のためとても良いことで、事実売り上げも伸びているのですが、その弊害で一部の大人が「子どもたち」の領域にまで踏み込み迷惑を掛けてしまう事例が今まで以上に観察されるようになってきています。
もちろんルールやマナーを守っている大人ファンが大多数なのですが、ごく一部のルールやマナーを守らない大人のために、子どもたちが怖い思いをしてしまっては子どもたちに申し訳ないですし、ひいてはプリキュアというコンテンツの衰退につながってしまいます。
明文化された「ルール」を守るのは当然として、「マナー」に関しては個々人にゆだねられる部分も多く、大人ファンのモラルが試される機会もこの先さらに増えてくるものと思われます。
大人向けのグッズもあるからといっても、プリキュアのメインターゲットはお子さまと家族連れであることは変わりません。
プリキュアのイベントにおいては、大人ファンのお客さまは「お子さま、家族連れには絶対に迷惑を掛けない」という古(いにしえ)からの不文律を再度、心に留めておく必要がありますよね。
自戒を込めて。
(C)ABC-A・東映アニメーション
●著者:kasumi プロフィール
プリキュア好きの会社員。2児の父。視聴率などさまざまなデータからプリキュアを考察する「プリキュアの数字ブログ」を執筆中。2016年4月1日に公開した記事「娘が、プリキュアに追いついた日」は、プリキュアを通じた父娘のやりとりが多くの人の感動を呼び、多数のネットメディアに取り上げられた。
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