「イオンでウォーキングする」文化は流行るのか? 実際に体験して「厳しそう」だと感じたワケ

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2024年11月29日 08:31  ITmedia ビジネスオンライン

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イオンモールウォーキング、企業側の利点は? (プレスリリースより引用)

 ウォーキングする場所といえば、公園や遊歩道を思い浮かべる人が多いだろう。こうした中、ユニークな場所でウォーキングすることを推奨する動きがある。イオンモールの中をウォーキングする、その名も「イオンモールウォーキング」だ。


【画像】イオンモール、ウォーキングしてみた(全6枚)


 イオンモールの公式アプリと連動したシステムを使って全国のイオンモールを歩くプログラムで、計測された歩数に応じてWAONポイントが当たるくじを引けるものだ。週ごとに歩数ランキングがアプリに掲載されるなど、ゲーム性もある。


 もともとモールの中を歩く取り組みは、米国を中心に「モール・ウォーキング」として行われていて、近年、日本でも酷暑などの影響から注目が集まっている。今回は、イオンモールウォーキングについて、ビジネスの側面から長所や短所、持続可能性について考えていきたい。


●イオンモールウォーキングの始まり


 イオンモールウォーキングは、イオンの「ハピネスモール」という取り組みの一環として、2017年度にスタートした。ECの台頭により、リアル店舗の価値が揺らいでいる昨今、訪れて楽しいモールを目指す取り組みがハピネスモールだ。その取り組みの柱であるヘルス分野において、イオンモールウォーキングは始まった。


 それぞれのモール内では、ウォーキングの推奨コースが決められ、コースの途中にはスタート地点からの歩行距離と消費カロリーの目安が書かれている。アプリではこの推奨コースを見ることができ、それに沿ってイオンの中をぐるぐる歩く。


 イオンモールウォーキングを考察するに当たり、せっかくなので筆者もやってみることにした。参加は簡単で、アプリに登録して、「ウォーキング」の項目をタップするだけ。コースの距離は、各モールによって異なるが約1〜2キロで、筆者が訪れた香川県のイオンモール綾川(香川県綾川町)は1.1キロのコースだった。


●イオンモールウォーキング、実際にやってみた


 イオンモールウォーキングの面白い点は、コースに沿って歩いていくと、普段は行かない場所も歩くことだ。コースはモールの中をくまなく歩くように設定されていて、基本的には施設の端から端までを巡ることになる。こうしてみると、筆者が普段どれだけ決まった道を歩いていたのかがよく分かる。


 歩いていると、イオンの中には座れる場所が多いことに気が付いた。カフェなどのテナントだけでなく、無料のソファもたくさんある。歩き疲れたらすぐに座れる。外だとこうはいかないだろう。


 また、天候の影響を受けないのも、ウォーキングにはもってこいである。特に昨今の夏の暑さは猛烈だ。来年からこの暑さがなくなることはないだろうから、イオンモールウォーキングには追い風だといえる。


●イオンモールウォーキングは売上増に貢献する?


 実際にやってみると、イオンモールウォーキングは消費者にとってメリットが多いことが分かる。一方で、イオン側にとっての「旨み」はどこにあるのだろうか。


 同社によれば、これは売り上げ増加が目的ではない、いわゆる「CSR(企業の社会的責任)」的な観点での取り組みだという。だが、イオンモールウォーキングにはイオン側が得をすることも多いと思われる。以下、イオンモールウォーキングの利点を3つに分けて説明していこう。


 1つ目は売り上げの増加で、特にモール内を歩くことによる買い周り需要が期待できることだ。前述の通り、普段の買い物ではどうしても行動範囲が決まってしまうが、ウォーキングコースを設定することによって、これまで気に掛けていなかった店や商品との出会いがある。道中にたくさん置いてあるカプセルトイやマッサージ機など、何気ない出費が増える可能性も大いにあると感じた。


 さらに、集客の増加も見込める。イオンモールウォーキングを開始する前、イオンが弘前大学と共同で取り組んだ実証実験では、イオンモールウォーキングが「来店動機」を促進することが証明されたという(日経クロステック 2015年7月29日)。また、イオンとともに歩行環境の研究を行っている名城大学の中村一樹准教授は、以下のように指摘する。


 『日常生活ではなかなか歩けない人たちが意外と高い歩行意欲を持っているということです。(中略)歩いて行ける場所が少なかったり、歩いていても車が多くて危険だったり、歩いても楽しくなかったり、というようなことがよくあります。(中略)歩くという視点で見ると、買い物する場所、特に建物内は利点が多いですよね』(名城大学 産官学連携・研究支援サイト 2023年1月31日)


 つまり、モール内という安全な環境下だからこそ、「わざわざ歩きにいく」という人が存在するのだ。そうした人が「歩くため」にモールを訪れることで、結果的に客数の増加につながる。


●EC全盛の現代で、リアル店舗をアピール


 2つ目は、ショッピングモールが潜在的な弱点として持っている「広くて歩くのが大変」というイメージを、むしろ「歩くから健康に良い」と捉え直すことによって、モールの印象をアップさせていることだ。


 実際、イオンモールウォーキングのアプリでは、推奨コースに沿っていなくても、モール内を自由に歩くだけでポイントが加算されていく。そのため、ウォーキングコースを歩くためだけでなく、普段の買い物時にも利用できるのだ。いつもは「歩いて疲れる」と思っている人も、「なんだか健康にいいことをしている」と考え直し、普段の買い物もモールで済ませるようになるかもしれない。高齢者も含めEC利用率が増加する現在、モールなどリアルでの購買につながる機会を提供することは重要だ。


 3つ目は、WAONへの導線になることだ。WAONはイオンが提供する電子マネーで、これとひもづいたカードやポイントクラブもある。イオンモールウォーキングの景品はWAONポイントなので、アプリでの抽選はWAONに入っていることが前提となる。つまり、イオンモールウォーキング目当ての人をWAONに誘導できるのだ。少なくとも、ただ「入会してください」とモール内で呼びかけたりするよりも高い効果が見込めるだろう。


●国をあげてモール・ウォーキングを推奨する米国


 さて、このように企業側にとっての利点も多いモール・ウォーキングだが、今後、日本で広く展開していく可能性はあるだろうか。結論からいうと、日本での普及にはさまざまなハードルがあるのではないかと思っている。


 前述の通り、モール・ウォーキングは米国発祥の運動で、多くのショッピングモールで取り入れられている。ただ、それは営利目的というより、市民活動の一環にモール側が協力しているという側面が大きい。というのも米国では治安の問題などがあり、外を散歩することが難しい場合が多いからである。


 そのため、各モールがテナントが開店するより前にモールのドアを開け、朝からモール・ウォーキングができるようにバックアップしている。例えばケンタッキー州・ルイビルにある「ジェファーソンモール」では、開店30分前からモールを開放。公式Webサイトには「月曜日から土曜日は午前10時30分、日曜日は午前11時30分にオープンします。温度調節された快適な当センターで、ぜひエクササイズをお楽しみください!」と記載がある(筆者訳)。


 さらにこの背景には、米国の政府機関である「アメリカ疾病予防管理センター」がモール・ウォーキングを後押ししている背景もある。実際、同センターの公式Webサイトには「モールを散歩しよう」というページがあって、「モールには、散歩や車椅子、ベビーカーでの移動に適した特徴がたくさんある」「多くのモールには、公式のモール・ウォーキング・プログラムがある」としてモール・ウォーキングを推奨している。


●日本でモール・ウォーキングが厳しそうな理由


 それに比べると、日本の場合はまだまだ外でのウォーキング文化が根強い。治安などの切迫した問題もなく、モール・ウォーキングが国や地方をあげた動きになっていない。あるとすれば酷暑による影響だろうが、とはいえそれも夏だけの話である。


 そうなると、消費者にとっては「『街歩き』と『モール・ウォーキング』のどちらを選びますか」という話になる。イオンモールの場合、どのモールでも入っているテナントが基本的に似ているため、消費者が「歩いていてすごく楽しいかといわれれば、そこまで……」となってしまうだろう。


 さらに、行政が強く関与しない一企業だけでの取り組みになると、どうしても店舗ごとの差が出てきてしまう。例えば、イオンモール高松(高松市)ではスタートとゴール地点のプレートが他のポスターに囲まれて見えなかった。一店舗での些細(ささい)な出来事にすぎないかもしれないが、日本でモール・ウォーキングへの足並みをそろえるのが難しいことを表しているのではないだろうか。


 実際、イオン以外にもららぽーとなどがモール内でのウォーキングイベントを開催していたが、最近ではその話もあまり聞かない。イオンモールウォーキングはアプリ連動などの仕組みが整備されているからまだ続いているのだろうが、今後も継続するかとなると先が見えない状況だ。


●「意識高い系」政策よりも、明確なメリットを


 もし、イオンが本気でウォーキングプログラムを活性化させたいのであれば、消費者側か企業側か、どちらかに明確なメリットがないと厳しいだろう。例えば、「イオンモールウォーキングを取り入れたら明確に売り上げが上がる」ということを各店舗に示したり、消費者が「絶対にイオンでウォーキングをしたい」と思う仕組みを強化したりする必要がある。


 近年、企業各社はESGやウェルビーイングなど「利益偏重」ではない、多角的な視点に基づいた経営を模索している。しかし、残念なことにこうした「意識高い系」の施策は、それを第一目標にしてもなかなか成果が出づらい。なぜなら、そうした意識高い系の目標よりも、確実なメリットがある方が人は動くからだ。CSRといった言葉で施策を曖昧にするのではなく、企業側や消費者側にとってメリットがある取り組みを進めていかなければ、イオンモールウォーキングのような意識高い系の施策は続かないのではないか。


著者プロフィール


谷頭和希(たにがしら かずき)


都市ジャーナリスト・チェーンストア研究家。チェーンストアやテーマパーク、都市再開発などの「現在の都市」をテーマとした記事・取材などを精力的に行う。「いま」からのアプローチだけでなく、「むかし」も踏まえた都市の考察・批評に定評がある。著書に『ドンキにはなぜペンギンがいるのか』他。現在、東洋経済オンラインや現代ビジネスなど、さまざまなメディア・雑誌にて記事・取材を手掛ける。講演やメディア露出も多く、メディア出演に「めざまし8」(フジテレビ)や「Abema Prime」(Abema TV)、「STEP ONE」(J-WAVE)がある。また、文芸評論家の三宅香帆とのポッドキャスト「こんな本、どうですか?」はMBSラジオポッドキャストにて配信されている。



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