LUUPと交通違反、タイミーと闇バイト、メルカリとさらし行為――“性善説サービス”はいずれ崩壊するのか

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2024年11月29日 08:31  ITmedia ビジネスオンライン

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悪意をもったユーザーに、プラットフォーマーができることは(イメージ)

 “性善説”に基づいて設計されたCtoCサービスは、ここ数年で日本の消費者に大きな影響を与えてきた。


【画像】避難はしご直下のLUUPポートが炎上してから1カ月以上がたつが、このポートは消火栓の前に今も存在し続けている(都内にて筆者撮影)


 LUUPが展開する電動キックボードシェア、タイミーのようなスポットバイトマッチングサービス、メルカリを始めとするフリマアプリなどは、その代表例である。


 これらのサービスは、利用者の自由度を最大限に高め、手軽さや利便性を提供することで人気を博してきた。


 しかし、最近ではそれぞれのサービスでトラブルや問題行為が目立ち始め、「性善説モデル」の限界が浮き彫りになっている。


 LUUP、タイミー、メルカリ、の3つのサービスが直面している課題を具体的に掘り下げ、性善説サービスが抱える根本的な問題を明らかにしたい。


●LUUPの交通違反、プラットフォーム側の違反事例も


 LUUPが提供する電動キックボードシェアリングサービスは、都市部での移動手段として注目を集めている。


 一方で、利用者の交通ルール違反が社会問題化している。歩道での速度ルールを無視した運転や信号無視などの問題により、安全面でのバッシングが増加しているのだ。


 これらのトラブルの多くは、LUUPの自由度の高さと利用者教育の不足によるものである。


 電動キックボードは手軽に借りられる一方で、利用規約を十分に理解していないユーザーが多く、結果として交通ルールを無視した利用が横行している。


 また、駐輪エリアが限定されているにもかかわらず、それを守らない利用者の存在が問題を悪化させている。


 LUUP運営も一定の対策を講じ、利用者への注意喚起を呼びかけているが、そんなLUUP側も消防法に違反するような駐輪スペースの開設を許可しているという落ち度がある。


●タイミー「闇バイト」問題と求人審査の限界


 手軽に短期バイトを見つけられるプラットフォームとして注目を集めてきたタイミー。


 しかしここに来て、一部の案件が「闇バイト」として犯罪行為に利用されている可能性が明るみに出た。特殊詐欺に関与する可能性の高い求人案件が、プラットフォームに掲載されていたのだ。


 この問題の根底には、タイミーが性善説に基づいて設計されていることがある。利用者同士の信頼に依存し、求人を事後的に審査する仕組みは一見効率的だ。


 しかし、その効果には限界がある。例えば、同社は公開後に求人内容審査をするとともに、利用者からの通報をもとに案件を削除する仕組みがある。


 しかし、闇バイトのように個人情報を握られ、それにより脅されて犯罪に手を染めるようなケースでは、問題が発覚した時点で被害が拡大しており、手遅れになるケースも多い。


 闇バイトなどの求人側は、事前審査なしという性善説にまんまと付け込み、バレるまでに人員を少しでも確保しようとその抜け穴を利用するわけだ。


●メルカリで「さらし」が横行


 メルカリは日本最大級のフリマアプリとして多くのユーザーに支持されてきた。しかしその成功の裏で、SNSを通じた「さらし文化」が横行する問題が起きている。


 特に、商品が届かない、偽物だった、あるいは取引相手の態度が悪いといった理由で、購入者や出品者の個人情報やチャット内容が無断でSNSに公開されるケースが増加している。


 このような行為は、取引相手を攻撃するだけでなく、名誉毀損やプライバシー侵害といった法的問題にもつながる可能性がある。それでも利用者がSNSに内容を公開する理由としては、メルカリ運営の不十分な対応もありそうだ。


 例えば、通報や問い合わせシステムがあるものの、問題のある投稿やアカウントの削除が遅れることが多く、被害者が救済されないまま終わるケースが少なくない。そこで、「トラブル内容をSNSに公開し、騒ぎになれば運営は対応してくれる」という経験則ができてしまったのではないか。


 SNSで拡散されるトラブルの一つ一つは小さなものに見えるかもしれないが、それが積み重なることでサービス全体の信頼性を損ねてしまいかねない。


 これらの事例は、スタートアップという一種の免罪符に守られた“性善説モデル”が抱える共通の課題を明らかにしているのではないだろうか。


●「性善説サービス」の限界


 性善説に基づいたサービスは、その設計思想ゆえに複数の課題を抱えている。


 まず、利用者間の信頼関係に依存しすぎており、利用者が誠実であることを前提として運営されている。しかし、全ての利用者が善意を持って行動するわけではない。悪意のある行為がエスカレートすれば、大多数の善意ある利用者がサービスから離れてしまう恐れがある。


 さらに、ルールの明確化と教育不足も見過ごせない問題である。


 利用者がサービスの仕組みを十分に理解していない場合、意図しない違反行為が発生したり、だまされることがある。運営側がルールを明確化し、それを効果的に周知する努力が求められる。


 これらの課題を克服するためには、性善説モデルをそのまま維持するのではなく、技術や規制を用いて補完する必要があるだろう。


 例えば、AIやデータ分析を活用した悪質行為の検出を進めることが考えられるが、上記のような性善説サービスの多くはテクノロジー以前に人員リソースで解決できることを怠っている例が少なくないのではないか。


 性善説サービスが直面する課題を克服し、持続可能な成長を遂げるためには、運営体制の強化が不可欠である。そのためには、人員への積極的な投資が必要だ。


●本来負担すべきコストを利用者のモラルに依存している


 性善説サービスは本来負担すべきコストを利用者のモラルに依存しているため、利益率が高く、資金調達力があって当然である。


 そんなサービスが上場や多額の資金調達によって得た資金をどう活用すべきかについて考えれば、まず人員の増強に充てるべきだ。モデレーションを担う専門スタッフの採用や、トラブル対応に迅速に対応できるカスタマーサポートの強化は、利用者の安心感を向上させる最も効果的な手段である。


 一方で、こうした投資により利益率が一時的に低下することは避けられない。しかし、それを受け入れることこそが長期的な価値向上につながる。性善説のもと、コストを利用者側に転嫁し、必要な投資を怠れば、節約した分以上に市場からの評価が下がる可能性が高い。


 タイミーは闇バイト問題などもあって時価総額が高値から800億円以上も吹き飛んだ。十分な資金力があるのに、運営側がコントロールできない利用者の誠実性に頼るという危ない橋を渡るべきではない。企業価値とブランドを損ねるリスクは決して小さくないのだ。


 利用者、従業員、投資家の信頼を取り戻すための努力が、最終的には自由と安全が共存するサービスモデルの実現につながり、企業価値を高める鍵となる。短期的な利益を犠牲にしてでも、運営基盤を強化するという決断が求められるのではないか。


●筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCEO


1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手掛けたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレースを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CEOとしてビジネスモデル構築や財務などを手掛ける。



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