求人サイト「バイトル」を運営するディップ(東京都港区)が、10月からスポットワーク市場に参入した。東京23区で先行スタートし、企業負担なしで時給を上乗せする「Good Jobボーナス」の導入や、既存の求人メディア事業との連携を軸に、12月12日から全国展開を予定している。
物価高で生活負担が増える中、収入を増やしたいと考える人が増えている。空いた時間を活用して収入を得られるスポットワークへの注目が高まり、2024年10月時点で先行するタイミーは900万人、メルカリハロは800万人まで登録者を伸ばしている。スポットワーク協会によると、国内のスポットワーク登録者数は2500万人を超えたという。
●Good Jobボーナスで収入増
後発での参入となったディップは、競合他社との差別化を図るため、独自の機能を設けた。「Good Jobボーナス」だ。企業が働きぶりを評価し「Good」を付与されると、時給の10%が上乗せされる。
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ボーナスはディップが受け取る手数料から捻出されるため、企業の追加負担はなく、ユーザーも普通に仕事をすれば付与される設計となっている。「Good Jobボーナスを導入した結果、リピート率は想定以上の水準で推移している」と、事業責任者の藤原彰二氏は語る。
ディップは、求人メディアの「バイトル」や「はたらこねっと」を展開しており、当初はスポットワーク市場への参入は既存事業との競合が懸念されていた。しかし、先行する他社サービスによって市場が形成され始めたことが追い風となった。
リリース時には既存メディアとの棲(す)み分けが課題となったが、東京で先行展開する中、社内でビジネスモデルの違いに関する知識の習得を進め、スポット募集と通常募集で異なるニーズに対応できる体制を整えた。企業のニーズに応じた使い分けを提案できる点は、求人メディアの運営で培った実績を生かした戦略といえる。
●メディアを併用した店舗運営の効率化
バイトルが主戦場とする飲食店やサービス業では、人手不足で一時的に人材を確保したいニーズがある。その一方、店舗の顔となる接客スタッフは長期的に働いてくれる人材を望む声も多い。この異なるニーズに対し、ディップではスポットバイトルとバイトルの使い分けを提案することで、店舗の業務効率化を実現している。
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繁忙期の飲食店では、調理補助などのバックヤード業務をスポットワーカーに任せ、既存の接客スタッフが接客業務に集中できる環境を整えている。
こうした業務の切り分けを可能にすることで、スタッフが特定業務に集中できる環境を整備できる。業務のフロー改善だけでなく、働く人の満足度の向上にもつながるという。同社は今後もバイトルとの連携を強化し、企業の状況に応じた最適な採用手段を提案していく考えだ。
ディップは既存メディアとの連携を通じて採用活動全体のDXを進めている。例えば、「バイトル」の「しごと体験」機能に「スポットバイトル」の求人情報を連携し、就業前に職場の雰囲気を確認できるようにしたことで、ユーザーと企業のミスマッチ防止を図っている。
また、シフトの穴が空いた際など緊急性の高いケースに対応するため、約10秒で掲載設定が完了するLINEを活用したサービスも開始。PCでの作業ではなく、スマートフォンから迅速な掲載を可能とした。
●採用から運営まで、包括的な支援へ
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こうした既存サービスとの連携強化に加え、店舗運営の効率化支援も行う。従業員と店舗管理者のコミュニケーションを改善する「バイトルトーク」をアイリッジ(東京都港区)と共同開発した。現在はアルバイト連絡やシフト調整の基本機能を搭載し、今後は他店舗へのヘルプ調整機能なども始めるという。
既存従業員のシフト調整とスポットワーカーの活用は、一見すると相反するようだが、藤原氏は「内部で人員確保できない際に、スポットバイトルが補完的な役割を果たす」と説明する。
●安全対策として「AI検知」「現場確認」を徹底
12月からの全国展開を控え、課題も見えてきた。現在は主にバイトルを利用している企業からの掲載が中心で、新規企業の開拓はこれからだ。競合サービスを既に利用している企業も多いことから、参入後発組としていかに市場を広げていけるかが問われる。
スポットワークの経験が浅いユーザーの中には、最初から複数の仕事に申し込んだものの、途中でリタイアしてしまうケースもある。オンラインで手軽に応募できるという特性上、起こり得ることだ。「1回目の就業のサポートをしながら、仕事を少しずつ始められるようにUIの改善も必要」と藤原氏は指摘する。
また、安全面での対策も重要だ。ディップは「闇バイトチェックAI」を提供しており、怪しい求人の検知に注力している。目視審査と比較して、約80%の時間短縮を達成したという。
加えて、掲載事業者の現地確認も重視しており、実際に9割程度は対面での確認を実施している。オンラインのみの場合も、実態に違和感があれば掲載を見送る判断を徹底している。「危険な事業者は対面での確認を避けたがる傾向にあるため、選別しやすい仕組みになっている」(藤原氏)
●「月間のべ100万就業」を目標に
ディップはスポットバイトルで、「1年後に月間のべ100万就業」の目標を掲げている。「時給が高ければユーザーが集まり、結果として企業からの利用も増える。実際に働いた人数を増やすことが、サービス成長の鍵となる」と藤原氏は語る。
ただし、スポットワーク市場の単独拡大は目指していないという。むしろ、アルバイト・パート業界全体の活性化を視野に入れる。「将来的には、より多様な働き方の選択肢を提供したい。そのために必要なのがスキルの可視化。ユーザーのスキルを明確化することで、活躍の場を広げ、時給も上がる仕組みをつくりたい」(藤原氏)
大手企業の参入で、スポットワーク市場は新たな局面を迎えている。業界の先駆者であるタイミー、マーケットプレイス事業とフィンテック事業とのシナジーでポジションを築くメルカリハロなど、異なる強みを持つプレイヤーが市場を形成する。
その中でディップは、スポットワークを単独のサービスとしてではなく、既存の求人メディアと連携した採用プラットフォームの一つとして位置付ける。新たなアプローチは、働き方の選択肢を増やせるだろうか。
(カワブチカズキ)
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