『アナ雪』でブレイクした神田沙也加さん、ありのままの自分を受け入れる難しさ

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2024年11月29日 15:01  日刊サイゾー

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神田沙也加さん(写真/Getty Imagesより)

「ありのままの〜、姿見せるのよ〜」

 雪の女王・エルサ役の松たか子が歌う主題歌「レット・イット・ゴー」のサビ部分が、10年前はイヤーワーム状態になったものです。ディズニーアニメ『アナと雪の女王』(2013年)は、日本だけでも興収250億円を記録したメガヒット作となりました。

 同じく『アナ雪』の日本語吹き替え版で、エルサの妹・アナ王女を演じたのは神田沙也加さんです。続編『アナと雪の女王2』(2019年)でも、再びアナを演じた神田沙也加さんですが、2021年12月18日に35歳という若さで亡くなっています。

 神田沙也加さんにとってのブレイク作であり、代表作にもなった『アナと雪の女王』『アナと雪の女王2』が、『金曜ロードショー』(日本テレビ系)で11月29日(金)と12月6日(金)の2週にわたって放映されます。神田沙也加さんが亡くなって、初めての地上波オンエアとなります。

 今年6月には「東京ディズニーリゾート」に、『アナ雪』をモチーフにした新アトラクション「フローズンキングダム」が新たに加わりました。『アナと雪の女王3』が2026年に公開されることも発表されています。そんな『アナ雪』の話題を振り返りたいと思います。

日本の皇室問題にまで飛び火

 ディズニーアニメとしても画期的な大ヒット作となった『アナ雪』は、幅広い世代にアピールし、社会現象にもなりました。ディズニーヒロインといえば、不遇な状況に置かれたお姫さまが我慢強く耐え忍び、助けに現れた王子さまと結ばれ、お城で幸せに暮らしてハッピーエンドというのが定番でした。

 しかし、『アナ雪』の主人公であるエルサとアナの姉妹はお城を飛び出し、それぞれ自分の力で運命を切り開いていくという能動的な物語となっています。王子さまキャラは、サブ扱いです。男性目線で作られてきたディズニーアニメの伝統をひっくり返した、記念碑的な作品でした。『アナ雪』が公開されてからの10年間で、世間のジェンダー的価値観は大きく変わってきたことを感じさせます。

 王位後継者として生まれたエルサは、手に触れたものをすべて凍らせてしまうという魔法の力を待っていました。成人したエルサは他の人とは違う能力を使うことを恐れ、氷の宮殿に閉じこもってしまいます。

 評論家・コラムニストの中森明夫氏が「雪の女王とは何か?」というテーマで「外務省の有能なキャリア官僚だった」雅子妃が「皇太子妃となって、職業的能力を封じられ」たことを思い浮かべたという原稿を書いたところ、執筆を依頼した「中央公論」(中央公論新社)から掲載拒否されるという騒ぎも2014年には起きています。

 現実社会の問題と結びつけて、さまざまな解釈ができるところもファンタジーアニメの面白さでしょう。

ミュージカル女優として高かった評価

 歌手・松田聖子と俳優・神田正輝のひとり娘として生まれた神田沙也加さんはSAYAKAとしての歌手デビュー時こそ「二世タレント」として騒がれたものの、ミュージカル『レ・ミゼラブル』や『ピーターパン』などで着実に舞台キャリアを重ねました。ミュージカル女優としての評価を高めた上での、『アナ雪』への抜擢でした。

 2014年の暮れには、国民的番組『NHK紅白歌合戦』に神田沙也加さんは選出され、『アナ雪』のナンバー「生まれてはじめて」を歌っています。2011年の『紅白』初出場は松田聖子との親子共演でしたが、2回目の出演は神田沙也加さんが自分の力でつかんだ単独出演でした。まるで親戚の女の子の成長ぶりを応援するような、ほっこりした気持ちで『紅白』を見ていた視聴者もいたんじゃないでしょうか。

 神田沙也加さんのミュージカル女優としてのデビューは、2004年に上演された宮本亜門演出の舞台『INTO THE WOODS』の赤ずきん役でした。出演者オーディションの際、宮本亜門は参加者のプロフィールには目を触れないようにして、選考したそうです。当時17歳だった神田沙也加さんと初めて会った宮本亜門は、彼女の明るく通る歌声と豊かな感受性に魅了されたと振り返っています。

 ハードな練習にも愚痴をこぼすことなく、ミュージカル女優として目覚ましい成長を見せていた神田沙也加さんですが、稽古の休憩中に「自分の両親が有名人だったから、この役に選んでくれたんじゃないですか?」と宮本亜門に尋ねてきたそうです。「違うよ、君がいちばん素晴らしかったからだよ」と答えても、なかなか信じなかったとのことです。

 豊かな才能に恵まれ、かつ努力家でもある一方、自己評価が低く、非常にナイーヴな心の持ち主だったことがうかがえます。

才能に恵まれた人の生きづらさ

 アナ役に選ばれた際、神田沙也加さんは「良くも悪くも情熱的で、少し無鉄砲なところが似てるかな」と自分とアナとの共通点を語っていました。考えるよりも、先に行動してしまう。明るい天真爛漫キャラゆえに、傷ついてしまうこともある。そんなアナ役に、神田沙也加さんはぴったりでした。

 物語の序盤を飾る「生まれてはじめて」は、神田沙也加さんの伸びやかな歌声が楽しめるナンバーです。「生まれてはじめて 音楽にのり 生まれてはじめて 踊り明かすの」という初めてパーティーに参加するアナ王女の喜びを、はつらつと歌い上げています。両親とは異なるミュージカルの世界に飛び込み、自分の居場所を見出した神田沙也加さん自身の喜びが伝わってくるようです。

 ミュージカル女優として未来を嘱望されながら、急逝したことが本当に惜しまれます。キャリアを積み、充分に実績を残しながらも、自分に厳しすぎ、自己評価が低いままだったのでしょうか。10代の少女のまま、ナイーヴな心を持ち続けていたのかもしれません。

 大ヒットした「レット・イット・ゴー」の日本語歌詞には「ありのままの姿見せ」「自分を好きになって」とありますが、ありのままの自分を受け入れ、好きになることは、才能があり、繊細な人ほど容易ではないのかもしれません。今夜聴く『アナ雪』のおなじみのナンバーは、以前とは違った重みを感じることになりそうです。

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