「毎日食べても飽きない!」中華料理愛好家・酒徒さんが語る、家庭の新しい中華料理

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2024年11月29日 20:00  クックパッドニュース

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クックパッドのポッドキャスト番組「ぼくらはみんな食べている」。食や料理に熱い思いを持ち活躍するゲストを迎え、さまざまな話を語ります。クックパッド初代編集長の小竹貴子がパーソナリティを務めます。今回は、中華料理愛好家の酒徒さんがゲストの後編です。

食べやすい味より“本来の味”を追い求める

小竹:「酒徒」という名前の由来を教えてください。

酒徒さん(以下、敬称略):酒徒というのは酒が好きな人みたいな意味なのですが、酒飲みの代表という気持ちでつけた名前ではなくて、新入社員の頃から太田和彦さんという居酒屋巡りをする人の本が大好きで、居酒屋巡りのブログをやっていた時期があるんです。

小竹:そうなのですね。

酒徒:そこに、本の中の居酒屋に飾ってあった額に「酒徒善人」という言葉があったと書いてあって、酒飲みはいい人ならいいなみたいな気持ちの言葉だと思うのですが、いい言葉だと思って勝手にそれをブログの題名に拝借していたんです。

小竹:うんうん。

酒徒:ただ、ハンドルネームをつけていなかったので、コメントをくれる人から酒徒さんと呼ばれるようになって、そのまま酒徒と名乗り始めたのですが、まさかその名前で本まで出すとは思っていなかったです(笑)。

小竹:酒徒さんのSNSを見ていると、野毛などを中心にいろいろと食べ歩きをされていますが、お店選びはどういった感じでされているのですか?

酒徒:2019年に日本に帰ってきて横浜の野毛の近くに住み始めたときに心に決めたことがあるんです。あの辺りは1km圏内に何百軒もの飲み屋がある大人の遊園地みたいなところなのですが、そこに行く際には事前の下調べは一切しないと決めました。

小竹:それはなぜ?

酒徒:今の日本は情報が溢れていて、写真まで全て見ることができる。10年近く日本から離れて、せっかくはしご酒の楽しさを味わえるのに、人の情報の後追いをする必要はないと思って。点数や感想を再確認しに行くような作業は、飲み歩きが好きだった若い頃の気持ちとも違うと思うので、自分の勘とノリと店で知り合った人の口コミなどを基準にやっていくことを今も頑なに守っています。

小竹:新しいお店を巡るのはやっぱり楽しい?

酒徒:知らない店に入るときの緊張感と高揚感は今でも好きで、はしご酒なので必ずしも当たりでなくてもいいんです。違うと思ったら出ればいいという程度の話なのでね。


野毛の備忘録

小竹:中国に行った際のお店選びも同じ感じなのですか?

酒徒:情報がまだ全然なかった時代は、とにかく足で稼ぐ感じでした。そもそもレストランがどこら辺にあるのかもわからないまま、とりあえず行ってみる感じだったので、地図を買って、そこに載っている名物料理のコーナーとかを見て行ってみるんです。

行くと何軒か並んでいるので、客の入りとか店の清潔感とか、品書きを見せてもらってその地域の料理がどれだけ多いかとか、他の地域の料理が品書きに混ざり込んでいる比率が低い店かとか、そういうことを頼りに選んでいました。

小竹:なるほど。

酒徒:向こうでも今は口コミサイトが山ほどありますが、そういうのが出てきてからの時代は“逆張り戦法”を行っています。例えば、四川料理レストランの口コミを見たときに、他地域から来た人が「辛すぎて食べられない」と書いていると、「ここは本格的でいいな!」と感じます(笑)。

小竹:レビューの見方が新しいですね(笑)。

酒徒:その土地なりのこうあるべき料理というものの知識はこれまで培ってきたので、それをなるべく追い求めたい。食べやすい味ではなく、本来あったであろう味を求めたいという基準で下調べをします。

見た目だけで判断しないことが大事!

小竹:ちなみに、好きな中華料理は?

酒徒:そう聞かれることは多いのですけが、あれだけある中から1つ選べる性格だったら、こんなにいろいろと食べ歩いていないです。広東料理の飲茶の点心の中の甘くないおかず的なもので1個選べと言われても無理です(笑)。

小竹:こういう気分のときにはこうなるみたいなことはありますか?

酒徒:ありますね。今日は白酒(50度くらいある中国の蒸留酒)を飲みたいと思ったら北の料理のほうがあうなとか、今日は紹興酒にしようと思ったら上海料理だなとか。酒が動機になることが多いです。

小竹:中国を旅していて、自分の常識を覆された驚きの料理はありましたか?

酒徒:見た目でものを考えたらダメだと感じたのが、福建省や広東省では見た目が非常に悪い食べ物をよく食べているんです。海の砂地に住むホシムシというニョロッとして真っ白なミミズを大きくしたような生き物がいて、それを現地では姿蒸しにして食べるんです。

小竹:そのままですか…。

酒徒:あと、切り刻んで煮込んで煮こごりにして、ドーム型のゼリーみたいにしたものも名物料理としてありますね。行く前にそれを調べて知って、現地で名物のおやつになっているということはうまいはずだと思って食べてみたら苦もなくおいしいんですよ。

小竹:うんうん。

酒徒:癖がない味で、コリコリした旨みのある貝みたいな感じで、今もよだれが出るくらい好きで(笑)。出張とかで行く度に現地の人に「あれ食べたいんですけど」と言うと「え、知っているの?いいね!」みたいになって仲も深まる。見た目ではなくて食べてみることがとても大事で、しかも食べてみれば大体おいしいんですよ。

小竹:ホシムシはその地域でどうして食べられていたのですかね?

酒徒:おいしいからですね。見た目で日本人は物を考えすぎなのでしょうね。福建省なので海沿いだから海鮮も採れる。だから、別にホシムシを食べなければ生きていけないような場所ではないけど、海で採れるものの中でおいしく食べられるものの1つというだけだと思います。

“味付け”は徹底的に削ぎ落とす

小竹:酒徒さんは、ただ食べ歩きをするだけではなく、そこから再現してレシピに落とすところまでされていますが、もともと料理は好きだったのですか?

酒徒:大学生の頃は目玉焼きくらいしか作っていなかった気がします。食べるのは大好きでしたが、母が厨房を握っている家庭だったので、20代は100%インプットでした。日本にいるときも、中国にいるときも、基本全て外食で、全てインプットという感じでした。

小竹:そうなのですね。

酒徒:ただ、30代になって中国生活も3〜4年目になり、結婚して広州に住み始めた後は近くの市場に買い物に行くようになりました。生きた鳥とかが売っていて、みんなは買って帰って家で捌くのかと思ったら、ちょっとやってみたくなってきて。それで捌き方を本で調べたというのが最初のきっかけですね。

小竹:駐在のときなのですね。

酒徒:そうです。駐在のときが中華料理を作ろうとした最初で、ただその頃はまだ自分にとって料理は趣味の世界で、週末にそういう奇抜なことをやってみようみたいな、いわゆる“男の料理”ってやつでしたね。

小竹:“週末の男の料理”では、どういったものを作っていたのですか?

酒徒:麻辣な火鍋を1から作ってみるとか、丸鶏をそのまま茹でて、広東の宴会料理に欠かせない白切鶏という料理を作ってみるとか、2〜3時間かけて広東のスープを作るとか、日常ではない料理ですね。

小竹:うんうん。

酒徒:それが日常の家事としての料理に落とし込まれていったのは、上海に移って子どもが生まれたときです。僕も妻もローカル中華が大好きで、食べ歩きが大好きだったのですが、さすがに0歳の子どもを抱えてそういう生活を維持するのは難しくなって。中国にいるのに中華料理を食べに行けない、それなら作るしかないという感じでした。

小竹:そういうきっかけだったのですね。

酒徒:それで、僕のような素人でも再現できそうなものは何かと考えて、なるべくシンプルなもの、手数が少ないもの、日常の中でも作っていけるものというところからレパートリーを増やしていきました。

小竹:最初はどういったものを作ったのですか?

酒徒:本の表紙にもなっている「中華茶碗蒸し」です。溶き卵に下味をつけたひき肉を入れて蒸すだけだし、すが入ってもどうでもいいという、日本の典雅な感じの茶碗蒸しとはまるで違うものなのですが、これなら僕もできるかもというところで試しました。


肉末蒸蛋(豚ひき肉の中華茶碗蒸し)

小竹:舌で味は覚えているので、味付けのレシピなどもできてしまった感じ?

酒徒:これはほぼ味付けがないに等しいのでね。僕は徹底的に削ぎ落とすのが好きなので、最低限それさえ入れれば成立するというのを軸にしています。なぜかというと、そうしたときに自分の記憶と合致することが多かったから。

小竹:そうなんですね。

酒徒:本などで見たものでいろいろと足していくと、気の利いた味にはなるかもしれないけれど違うなと思うことが多かったので、僕はシンプルを持って良しとするみたいな感じがありますね。

小竹:それでお子さんも食べやすくとなると、そういった引き算の料理が合いますよね。

酒徒:そうですね。ただ、子どものことを考えて作らないというのもポリシーです。自分の食欲に突き動かされてきているので、究極的に言うと、自分が食べたいものを食べたいし作りたい。だから、それについてきてくれるように子どもを育てたいと思っています(笑)。

毎日食べても飽きない中華料理もたくさんある


レシピ本大賞でW受賞した『あたらしい家中華』

小竹:『あたらしい家中華』の帯に、「鶏ガラ、オイスターソース、豆板醤、すべていりません」と書いてあるのですが、本場の中華料理でもあまり使われないのですか?

酒徒:鶏ガラは単に旨味を出すか否かの話で好みの問題だと思うのですが、オイスターソースや豆板醤は非常に地域性の高い調味料で、日本ではそれがないと中華料理にならないと思われているところに現地との違いがありますね。

小竹:なるほど。

酒徒:例えば、オイスターソースだったら広東省、豆板醤だったら四川省の家庭料理に欠かせないものであることは間違いないのですが、それを使わないで料理を作っている地域もたくさんあります。今回はもともとそれがなくても成立する料理を選んだ感じで、使う料理も中国にはたくさんあります。

小竹:noteやSNSで中華料理のレシピを発信されていましたが、本にするにあたって改めて伝えたいことはあったのですか?

酒徒:「中華料理はしつこい」とか「毎日は食べられない」などと散々言われてきて、毎日食べても飽きない料理もたくさんあるし、作り方や組み合わせ次第だという気持ちは昔からすごく抱えていたので、それを実感してもらえる内容にしたいとは強く思っていました。

小竹:本の中で私が一番感動したのは「茹で鶏」です。簡単に作れておいしいのですが、骨から茹でるのがやっぱりいいのですか?

酒徒:そもそも中国は骨を外した鶏が全然売っていなかった。鶏は塊か、せめて半分で買ってくるものだから、骨なし鶏で作るという発想自体がないんです。骨から茹でたほうがおいしさが広がるし、茹で汁も出汁が出て味が良くなるので、骨付きを使わない手はないかなと思います。

小竹:私は「レモン鶏」にしたのですが、本当においしくて私の中でイチ押しです。

酒徒:ありがとうございます。丸鶏はそれを基本形として、そこからちょっと味付けを変えることで3〜4種類くらい違う料理に展開していけるところも面白いので、まとめて茹でておくといろいろ使えますね。

小竹:叩ききゅうりににんにくと酢を和えるだけでいい「きゅうりの冷菜」も好きです。うちの子どもがすごく気に入っていて、よくリクエストされます。

酒徒:うれしいです。生のにんにくって辛くて嫌がられそうですけど、うちの子も2歳の頃から食べています。中華の冷菜はちゃんと味がおいしい上にすぐできるので、何品も並べるのもそんなに苦でもないですよね。

小竹:実際に中国でもそういったシンプルな料理が多いのですか?

酒徒:いろいろと具を入れて1つの炒め物を作ってそれを食べて終わりということはあまりないですね。日本は割とそういう炒め物が多いと思うのですが、1〜2個の食材を使ったシンプルな冷菜なり炒め物を何皿か作って、みんなで食べるというのが中華の基本形なのかなと思います。

小竹:野菜1品でできるというのは、中華料理のハードルがグッと下がった感じがしました。

酒徒:間違いないですね。八宝菜を作ろうと思ったら、僕でもめんどくさいと思いますけど、1〜2個炒めるだけなら冷蔵庫の余り野菜でできる。向こうの人も日々働きながら料理を作っているので、そういうシンプルさが実際はメインになっているということですね。

食べて調べて書くことで記憶が定着する

小竹:酒徒さんにとって「作る」と「食べる」は、どういった意味を持っていますか?

酒徒:生活であり、趣味であり、家族や友人とのコミュニケーションツールでもあり、精神安定剤でもある。だから、ほとんど人生の全てですね。作ることも食べることも、ないことは考えられないです。

小竹:最初は食べることが優先で、作ることも好きになって、もう今は胃袋が足りないのでは?

酒徒:本当にそう思います。牛みたいに胃袋が4つあったらって(笑)。あと、人生の時間が短すぎるとも感じます。それこそ中国を食べ歩くのに、自分が食欲を持ったまま旅ができるのはあと何年だろうと考えたりもします。


今年旅行した香港&マカオの点心

小竹:noteやSNSでは食以外の情報も発信されていますが、自分で調べることも好きなのですか?

酒徒:食べておいしいで終わりたくなくて、なぜそういう料理があるのか、どう作っているのかということにすごく興味があります。歴史が好きな人間なので、調べたり書き残したりということが性格に合っていたとも思います。実際にやり始めると、食べて調べて書くことで記憶も定着するし、書いたときにおいしさをもう1回思い出すこともできる。

小竹:なるほど。

酒徒:調べて書いてのサイクルで、1回の料理を何回も味わえる。下手したら何年後かにもう1回味わえるみたいなこともあるので、どんどんはまり込んでいってしまった感じです。途中からそれに作るも加わって四重層で楽しんでいます。

小竹:今後やってみたいことはありますか?

酒徒:夢物語的ではありますが、ここ数年はいろいろな発信がずっと続いてきて、中国に行けていないし住めていないという状態なので、また久々に本場の料理をインプットする機会を中長期的に持ちたいです。

小竹:中長期ですか?

酒徒:ただ夢だけを言えば、何ヶ月かどこかの農村に籠って、そこの厨房を見ていたい。そして、その料理をいただきたい。そういうことを中国の各地域でやれたら、それは楽しいだろうなと思います。

小竹:数ヶ月お休みになったら、中国のどこに行きますか?

酒徒:難しいですね。僕は南方の少数民族の食文化がすごく好きなので、貴州省や雲南省の山奥に行って、まだ見たこともない調味料や食材に出会ってみたいです。

小竹:その辺りにはどういった文化があるのですか?

酒徒:貴州省はもともと山がちでそんなに豊かなところではなく、食材の幅に制限がありました。限られた食材を長く持たせなくてはいけないため、発酵文化が優れた民族で、そこに唐辛子の辛みが加わり、発酵の旨味と辛みが融合した、日本ではなかなか食べられない未知の味わいがあります。

小竹:うんうん。

酒徒:あと、そこで食べられる鳥や豚は山を走り回っていいものしか食べていないのでおいしい。単に焼いただけなのにやたらとおいしい。発酵文化には成熟さを感じますが、ただ焼いた鳥がすごくおいしいのが衝撃的で、いわゆるグルメなどの人間の英知とは対極にあるおいしさなんです。自然とは調理とはとか、そういうモヤっとしたことを考えたことがあって、ああいう考えをもう1回得たいなとは思います。

小竹:そういうところに行くと、食材がもう全然違いますよね。

酒徒:そうですね。野菜もすごく味が濃くて力強くて。そういう食材の力を感じに行きたいですね。豚の丸焼きと同じように、そのうち叶ったらいいなって思います(笑)。

(TEXT:山田周平)

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【ゲスト】

第17回・第18回(11月1日・15日配信) 酒徒さん


初中国で本場の中華料理に魅入られてから四半世紀、中国各地の食べ歩きがライフワーク。北京・広州・上海に10年間滞在し、帰国後は本場で知った中華料理レシピをSNSで続々発信。初レシピ本『あたらしい家中華』が12刷8万部と大ヒットし、2024料理レシピ本大賞をW受賞(料理部門入賞・プロの選んだ料理賞)。中国各地の名物料理を選りすぐって紹介する新著『中華満腹大航海』(KADOKAWA)を12月10日に発売予定。

X: @shutozennin
Instagram: @shuto_boozer
note: おうちで中華

【パーソナリティ】 

クックパッド株式会社 小竹 貴子


クックパッド社員/初代編集長/料理愛好家。 趣味は料理🍳仕事も料理。著書『ちょっとの丸暗記で外食レベルのごはんになる』『時間があっても、ごはん作りはしんどい』(日経BP社)など。

X: @takakodeli
Instagram: @takakodeli

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