大学の学部として一時期は人気が高かった総合政策学部。近年では「専門的な学問・知識がつかない」「広く浅くしか学べない」と否定的な風潮もある。なかでも総合政策学部の草分け的存在として高い人気を誇ってきた「慶應SFC」こと慶應義塾大学の総合政策学部・環境情報学部の人気低迷がいわれることも多い。果たして総合政策学部は今、お薦めの学部といえるのか。また、慶應SFCの人気はどうなっているのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。
人気の高まりを受けて1990年代頃から徐々に増え始めた総合政策学部。現在では慶應義塾大学、中央大学、津田塾大学、同志社大学(政策学部)、立命館大学(政策科学学部)などが設置。このほか、早稲田大学国際教養学部、国際基督教大学教養学部、早稲田大学人間科学部、青山学院大学社会情報学部などの、いわゆる文理融合学部も含めると国内に50以上の学部があるといわれている。現在も開設の動きは続いており、2026年4月に立教大学は環境学部(仮称)、青山学院大学は統計・データサイエンス学部を開設予定であることが注目されている。
そのカリキュラムは大学によってまちまちだが、近年は前述の理由から以前と比べると人気が低下気味との指摘も少なくない。大手予備校関係者はいう。
「総合政策学部系の学部が大きく人気を落としているということはないですが、現在は早ければ大学1〜2年次から企業のインターンシップに参加することが当たり前になっており、かつてのように『大学時代は遊ぶもの』という意識の学生は稀で、就職を意識して学部選びをする傾向が強まっています。また、社会に出ると、より専門性のあるスキルを有する人材が求められるという現実を認識しており、そうした要因が重なり、いまいち専門性が見えにくく、何が学べるのか分かりにくいということから、総合政策学部を志望する受験生が以前くらべると少なくなっているという印象があります。なので人気学部とまではいえないでしょう」
総合政策学部系学部の人気や取り巻く環境はどうなっているのか。大学ジャーナリストの石渡嶺司氏はいう。
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「総合政策学部は、簡単にまとめると、社会科学系の『なんでも学部』です。そして、難関大・公立大と中堅以下の私立大とで大きな違いがあります。総合政策学部は名称に『政策』が入っている通り、国や自治体などの政策立案ができる実務家養成の学部です。伝統ある学部・学科だと法学部や政治学科が近いでしょう。ただし、『政策』は民間企業などにおける企画立案を含む、という解釈も可能で、経済・経営学をベースとする大学もあります。さらに、政策立案に必要な人文科学の知識が必要という解釈から人文科学系を含む大学もあります。
総合政策学部を初めて設置したのは1990年、慶應大学でした。その後、1993年に中央大学が設置。現在では15校が総合政策学部を設置しています。学科や類似名称なども含めると、70校程度になります。総合政策学部という名称は、幅広さがあります。それに、慶應大学や中央大学などの難関大が設置していることもあって、大学業界内では人気があります。文系学部を改組する大学では新学部名の候補として挙がりやすい名称といっていいでしょう。
その半面、何をやっているか、分かりづらい学部名でもあります。2021年には島根県立大学が2000年開学と同時に開設した総合政策学部を募集停止としました(国際関係学部と地域政策学部に再編)。一方、私立のノースアジア大学は24年に法学部を募集停止として、総合政策学部に改組しました。受験生からの人気は難関大か、それとも中堅以下の私立大か、それぞれ変わります。慶應大学や中央大学などの難関大や岩手県立大学は順調に学生が集まっています。一方、中堅以下の私立大だと低迷しているところが目立ちます」
総合政策学部系の学部の学生は、企業からどのように評価されているのか。
「幅広い業界に就職しています。就職先は大学によって差があり、難関大だと大企業が多くなります。企業からすれば、学部名からどのようなことを勉強したのか想像できなくても、そこは気にしません。特に慶應大学や中央大学、関西学院大学などの難関大であれば、『よく分からないけど、要するに“なんでも学部”なんでしょ』『社会科学系の教養学部みたいなものか』などと考えています。面接で学部名については細かく聞きません。聞くとしたら、ゼミなどでどのような勉強・研究をしたか、などでしょう。中堅以下の私立大学でも、学生有利の売り手市場が進んでいる以上、企業側は学部名についてあれこれ気にする余裕がありません。そうなると、あとは学生の志望や実力によって決まることになります」(石渡氏)
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総合政策学部のなかでもトップの座に位置するのが慶應大学のSFCだ。大手予備校・河合塾の「2025年度 入試難易予想ランキング表(私立大)」の「総合・環境・情報・人間学系」学部では偏差値ランキングで1位(70.0)となっているが、近年では人気低迷といわれることもある。実際には人気はどのような状況なのか。また、就職や将来のキャリア形成などの観点でみると、慶應SFCはお薦めといえるのか。
前出・石渡氏はいう。
「総合政策学部の入試倍率は2015年は6.3倍、19年は8.5倍でした。24年は5.4倍になっています。志願者データからは人気が落ちた、とする見方はできるでしょう。ただ、24年の倍率低下は慶應SFCだけでなく他大学も同様です。首都圏の私立大学は2010年代半ばからコロナ禍前まで人気が過熱している状態でしたが、コロナ禍で落ち込み、現在は2010年代半ばと同じ水準に落ち着いています。
偏差値としては河合塾の公表データでは2015年に72.5、24年は70.0でした。ベネッセコーポレーション『進研模試』偏差値だと12年は78、24年は80です。偏差値も志願者データも多少の上下はありますが誤差の範囲で、私はこれをもって人気低迷と断じるのは違うと考えます。
慶應SFCは開設後の1990年代から2000年代にかけては独特な教育が評価されていました。その後、早稲田大学が追い上げてくると、慶応SFCの独自性が薄まっていきます。さらに立地の悪さを敬遠する受験生も2010年代以降、増えています。そのため、受験生が慶応SFCから早稲田大学など他大学に流出していることは確かです。その半面、慶應SFCの教育を評価する意見も根強く、立地の悪さも『離れたキャンパスで広く学べるなら構わない』とする受験生も一定数います。就職実績についても堅調に推移しており、幅広く学びたい受験生には適した学部といえるのではないでしょうか」
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慶應大学総合政策学部卒の30代男性はいう。
「たとえば将来はアフリカ開発に従事したいと考える学生がいたとすると、そのために必要な経済学、国際政治学、アフリカ政治・経済、外国語などあらゆる分野の授業を、三田キャンパスの学部のものも含めて自分で選択して履修することが可能です。起業を目指す学生であれば、実際に起業を経験した人やビジネスの経験が豊富な人が教員陣には数多くいるので、学生の側から積極的に動けば有益な情報やアドバイスを得ることも可能です。つまり、『自分はこれがしたい』という明確かつ強い意志・目標を持つ学生や、自ら課題を発見して解決しようと行動する学生にとっては、期待に120%応えてくれる環境が整っているので、素晴らしい学部だといえます。高い志を持つ学生や起業して会社を経営する学生、夜は東京に出てイベントの企画・運営をしている学生、有名タレントなど、個性の強い学生が多いため、日頃からそうした同世代の人たちと接することができるというのも、SFCの大きな魅力です。
逆に明確な目標がなく『やりたいことがないから、とりあえずSFCに入った』という学生にとっては、悶々とした日々を過ごすことになり、キラキラした学生生活を送る人たちに劣等感も抱いて非常につらい学生生活になるでしょうし、実際に退学する学生も一定数います。また、4年間通っても何も専門的な知識やスキルが身につかないまま、就職もうまくいかず卒業する人というもの一定数いるのが現実です」
同学部卒の別の30代男性はいう。
「やはり難点は東京都心から電車で最寄り駅の湘南台駅まで1時間くらいかかり、そこからさらにバスに乗らなければならないというアクセスの悪さと、キャンパスが畑に囲まれて家畜のフンの臭いが漂ってくることもあるほど田舎だという点です。なので『田舎が嫌い』『都会の大学に通いたい』という人は、SFCというブランド力に惹かれて無理に入学するのはやめたほうがよいです。この点を軽視すると後悔することになります。
就職実績に関していえば、SFCであることが強みになることはあっても、ハンディになることはないと思いますし、実際に就職実績は高いです。慶應大学の学生ということであれば、企業側は法学部なのか経済学部なのか総合政策学部なのかを意識することはないですし、あとは個人の能力や経験、資質次第ということになります」
(文=Business Journal編集部、協力=石渡嶺司/大学ジャーナリスト)
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