連載【堂本光一 コンマ一秒の恍惚Web】RACE19
第22戦ラスベガスGPがアメリカ・ネバタ州ラスベガスの市街地コースで行なわれ、メルセデスのジョージ・ラッセルが優勝。2位にはルイス・ハミルトンが入り、メルセデスがワンツー・フィニッシュを決めた。チャンピオンに王手をかけていたレッドブルのマックス・フェルスタッペンは5位に入り、4年連続4度目のチャンピオンを獲得。
今シーズンのF1は、第23戦カタールGP(12月1日決勝)と第24戦アブダビGP(12月8日決勝)の残り2戦。コンストラクターズ・チャンピオンはマクラーレン、フェラーリ、レッドブルの三つ巴の戦いが続いているが、果たしてどんな結末が待っているのか!?
* * *
■フェルスタッペンのすごさをあらためて感じた
ラスベガスGPは予選でポールポジションを獲得したジョージ・ラッセル選手が圧勝。予選で10番手に沈んだチームメイトのルイス・ハミルトン選手は決勝で見事な追い上げを披露して、2位でフィニッシュ。メルセデスがワンツー・フィニッシュを決めました。
|
|
ナイトレースとなった11月のラスベガスはスタート時の気温が18度、路面温度も低かったことがメルセデスのマシンにいい方向に作用したと思います。でもレース後のラッセル選手とハミルトン選手は「なんで速かったかわからない」と口をそろえていましたので、あそこまでの速さはチームも理解していないようでしたね。
ラスベガスGPではマックス・フェルスタッペン選手が5位に入賞し、4年連続4度目のワールドチャンピオンを決めました。戦いの舞台となったラスベガスの市街地コースは低速コーナーと直線が組み合わされたレイアウト。レッドブルが得意とする高速コーナーがないので、レッドブルとしては不得意なサーキットです。
フェルスタッペン選手はラスベガスGPの前に、ドライバーズランキング2位のランド・ノリス選手に対して62ポイントの差をつけており、レース終了後にノリス選手との差が60ポイント以上あればタイトルが確定する状況でした。
だからラスベガスでのフェルスタッペン選手はノリス選手の前で確実にゴールし、ポイントを稼ぐというレースに徹していました。結果的にフェルスタッペン選手は5位でゴールし、ノリス選手は6位に終わったことで、フェルスタッペン選手が4連覇を達成します。
今シーズンのフェルスタッペン選手は開幕からの10戦で7勝と圧倒的な強さを発揮しました。そのシーズン序盤戦の貯金が結果的に大きかったと思いますが、マクラーレンを始め、ライバルチームが追い上げてきた中盤戦以降でも、光るレースを何度も見せてくれました。
|
|
現時点でレッドブルはナンバーワンの速さを持ったマシンではないと思いますが、それでもなんとかタイムをひねり出して予選で好位置につけ、決勝でもライバルの高い壁となって簡単に勝たせるという展開になるのを許しませんでした。
逆に相手がミスをすれば、そこを見逃さずに攻め、自分を優位にしていくレースを常にしていました。昨シーズンは22戦中19勝と圧倒的な強さを見せつけたフェルスタッペン選手ですが、今シーズンは苦しいレースが多かった。そんな中でも毎戦、確実に結果を残し、あらためてすごいドライバーだと感じさせてくれました。
■チャンピオンの資格を証明したノリス
逆転チャンピオンを狙っていたノリス選手の戦いは、残念ながらラスベガスで終わってしまいました。シーズンの中盤以降、マクラーレンとノリス選手は優勝争いの常連になり、フェルスタッペン選手とのポイント差をどんどんとつめてきました。
それでもマクラーレンはチームメイトのオスカー・ピアストリ選手をサポート役にして、ノリス選手を優先して戦わせるということをなかなかしなかった。9月の第15戦イタリアGPになってもチームメイトと自由に戦ってもいい、という指示を出しており、チームオーダーを出さない、この"パパイヤ・ルール"はノリス選手にとって足かせになるのではないかと一時は思っていました。
でも、あらためてシーズンを振り返ってみると、マクラーレンがパパイヤ・ルールを持ち出さず、ノリス選手を優先する戦いをしたとしても、やっぱり今年もフェルスタッペン選手が勝っていたと思います。フェルスタッペン選手に比べると、ノリス選手は絶対的な安定感が少し欠けていたように見えました。
|
|
でも今シーズン、フェルスタッペン選手を相手にしてここまで戦えたことで、ノリス選手はドライバーとしての能力の高さを十分に証明しました。彼がタイトルを獲得する日はそう遠くないかもしれませんし、ワールドチャンピオンの資格は十分にあると示したと思います。
■マシンのすべてを出し切った角田選手
ラスベガスGPではビザ・キャッシュアップRB(VCARB)の角田裕毅(つのだ・ゆうき)選手が素晴らしいレースをしましたね。予選で7番手に入り、決勝でもハースのニコ・ヒュルケンベルグ選手やレッドブルのセルジオ・ペレス選手と競り合い、9位に入賞。貴重な2ポイントをチームにもたらしました。
角田選手はVCARBのマシンのポテンシャルをすべて引き出して戦っていたと思いますが、それでも9番手スタートのヒュルケンベルグ選手に先行されてしまった。この結果を見ても、現状ではハースの方がマシンとしては一歩先を行っているように見えます。
VCARBはラスベガスGPに向けてリアサスペンションやエンジンカバーなど、大掛かりなアップデートを投入してきました。その調整のためでしょうか、初日のフリー走行ではマシンのポテンシャルを十分に引き出せずに苦戦していました。中団グループの戦いは大接戦ですので、そういうちょっとした遅れが結果に響いてくると思います。
第21戦のブラジルに続き、今回のラスベガスでも角田選手は速さを見せました。VCARBがチームとして初日のフリー走行からしっかりとマシンを仕上げて、角田選手が自信を持って戦えるマシンを与えることができれば、もっともっとポテンシャルが引き出され、さらなる好結果につながっていくのではないかと期待しています。
■解き放たれた王者の走りに注目
今シーズンはいよいよ第23戦のカタールGPと最終戦のアブダビGPの2戦を残すのみとなりました。ドライバーズ・チャンピオンは決まりましたが、コンストラクターズ・タイトル争いはラスベガスGP終了時点で、トップのマクラーレン(608点)、フェラーリ(584点)、レッドブル(555点)と接戦が続いています。
ランキング首位に立つマクラーレンはラスベガスGPでは苦戦していましたが、カタールGPは彼らが得意とする中高速コーナーの多いサーキットが舞台なので、速さを発揮すると予想しています。
でもカタールGPではスプリントレースもありますから、フェラーリやレッドブルにとっても大量得点のチャンスです。コンストラクターズ・タイトル争いの行方はどうなるのかわかりません。最終戦まで見逃せないレースになると思います。
残り2戦、個人的にはフェルスタッペン選手の走りにも注目しています。タイトルを決めたことでプレッシャーから解放され、フェルスタッペン選手はレースを楽しむことができる状況にあります。彼本来のアグレッシブで、マシンの限界ギリギリを攻めたドライビングが見られるかもしれないと期待しています。
もちろん角田選手の所属するVCARB、ハース、アルピーヌによるコンストラクターズ・ランキング6位争いも注目です。アルピーヌがブラジルGPでダブル表彰台を獲得し、VCARBとハースを一気に抜き去り、コンストラクターズ・ランキング6位に急浮上しました。でもラスベガスGPでヒュルケンベルグ選手が8位に入賞したことで、今度はハースがアルピーヌを逆転。
ハースが50ポイントでランキング6位につけ、それをアルピーヌとVCARBがそれぞれ1点差と4点差で追いかける状況でカタールGPに臨むことになっています。ここも最終戦まで熾烈な戦いが続きそうですが、角田選手とVCARBにはランキング6位の座を獲得してほしいです!
☆取材こぼれ話☆
2回目の開催となったナイトレースのラスベガスGP。コース脇に巨大な球体LEDスクリーンが光り輝き、俳優のシルベスター・スタローンを始め、エンターテインメントのVIPたちも訪問。表彰式に向かうドライバーはリムジンで送迎されるなど、通常のGPとはまったく異なる雰囲気で行なわれていた。
「僕もラスベガスには行ったことがありますが、何もしていなくてもワクワクするエンターテイメントの街です。もちろん現地でレースを見たら、そのワクワク感は2倍にも3倍にもなると思います。いつかは現地で見てみたい気もしますが、テレビでレースを観戦している分にはあまり関係ないかなあ......。ラスベガス独特の演出などは正直、どうでもいいかなって感じです(笑)」
スタイリング/渡邊奈央(Creative GUILD) 衣装協力/AKM ヘア&メイク/大平真輝)
構成/川原田 剛 撮影/樋口 涼(堂本氏) 写真/桜井淳雄