J2優勝“翌シーズン”にJ1優勝争いのFC町田ゼルビア。黒田監督が「たった2年でトップチームに押し上げた」2つのこと

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2024年11月30日 09:11  日刊SPA!

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FC町田ゼルビア監督就任1年目にJ2優勝、J1昇格を果たす。2年目の今シーズンはJ1で優勝争いと快進撃を続ける黒田監督
―[水野俊哉]―
 会社の組織マネジメントはしばしば、スポーツにおけるチームマネジメントにもたとえられる。対象のスポーツがお金を生み出す、いわゆる「プロスポーツ」であれば、経営やビジネスにつながる部分も多くあるはずだ。企業とは異なるトップたちの手腕に迫ってみたい。

 今回は、FC町田ゼルビアの黒田剛監督にスポットを当てる。9月4日には『勝つ、ではなく、負けない。 結果を出せず、悩んでいるリーダーへ』(幻冬舎)という書籍も出版され、増刷がかかった。今もっとも注目されている監督と言っても過言ではないだろう。

 黒田監督といえば、2023年シーズンからFC町田ゼルビアの監督に大抜擢され、悲願だったJ2での優勝を導いた人物。2024年シーズンは昇格初年度のJ1リーグでいきなり首位に立ち、現在も優勝争いの渦中にある。過去に類を見ない結果を出し続けている黒田監督だが、一方で戦い方に疑問を持つ声も多く、ネット上ではしばしば賛否両論の意見が見られる。

 インタビュアーは、出版プロデューサーでビジネス書作家の水野俊哉さん。出版プロデューサーとして数々のヒット作を世に送り出す傍ら、『トップ1%のサッカー選手に学ぶ成功哲学』(すばる舎)の著作もあり、自らも作家として多くの書籍を出版している水野さんが、黒田監督のチームマネジメントとそれに伴うコミュニケーションの方法、また指導において意識していることを聞いた。

◆◆52歳でプロチームの監督に転身。アマチュアチームからの大きなチャレンジ

水野:FC町田ゼルビア就任1年目にしてJ2優勝&J1昇格、そしてJ1初昇格チームがいきなり優勝争いと、ご自身だけでなくチームの歴史をも大きく動かしたと思うのですが、就任時は高校チームで28年というキャリアからのチャレンジでしたね。

黒田:はい。私自身、小学校から大学までサッカーを続け、大学卒業後も教員として働きながら、中長期の休暇には母校サッカー部の指導にあたっていました。そこから紆余曲折あり、縁あって1994年に青森山田高校サッカー部のコーチ、翌年から監督、そして教員として2022年までの29年間指導にあたってきました。

 なかなか思うような結果を出せず苦しい時期には、全国で優勝経験のある監督に話を聞くために全国各地をまわったりして勉強しましたね。

水野:経験と知識を地道につけてこられたのですね。2006年にはサッカーの国内最高位の指導者資格であるS級ライセンスを取得されています。このときからJリーグの監督になることを視野にいれていらっしゃったのですか?

黒田:いやいや、そんなことは微塵も考えていませんでした。青森山田は毎年のように多くのプロ選手を輩出してきました。そんな選手たちがプロに行っても通用するためには、もっとサッカーに関する深い知識や経験を身につける必要があると感じ、ライセンス取得を目指したのです。

水野:結果、その資格が52歳で活かされることになるわけですね。まさに2023年からFC町田ゼルビアの監督に就任するわけですが、50歳を超えて、しかもより厳しい世界へのチャレンジに不安はなかったのでしょうか。

黒田:2021年に全国高校サッカー選手権で優勝し、青森山田は一年で全国3冠を達成しました。そのとき自分の指導人生に一区切りついた気がしたのです。

 心にポッカリ穴が空いたというか、たった一度の人生なので、もっと高いレベルで挑戦してみるのも自分らしい人生だし、「絶対に後悔のない人生を送りたい」と、微かにそんな気持ちが芽生えるようになってきていた、ちょうどそんなタイミングに届いたのがゼルビアからのオファーでした。

 チームは長年に渡りJ2やJ3を行き来していて、なかなか念願のJ1に上がれない状況が続いていました。「クラブを大きく変えたい」「なんとかJ1に参入したい」。そんなゼルビアの思いを強く感じオファーを引き受けることにしたのです。

 ただ、これまで約30年かけて一から作り上げてきた青森山田を手放すのも、可愛い選手たちを置いていくことも、本当に辛い決断であったことは間違いありません。私もある程度年齢を重ね、監督の役職を教え子(コーチ)に受け渡していくタイミングでもあったと思います。

水野:そして就任してすぐに監督の予想通り、チームは大きく変わり結果を出すことができました。

黒田:それはもう私の力というより、メンバー、スタッフ全員が「みんなで取り組めばJ2での優勝はできるんだ」「J1昇格を勝ち取ろう」という強い思いが一丸となったからだと思いますね。

◆◆「負けない」思考を重ねて「勝ち」を積み上げた

水野:監督に就任された当時、チームは良い状態とは言えなかったと思います。立て直しをどのようにはかっていかれたのでしょうか。

黒田:そもそもチーム組織とは「何のために存在しているのか」をまず再確認しました。当然ですが、チームは目的や目標達成のために存在しています。ゼルビアではJ1昇格ではなく、「J2で優勝するためにチームは存在する」という目的意識をしっかりインプットさせました。

 私もこれまで何度も経験してきましたが、やはり「優勝するチーム」はトレーニングを含めた日常生活の中で、良い習慣を確立し、全てにおいて高い水準を維持し、戦うメンタリティーを持ち合わせています。

水野:チーム全体が「絶対に優勝するんだ」というマインドを持ち合わせることが重要なのですね。

黒田:そうです。しかしいくらマインドを持っていたとしても、チーム組織の状態は日々変化します。メンタルコンディションも選手によって大きく異なります。すると当初決めた目標から逸脱したような行動や思考は常に起こってくるのです。

 そういう悪しき思考を持ち込ませないこと、マイナス要因は徹底的に排除することをチーム全体に厳しく意識させました。

水野:悪しき思考は広がりやすいですしね。「ネガティブ思考を許さない」という空気をつくっていかれたのですね。

黒田:はい。日々変化する状況に対して、必要ならマインドの修正も行います。選手たちから目を離さずに、しっかりとモチベーションをコントロールすることに注力しました。大人の集団とはいえ、なかなか矢印が自分に向けられないのが一般的なプロ組織の現状なのかもしれません。

水野:そうだったのですね。実際、2023年ゼルビアに入られて、練習風景を初めて見た時の印象はズバリいかがでしたか。

黒田:率直なところ「これは根本的に取り組みを見直さなくては」と感じました。過去の試合内容を映像で確認したとき、プロなら普通に防げるであろうミスがいくつも散見されたからです。

 例えば2022年シーズンでは、年間失点が50点もありました。得点は51点取れているので上回っていますが、それでも失点があまりにも多い。同年J2首位だったアルビレックス新潟の失点は35点です。まずは失点を減らす。それには悪しき習慣や思考を絶つ。

 やるべきことはシンプルで、就任した日から思考の改善、意識改革、習慣の見直しについて細かく取り組んでいきました。

水野:前述の「負けない」という考え方に加え「失点を減らす」ことにも注目されたのですね。

黒田:そうです。サッカーというスポーツは、点を取らないと勝てないのですが、一方で得点しようと前掛かりになると、必ずカウンターという裏があります。後ろに隙ができたり、そこを一気に狙われたりと、最も失点につながりやすいのです。攻守は表裏一体、そのバランスが重要なのです。

 そこでまずは、失点の少ない試合をする。そうすると、引き分けで終わる「負けない」思考が身に付きます。そうすれば、仮に負けそうな試合があっても、負けを最小限に抑え込むことができます。

 これに答えはありませんので、それぞれの戦力や力関係、試合状況をよく考察し志向していくことが大切だと思います。

水野:勝ったり負けたりを繰り返すような考え方よりも、負けないことに注力することで勝てるゲームを増やしていかれたのですね。

黒田:おっしゃる通りです。「勝つ」ではなく「負けない」というのは、一般的な組織でも大事な考え方だと思います。何より、「負けなかった」というマインドは、「自分たちがやってきたことが間違いではなかった」という裏付けになり、自信になります。「この方法が最適なんだ」と選手全員が思えれば、おのずと勝ちは見えてくるのです。

◆◆必要な時に必要なだけ。「栄養」となる言葉を与える

水野:もうひとつ、黒田監督のマネジメントの手腕は戦略や戦術などの「伝え方の上手さ」にあるといわれています。選手たちに声がけをする際、気を付けていらっしゃることはありますか?

黒田:自分の感覚では普通のことなんですが、さまざまなチームを経験してきた選手から「話がわかりやすい」「一番しっくりくる」と言ってくれているようです。もしかしたらそれは長年、教育者として伝わりやすい授業を探求し、サッカー部監督としてひたすら勝利を追求してきたからかもしれませんね。

 気を付けていることといえば、話す「タイミング」と「伝え方」の2点です。特に若い世代は一方的な伝え方に対してアレルギー反応を示すので、絶対に押しつけのような伝え方はしません。

 選手たちが納得できるタイミングがいつか、それを見計らうこと。そして、適切なタイミングに「必要な分だけ」伝えるようにしています。

水野:たとえるなら、釣りをする時、魚がお腹を空かせていない時間帯に釣りをしても意味がないというのと同じですね。

黒田:ええ、まさにそうです。魚がお腹を空かせていない、餌を欲しがっていない時に釣り糸を垂らしても、魚は食いつきません。

 自己評価としては「長時間釣りをした」という自負はあるし、頑張ったという満足感はあるかもしれません。しかし現実は、魚は食いつきませんし、結果は一匹も釣れていないのです。

 それでは意味がありませんよね。むしろ、魚が空腹のタイミングを見定め、その時間や状況に合わせて釣り糸を垂らすこと。そうすれば、短時間でも成果が得られます。

水野:タイミングは見計らえても、「必要な量だけ話す」というのが意外と難しいと感じます。このあたりはどうとらえていらっしゃるのでしょうか。

黒田:難しく感じる必要はないと思います。例えば、テンションが高い時と落ち込んでいる時だったら、「どんな言葉をかけられたいか」は違いますよね。

 例えばハーフタイム、リードされてベンチに帰ってきたとき、いきなり厳しい言葉をかけてもその時々の感情もあるし、なかなか理解してもらえません。静かに耳を傾けさせて、冷静になってから、「何がまずかったのか」ソフトに問いかける方が明らかに効果的です。

水野:なるほど。相手の立場だけでなく、テンション、状況、すべてを鑑みて言葉をかけるということですね。

黒田:そうですね。多くの指導者は、思いがあるあまり、つい感情的に「言いたいこと」だけになってしまう傾向があるのではないでしょうか。それでは浸透しにくいと思います。

 誰だって、今の自分の心にまったく響かない話を延々とされたら、もうその人からの話は聞き入れたくありませんよね。

 繰り返しになりますが、受け入れる側の気持ちや状態を考慮すること。そして選手の感情にあえて触らない時と、強烈に上げるべき時を見極め、慎重にアプローチすることが重要です。

水野:そう考えていくと、伝えたつもりでも相手には響いていないことも、結構あるのかもしれませんね。

◆◆ロングスロー、ファール、PK……湧き上がる非難の声にも真実は1つ

水野:伺ってきたように素晴らしいチームマネジメントをされて結果を出されているわけですが、突然の快進撃によって注目度が上がったからか、誹謗中傷されることも増えています。例えばロングスロー用のタオル問題などについて、ご自身はどうお考えでしょうか?

黒田:いろんな考え方があって当たり前だと思いますし、従来と違うやり方をすることで反発されることもある程度は仕方のないことだと捉えています。

水野:批判的な意見の一部は、ゼルビアの成績に対するジェラシーがあって過激化している側面もありそうですが。

黒田:ロングスローは私たちだけがやっているわけではありません。当初はネットで強く批判を受けましたが、今では大半のチームがやっています。

 やはり試合には勝ちたいし、それが効果的だと感じたからでしょう。もちろん相手が脅威に感じるプレーであることもその一つです。応援しているチームがロングスローを導入してきたせいか、その逆風はだいぶ弱まってきたように感じます。

水野:確かにそうですね。それでもいまだに黒田さんやゼルビアの些細なことを取り上げて批判的な記事を書いているメディアもあります。

黒田:そういった記事は注目を集め、数字を稼ぎたい明確な意図があります。実際とは違う内容が書かれている記事はよく見かけますし、真実とはまったく違うことがほとんどですから。まったく迷惑な話です。

 メディアは話題性を求めて、必ずしも真実でなくても興味を引くタイトルを付け、平気で内容を捻じ曲げて書きます。真実かどうかはあまり重要ではないメディアも存在します。

 問題は、読者がそれを真実のように受け取ってしまうことにもあると感じています。「情報リテラシー」の有無はネット社会の大きな問題でもありますよね。

◆◆柴崎岳、松木玖生など育てあげた教え子たちの成長は何よりの喜び

水野:青森山田では28年という長期にわたって多くの選手を育てられました。その中で特に印象に残っている選手はいらっしゃいますか?

黒田:やはりワールドカップに出場した選手は忘れることはできません。中学1年生から見てきた柴崎選手が日本代表として活躍している姿は、本当に感慨深いものがありました。

 ロシアワールドカップのときは現地にて試合観戦しましたが、なぜか涙が出ましたね。自分の元で育った選手が世界の舞台で戦っている姿を見たとき、込み上げてくるものがありました。

 松木玖生のような若手選手も、これから世界で活躍してほしいですね。彼も中学生の頃から見てきました。今の時代、彼のようなハートの強い選手が出てくるのは貴重な事です。なかなか育て作れるものではありません。彼の海外挑戦もぜひ応援していきたいと思います。

◆◆混沌とした首位争い

水野:今シーズンのJ1リーグもいよいよ終盤戦。優勝争いは現在首位のサンフレッチェ広島、同2位のヴィッセル神戸、そして3位のFC町田ゼルビアにほぼ絞られました。ご自身としてはこの状況をどう感じていらっしゃいますか?

黒田:夏の終わりころまでは首位にいたわけですから、現在3位というのは非情に悔しい気持ちもありますが、それでもJ1リーグ初参戦のクラブが上位3チームにいることは素晴らしいことだと思います。

 選手たちは本当によくやってくれています。リーグも残りわずかですが、とにかく今までやってきた「勝利のために細部に拘る」姿勢やマインドを忘れず、とことん突き詰めていくしかありません。甘くなっていたところをもう一度引き締めて、残る試合をしっかり戦っていこうと思います。

【インタビューを終えて(水野)】
インタビューを通して、黒田監督の印象が変わった。お会いする前は強面で厳しい方なのかな、と思っていたが。それはもしかしたらメディアにつくられた印象だったのかもしれない。ご本人は終始優しくお話しをされる柔和な方だ。頭の回転が早くて話もうまい。成果を出す監督の、選手とのコミュニケーション術の一端を見た気がした。

【プロフィール】黒田 剛

1970年生まれ。大阪体育大学卒。1994年から28年間青森山田高等学校サッカー部を指揮し、有数の強豪校に育て上げる。その実力を買われ、2023年、FC町田ゼルビアの監督に就任。1年目でJ2優勝、J1昇格を果たした。
著書に『常勝チームを作った 最強のリーダー学』(サンクチュアリ出版)、『勝つ、ではなく、負けない。 結果を出せず、悩んでいるリーダーへ』(幻冬舎)がある。

<取材・文・構成/水野俊哉・高橋真以・掛端 玲 撮影/星 亘>

―[水野俊哉]―

【水野俊哉】
1973年生まれ。作家。実業家。投資家。サンライズパブリッシング株式会社プロデューサー。経営者を成功に導く「成功請負人」。富裕層のコンサルタントも行う。著書も多数。『幸福の商社、不幸のデパート』『「成功」のトリセツ』『富豪作家 貧乏作家 ビジネス書作家にお金が集まる仕組み』などがある。

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