ドラフトで指名されなければ「人生負け組」なのか? 独立リーガーが戦う夢と現実

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2024年12月01日 07:10  webスポルティーバ

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 10月24日、プロ野球のドラフト会議が行なわれた。プロからの指名を待つ選手たちにとっては、運命を決める一日だ。これまで四国アイランドリーグplusでプレーする独立リーガーを長く取材してきたが、最後まで指名されることなくユニフォームを脱いだ選手を多く見てきた。それほどドラフトで指名されることは難しい。

 では、NPBに行けなかった独立リーがーたちは「負け組」なのか? 彼らの目標は「NPBに入る」ことである以上、たしかに負けたのかもしれない。ただこの「負け」は、人生における「負け」ではない。

【やりきることの重要性】

 かつて2007年のドラフトで香川オリーブガイナーズから東京ヤクルトスワローズに指名され、内野手として活躍した三輪正義(現・ヤクルト広報)がこんなことを話していた。

「プロ野球選手になることが、正解じゃないから」

 NPBに進めばそれで、すべてが成功したわけではない。NPBに上がれば、またすぐ次の戦いが始まる。これまでよりも、さらに厳しい世界での競争が待っている。

 2022年のドラフトでオリックスから育成4位指名された茶野篤政は、四国リーグとNPBの厳しさは「まったく違う」と言った。

「いや、今は今で厳しいんですけど、全然違います。厳しさが」

 つまり「NPBに行くためにどうアピールすればいいのか?」と試行錯誤を続けた四国リーグ時代と、オリックスで支配下登録を目指すため、ひたすら安打を放ち続けるしかなかった日々の違いだ。

「なんなら独立リーグの『スカウトにアピールする!』っていうのよりも、『支配下になる!』っていう時のほうが、気持ち的にはかかっていた(前のめりだった)と思うので」

 その結果、開幕前に支配下登録を勝ちとり、史上初となる育成入団新人選手の開幕戦先発出場を果たしている。

 ドラフト指名されることなく独立リーガーとしてのキャリアを終えてしまっても、それは「負け」ではない。それは今後の人生における糧になる。NPBから指名されることよりも、もっと大切なことは「どれだけここでやりきったか?」ではないだろうか。

 これまで20年、四国アイランドリーグを取材してきたなかで、結果的にNPBに進むことになる選手たちがよく口にしていた言葉がある。

「やりきりました」

 そう言える選手は強い。やりきれたことで、納得して選手としてのキャリアを終えられる満足感、達成感がある。NPBに行けなければ、野球はもうあきらめる。そういった覚悟を持った選手たちが、捨て身で挑んだ1年間を終えた時、次の扉が開くケースは多い。

 2019年の岸潤一郎(西武)もそうだった。

「NPBに行ける、行かれへんに関係なく、精いっぱいやったなと。自分のできることは」

 獲るか獲らないか、選ぶのはNPB側である。選手側はどうすることもできない。それがドラフトだ。1年間やりきって、すっきりとした気持ちでドラフトの日を迎えられるか。

 岸のように、最後はドラフトなど関係なく、自分は「精一杯やり切った」と言える。その境地にたどり着けた選手なら、たとえ指名されなくても胸を張って次の人生へと歩み出すことができるはずだ。

【人生のスタート地点としての独立リーグ】

 NPBから指名されるには運も必要になる。現実的には年齢も大きく関係する。同レベルの選手なら、より若い選手が選ばれるだろう。25〜26歳の選手を獲得するには、スカウトも球団の上層部を説得し、納得してもらう必要がある。なぜ、この25歳なのか? 獲得して本当に一軍の戦力として育て上げられるのか? ダメだったときの責任が取れるのか? スカウトにもリスクが発生する。

 いい選手だからNPBに行けるわけではない。むしろ完成された選手だからこそ、行けない場合もある。

 NPBには行けなくても、独立リーグで培った経験を糧に、別の世界で大きな花を咲かせた先輩たちもたくさんいる。拙著『崖っぷちリーガー 徳島インディゴソックス、はぐれ者たちの再起』(カンゼン刊)では、そんな徳島インディゴソックスのOBたちにも登場していただいた。いずれもやりきって、納得して四国リーグをあとにした選手たちだ。

 アイランドリーガーによく尋ねる質問がある。「入団した前と後では、何か変わりましたか?」と。

 ほとんどの選手が、自身の成長した部分について語ってくれる。精神面、技術面、体力面......入団した時から変わっていない選手なんて、まずいない。

 ドラフト時期になれば、やれ「隠し玉」だの「苦労人」だのといった表現で、独立リーグの選手の記事が掲載されることが少なくない。

 そんな時にいつも、いや、いつまでも話題に挙がるのが「こんなに給料が少ない」「環境がよくない」「練習時間を割いてアルバイトをしていた」などといった、いわゆるステレオタイプの独立リーグに対するイメージだ。

 だがひとりの取材者として、そのイメージが彼らの本質をとらえていたかどうか、疑問に感じていた。

 四国アイランドリーグを去る選手に、必ず尋ねてきた質問がある。「四国リーグに来て、よかったですか?」と。

 ドラフトで指名を受けた選手が、「よかったです」と答えるのは当然だろう。だがそれ以外の、目標をかなえられずに現役を引退し、ユニフォームを脱いだ選手たちはどうだろうか。

 彼らの口から「四国になんて来なければよかった」という類の愚痴は、一度も聞いたことがない。むしろ、「野球をするなら最高の環境だった」という声を何度も耳にしてきた。

 なかには思うような結果を残せなかったり、ケガで苦しんだり、満足できないまま去った選手もいる。しかし、ネガティブな言葉が聞こえてこないのは、自分自身がどこまでも真摯にNPBを目指し、挑戦していた証しではないだろうか。

 ここは挑戦の場である。野球をただ続けるためにある場所ではない。だからこそ、最後までやりきってユニフォームを脱いでほしいと思う。最後までやりきって野球を終えた時、たとえNPBに行けなくても、人生において負け組なんかじゃない。

 たくましくなり、可能性にあふれた自分がそこにいる。その時立っている場所は、次の新たな人生へのスタート地点である。

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