二木さんは1980年6月30日石川県生まれの44歳。フリーダイビング (素潜り)により世界中の海を撮影する活動を展開する一方で、素潜りギネス世界新記録を2種目樹立している人物だ。
二木さんが登場したのは、俳優の小澤征悦がナビゲーターを務めるJ-WAVEの番組『BMW FREUDE FOR LIFE』(毎週土曜 11:00-11:30)。同番組は、新しい時代を切り開き駆け抜けていく人物を毎回ゲストに招き、BMWでの車中インタビューを通して、これまでの軌跡や今後の展望に迫るプログラムだ。
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そもそも「水族表現家」とは?
二木さんを乗せて走り出した「BMW X2 xDrive20i M Sport」。そもそも「水族表現家」とは何をする人なのか?本人に説明してもらった。二木:人間目線というよりは、海で共に生きる仲間、家族の一員として水のなかを伝えたいという思いから「水族」、写真や映像など表現手段が多岐にわたることから「表現家」としています。伝える手段はさまざまですが、ただ一つだけ同じなのは、すべてを素潜りで行うということです。もちろん、スキューバダイビングのほうが水のなかに長く滞在することが可能ですが、息を吸うことで出る音や、息を吐き出したときに発生する泡により、生き物たちは逃げてしまい、結果として彼らのなかに入り込むことはできません。一方、素潜りであれば、長時間息を止められないし、早く泳ぐこともできない反面、「新しい仲間が来たのかな」と、海のなかの生き物たちが受け入れてくれているように感じるんです。
二木: 物心つく前の3歳くらいから水泳を始め、毎日練習に通っていたので、水のなかにいることが当たり前というか、自分のいる場所という感覚がありました。中学校に入学してからは、「あなたが誰かなんて関係ない。みんなと一緒にしなさい」みたいな雰囲気に違和感を覚え、窮屈に感じていました。この時期から目は外に向き、日本の「右向け右」的慣習を変えたくて、ドキュメンタリーの制作に打ち込んでいたのですが、すぐに壁にぶち当たって、塞ぎ込んでいたんです。そこで直感的に「水に還ろう」と思い立ち、最初に頭に浮かんだのがスキューバダイビングでした。早速、世界で1番安くスキューバダイビングができる国を調べた結果、1週間後には中米のホンジュラスへ訪れていました。そして、現地の海に頭の上まで入った瞬間「私のいる場所はここだ」となり、私の水中の人生が始まったわけです。とはいえ、先ほどお話ししたように、スキューバダイビングだと生き物たちがどんどん逃げて行ってしまう。日本で感じていた疎外感を水のなかでも感じ、「自分のいる場所はどこにもないのかな」と落胆していたあるとき、たまたま友人が素潜りを勧めてくれて、やってみたら「これだ」と確信しました。全部のパズルのピースがハマった感覚を覚え、そこから素潜り一本で取り組んでいます。
忘れられない、マッコウクジラの子どもと通じ合えた瞬間
二木さんは自分自身を自然写真家ではなく、あくまでも海の生き物の一員であるとの思いで海へ入るという。その思いが海の仲間に届いた、忘れられない瞬間があるそうだ。二木:忘れられないのは、ドミニカ共和国でマッコウクジラと泳いだときの体験です。マッコウクジラは尾びれで個体識別をしていることから、泳ぐ前からどの個体かわかり、何度も一緒に泳ぐうちに顔見知りのようになっていきました。ある日、2頭の子どもたちが泳ぎ始めたので、「お母さんが呼んでいて、ご飯の時間なんだな」と思ったのですが、そのうちの1頭が泳ぎを止めてくるりと振り返り、「ねえ? ご飯だけど、あなたも来る?」と言いたげに視線を送ってきたんです。「いや、私は食べないからなぁ」と思っていたら、「そっか、まあいいよ。私たち行ってくるね」と去っていったんです。ここの出来事があって「ほんとに受け入れられたんだな」と思いましたね。
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素潜りで大事にする心と身体の準備
水のなかに居場所を見出し、海の生き物たちと触れ合う二木さんだが、とはいえ人間は陸上の生き物。何が起こるかわからない海中、それも素潜りで活動するには相応の準備が必要だ。「ご飯を消化するにも酸素を使うので、素潜りをする日は終わるまで何も食べません」と話すように、二木さんは潜水にあたって胃を空にすることを意識しているという。また、肺に空気をたくさん入れて、風船のようにストレッチしやすい状態を作っていたりもするそうだ。そんな話をしているうちに「BMW X2 xDrive20i M Sport」は、今回の目的地に到着やってきた。
ギネス記録に挑戦した理由は「肩書のため」
二木さんは、2011年に2つのギネス新記録を樹立している。タイトルは「洞窟で一番長い距離を一息で行く」。フィン有り100mは1分52秒で世界女性初の記録となり、フィンなし90mは2分2秒で、世界初の記録となった。挑戦の舞台は、メキシコのセノ−テ。このギネス記録に挑戦した理由、そして樹立までの道のりとは?二木:当時は今のようにソーシャルメディアが発達していなかったので、いち素潜り者が何かをしたところで戯言で終わってしまう。だからこそ、「誰か」にならないといけないと思っていました。そこで、世界初、女性初など「初」というのは最初に獲った人のものになると考え、肩書きを得て、伝えたいことをより伝えやすくするためにギネスに挑戦したんです。挑戦の地であるメキシコには5〜6年住んでいた関係で、素潜りの記録を目指す界隈はよく知っていました。挑戦にあたりスポンサーが付けばよかったのですが、無名だったため難しく…。その代わりに現地の仲間たちが助けてくれました。本番のときは、断食も含めて10日間液体だけを摂取し体のなかを空っぽにするなど不安要素は全て省き、できることを全部やった上で臨んだのを覚えています。
このギネス記録を追い風とし、世界の海を股にかけて活躍する二木さん。現在は神奈川県の葉山町に住んでいるが、これまで、ギリシャ、ガラパゴス、トンガ、マレーシアなど、海が近くにある場所で暮らしたり、長期滞在を経験してきたそう。さまざまな場所で海のある風景を見つめ、水中に潜るなかで今、どんなことを感じているのだろうか。
二木:私は海はすべて繋がっていると感じるんです。場所は違うけど、塩を含んだフワッとする空気感はどこも同じですし。たしかに、水の色は場所によって異なりますが、多くの海では同じ顔をした魚たちがいます。茶系の海では茶系にカモフラージュしているし、カラフルな色彩の海ではちょっとカラフルな柄をしているんですよね。
あとは、近年問題になっている「海ごみ」。潮の流れでほかの国から漂流するゴミを見ると、良くも悪くも繋がっていると実感します。私は自然のことは自然に任せるべきだと思うのですが、一方で、私たちが作り出してしまったものは、私たちにしか解決できないのではないかとも考えています。たとえばプラスチックは、太陽光と塩分で次第に砕けていく性質上、長期間浮遊すると触っただけで崩れてしまいます。崩れればマイクロプラスチックになり、海洋汚染の原因になってしまう。そういった人間が作り出したインパクトを減らしていくことが求められると感じています。
一つに繋がった海を舞台に、生き物たちと向き合い続ける二木さん。彼女にとって「未来への挑戦=FORWARDISM」は何か?と訊くと、こんな答えが返ってきた。
二木:南極に行ってみたいです。1m50cmの皇帝ペンギンにも会ってみたいです。あとは北の海に生息する白いクジラ「ベルーガ」にも会って、彼らが水中でどんな風に過ごしているのか、ぜひ一緒に体験して、その体験を皆さんにお伝えしたいですね。
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