大学に入学して以来、正捕手として戦国・東都大学リーグで4連覇。青山学院大の渡部海(わたべ・かい/2年)が成し遂げた偉業は、もっと騒がれていいのではないか。
今秋は、とくに渡部の存在感が際立った。本来ならクリーンアップを任されるはずの西川史礁(ロッテ1位)、佐々木泰(広島1位)のドラフト指名選手に小田康一郎(3年)がことごとく故障。「飛車角落ち」どころではない緊急事態でも、青学大が明治神宮大会で優勝したのは渡部によるところが大きかった。
【東都大学リーグでMVP獲得】
渡部は秋季リーグで打率.356(リーグ2位)、1本塁打、9打点の活躍でMVPを受賞している。それでも、渡部は愛嬌のある笑顔をたたえて、こう語るのだった。
「自分の力だけじゃないですし、リーグ4連覇をできたのは2年連続でドラフト1位指名される選手がふたりもいたことが大きかったと思います。これから勝つのはもっと難しくなりますし、自分が引っ張っていく意識を持っていきます。それに優勝できなければ、周りからの自分たちの評価も下がる一方になるはずなので。キャプテン(佐々木)も『10連覇』と言っていましたが、まずは自分が関われる8連覇まで目指していきます」
今秋、渡部の打撃は、明らかに変わった。一瞬で空間を切り裂くような力強い振り抜き。体幹部をよじらせ、豪快なフォロースルーで弾き飛ばす打撃が見られるようになった。この点について触れると、渡部は胸を張って、こう答えた。
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「バッティングはこの夏に変えて、よくなってきました。今まで前寄りのポイントで打っている感じだったのを、後ろからボールの軌道に(バットを)入れていくことを意識するようになりました。前に突っ込まず、『後ろ、後ろ』というイメージで打っています」
11月30日から3日間、愛媛県松山市で実施された大学日本代表候補強化合宿でも、渡部は強烈な打球を放つなどアピールに成功した。それでも、渡部は「まだまだすごいバッターがいました」と感じたという。
「立石さん(正広/創価大3年)のバッティング練習を見て、飛距離、打球スピードは群を抜いていました。どういう意識で打っているのか、いろいろと話をお聞きしました」
守備では動作のスピードと正確性を磨いてきたスローイングにしても、改善の余地は十分にあると渡部は見ている。
「プロに行くためには、これからスローイングに強さを出していかないと。前嶋(藍/亜細亜大2年)なんて、めちゃくちゃいいボールを投げていましたから。自分もこの冬にレベルアップしないといけないです」
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【投手の力を引き立たせるのが仕事】
これまでの野球人生では、住吉ボーイズ時代にはU−15代表に選ばれ、智辯和歌山高ではU−18代表に選ばれている。だが、大学代表への選出はまだない。今年6月にも大学日本代表候補選考合宿に招集されたが、体調不良のため辞退を余儀なくされている。
「おでこに大きな出来物でできて、目が腫れて野球ができない状態でした。春はいい成績も残せませんでしたし、選ばれても戦力になれたかはわかりません。その分、夏に集中的に練習できたので、秋の結果につながったと感じています」
今回の強化合宿に招集されたメンバーでは、今年も大学代表入りした小島大河(明治大3年)が正捕手候補最右翼だろう。ほかにも捕手陣で頭ひとつ抜けた強肩を披露した前嶋など、ライバルたちがひしめいている。
大学日本代表の堀井哲也監督(慶應義塾大監督)に「代表の捕手に求めるものは、何ですか?」と質問したところ、こんな答えが返ってきた。
「一番はピッチャーの能力をどれだけ引き出せるかです。キャッチャーは技術的にも、身体的にも、精神的にも多くの要素を求められるポジションですが、とくにピッチャーに安心感を与えられるキャッチャーを求めています。その意味では、今年の印出くん(太一/早稲田大4年)はその要素を持っていましたね。来年も彼のようなキャッチャーが中心になると思います」
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投手の能力を引き出す捕手。それは渡部が日頃から意識している捕手像でもある。そんな話題を振ると、渡部は笑って、こう答えた。
「ピッチャーの力を引き立たせるのがキャッチャーの仕事だと思いますし、そんなキャッチャーになりたいです。堀井監督の期待にそえるようにやっていきたいですね」
来年の大学日本代表正捕手、そして再来年のドラフト1位指名捕手、さらには前人未到の東都リーグ8連覇を目指して。渡部海の進化は止まらない。