AYANEOの「AYANEO FLIP KB」は、QWERTYキーボードを搭載する二つ折りポータブルPCだ。PCゲームをプレイしている時のちょっとしたテキスト入力などを想定しているようだが、これを仕事などに活用することはできるだろうか。
そこで今回は、本体のキーボードでどこまで作業できるのか、本気で仕事に使うとしたら、どのような周辺機器があると望ましいのかといったことを検証していきたい。
なお、前提として筆者は通常時にはかな入力を行う“かな入力派”であり、文章入力や写真編集、簡単な動画編集などを仕事として行うライター職であることをお伝えしておく。
●QWERTYキーボード搭載ポータブルPCとしての使い勝手は?
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外付けキーボードやマウスを使わずに、AYANEO FLIP KB単体で執筆作業や画像編集、簡単な動画編集を行えるかどうかを検証してみたい。
さすがにAYANEO FLIP KBの小さなキーボードでタッチタイピングはかなり厳しい。入力スタイルは“親指ポチポチ”となる。ガラケーの「インターネットマシン(SoftBank 922SH)」を思い出すような使い心地だ。
入力できないわけではないのだが、本体にゲームパッド(コントローラー)も搭載して幅広な本体サイズとなっているので、中央付近にある「F」「G」「H」「J」あたりのキーに指を伸ばそうとすると、手のひら全体ではなく、指先でAYANEO FLIP KBを支えなければならない。ポジションをいちいち変えるのが面倒だ。
通常、かな入力を行っている筆者にとって「安易」や「旦那」「アンニュイ」といった単語を入力するのは苦痛だった。というのも「今、Nを何回打ったっけ?」と分からなくなってしまうからだ。前述の通り、タッチタイピングできるようなキーピッチではないので、ディスプレイに目をやり、何が入力されているかを確認しながらタイピングすることも難しい。
一方で、AYANEO FLIP KBならではの便利さもある。1つは3段階で固定できるディスプレイ角度に180度があることだ。これにより、腕と掌外沿(手の小指側の側面)をテーブルにつけた状態で文字を入力していても、ディスプレイを目の高さに固定できる。
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もう1つは、十字キーの存在だ。AYANEOデバイスには専用ユーティリティー「AYA Space」がプリインストールされているが、そのおかげで左のジョイスティックをマウスカーソル移動に、右のジョイスティックをマウスホイール代わりにして操作できる。十字キーはテキスト入力中ではテキストカーソルの移動に使える。
AYANEO FLIP KBのキーボードにもカーソルキーがあるが、その右側に配置された「AYA Space」キーを押してしまいがちだ。それならいっそのこと、「カーソル移動は左手で」と手に覚えさせた方がいい。これでずいぶん入力が楽になる。
もちろん、Google フォトやWindowsのフォトアプリなどで写真を次々と表示させるのも十字キーなら操作しやすい。むしろ、全キーボードに標準搭載してほしいと思うほどだった。
●簡易な写真編集も本体のみでOK
写真の編集作業では、ホコリ取りなど細かい修正をAYANEO FLIP KBのみで行うには無理がある。というのも、ジョイスティックでは繊細なカーソル移動が難しいからだ。
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では光学フィンガーナビゲーションではどうかというと、こちらは長い距離のカーソル移動が不得手のようで、何より感度が良すぎて意図しないところでクリック操作してしまうことが多発した。思い通りに扱うには慣れが必要だ。
とはいえ、輝度変更/サイズ調整/傾き調整などは、本体のみで何の問題もなく行える。スマホで撮影した1枚4MB超の写真を9枚連結して1ファイルにしても、もたつくことはなかった。タスクマネージャーを開いたところ、メモリこそ78%の占有率であったが、それ以外はパフォーマンスに余裕があった。
●簡単な動画編集も問題なし
次に30秒弱の短い動画にテロップを入れる程度の簡単な動画編集を行った。利用したアプリはWindowsで使える「ClipChamp」だ。
動画内の左上と右下に交互に表示されるようテロップを入れてみたが、メモリ占有率が一瞬80%になったものの、GPUは約50%程度、CPUは15%程度の占有率であった。
なお、テロップの位置調整のような繊細なマウスカーソルさばきをジョイスティックや光学フィンガーナビゲーションで行うのに慣れていなかったので、今回はディスプレイをタッチして操作した。
ここまで約3時間、AYANEO FLIP KBのみで作業した。入力した文章の見直しや修正作業などはキーボードを接続して行う予定だし、編集部による修正も入るだろう。しかし、素の部分、ここまでの文章作成は親指のみのポチポチ入力で行えた、ということは強調しておきたい。
●ゲームでの利用は全く問題なし
AYANEO FLIP KBは“ポータブルゲーミングPC”をうたっている製品だ。ベンチマークテストの結果は前編で紹介した通りで、AAAタイトルを遊ぶのに「最高画質」は望めないが、標準画質であったとしても、外出先でプレイする分には十分だろう。その上で、快適に操作できるか試してみたい。
試しにプレイしたのは、ヤギとなってあちこち壊しまくる爽快感がストレス解消にもってこいの「Goat Simulator」と、AndroidでもiPhoneでも同じアカウントで続きを遊べる「ゼンレスゾーンゼロ」だ。
Goat Simulatorの推奨スペックは、2.0GHz Quad Core Processor以上、メモリは4GB以上、グラフィックスはShader Model 3.0、グラフィックスメモリは512MB以上と、かなり低い。
そのおかげもあり、プレイ中に引っ掛かりなどはなく、60fps以上の滑らかな映像を楽しめた。特に、「トレッドミル」を使う場面では、かなり派手に、しかも速いスピードでヤギが弾き飛ばされるのだが、コマ落ちなどなく、ディテールをしっかり表現していた。
ゼンレスゾーンゼロの推奨スペックは、CPUがIntel Core i7以上、メモリが8GB以上、グラフィックスがNVIDIA GeForce GTX 1660以上である。
こちらも、これといって引っ掛かりもなくゲームを進められた。ジョイスティックや、ショルダーボタン、ABXYボタンでの操作は、いずれのゲームでも問題なく行えた。また、フレームレートは30fpsを維持していた。
●あると便利な周辺機器
ここからは、周辺機器で本体の苦手な部分を補いながら作業していきたい。
繰り返すが、筆者はかな入力派である。そのため、US配列キーボードを普段は決して選ばない。よって「いつもは使わないけれど、AYANEO FLIP KBと併用するためだけのキーボード」として、コスパの良い3COINS「タッチパッド付きキーボード(2750円)を購入した。タッチパッドも付いているので、マウスを別途持ち歩く必要もない。
本格的に入力したいというのであれば、手持ちの入力しやすいキーボードを合わせた方が良いだろう。「ThinkPad トラックポイント キーボード II」や「HHKB Sudio」などであればマウス操作もキーボード単体で行えるが、それ以外であればマウスを別途携帯すると作業しやすそうだ。
また、AYANEO FLIP KBにはUSB Standard-A端子がないので、USBハブまたはドッキングステーションのようなものを一緒に持ち歩けば、USBメモリを使ったファイルのやりとりや、USB接続が必要な入力機器を使うのに便利だ。
実際にここまでAYANEO FLIP KBを使って文章作成、画像編集などを行ってみたが、本体のキーボードで(1)入力しづらいこと、(2)ジョイスティックでのマウス操作にイライラしたこと、以外は快適であった。つまり、AYANEO FLIP KBは、「“ミニデスクトップPC”としての利用が一番しっくりくるのでは?」という印象である。
自宅では、ミニデスクトップPCとして、まずは外付けキーボードやマウス、サブディスプレイなどを接続して本格的に作業をする。外出する場合は、その同じモデルを持ち出して、ドキュメントのちょっとした修正を行ったり、プレゼンテーションのタタキを作ったり、メールの返信をしたりするといった使い方ができるだろう。もちろん、本来のポータブルゲーミングPCとして使えば、より豊かな時間を過ごせそうだ。
できることとできないことを切り分けさえすれば、AYANEO FLIP KBはワクワクするようなモデルである。今のところ、国内での取り扱いがないのだけが残念だ。
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