『おむすび』第49回 傷ついた人に善意を押し付ける「米田家の呪い」の暴力性

0

2024年12月05日 20:01  日刊サイゾー

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

日刊サイゾー

 またまたボーっと考えごとをしていることが多くなってきた米田結(橋本環奈)、時おり思い出したように物事をギャル魂にこじつけて何か言う以外、まったく性格がギャルじゃないので、もうファッションで主張するしかないんでしょうね。朝っぱらからノースリーブ&ショートパンツの露出過多でうるさいんです。ギャルファッションにはギャルファッションのTPOってものがあると思うんだけど。

 NHK連続テレビ小説『おむすび』における「ギャル魂」って、そもそもは明るくポジティブで自分らしさを大切にする人と定義されていたはずですが、ドラマから提示される「ギャル魂」って強引にプリクラに連れ込んだり、唐突に「アゲ〜♪」って叫んだりという表層的な部分だけなんです。根本のうじうじと考え込むクセは変わってないので、そういう結の行動が「結らしくない」「結が自分らしく生きていない」と見えてしまっている。

 第49回、振り返ります。

■率先しろ

「炊き出し隊長」に任命された結、近所の大人たちに聞き込みをした結果、炊き出しの料理は味が濃すぎたり薄すぎたりしたという情報を入手します。

 どうしてだろう、と頭を悩ませていると、専門学校の同じ班の連中が次々に答えを持ってきてくれる。カスミン(平祐奈)が先生に聞いてきて「疲れて塩分を欲していたから味が濃くなったのでは」という仮説を持ってくれば、サッチン(山本舞香)は「薄くなったのは野菜から出た水分を加味してなかったのでは」という自説を述べる。モリモリ(小手伸也)は寸胴鍋での温度管理の難しさについて調べてきている。そこまでお膳立てしてもらって、じゃあ「献立考えて」と言われたら、「えっ? うちが?」とか言ってる。

 どこまでも他人任せ。別にそういう人がいても不思議じゃないんだけど、これポジティブの対極にあるキャラクター付けなんです。ポジティブな人は自分で率先して調べるし、わからないことがあれば自分で先生に聞きに行くでしょう。そうやってみんなを引っ張っていくのが「ギャル魂」でしょう。

 思い出してほしいわけですよ。このドラマが最初に提示した「ギャル魂」というのは、自分が大切にしているハギャレンのために、結を誘いに来たルーリー(みりちゃむ)の姿だったはずなんです。どれだけ結が拒否しても「関係なくねー? アゲ〜♪」って、何度も、絶対にあきらめないで、明るくポジティブに目的に向かって全力で走っている姿。それを、このドラマ自体が「これがギャルです」と提示しているわけです。

 ルーリーだって家庭に問題を抱えていたけれど、普段のギャル活の中で「ママが仕事で東京に行っちゃって晩飯代1万円置いていって……(ぼんやり)」なんて考えながらボーっとしていることはなかった。それよりもみんなで楽しくポジティブに過ごす時間を大切にしていた。このドラマがそういうキャラクターを「ギャル」だと言っていた。

 神戸に来てからの結という人が、「栄養士の勉強」という時間を大切にしている感じがしないんですよね。みんなが炊き出しについての注意点をまとめてくれなければ味の濃淡についての悩みは解決していないし、サッチンが「献立考えて」と言わなければ、ずっと「パン屋とナベさんを仲直りさせたいなぁ……(ぼんやり)」とか考えながら目線を宙に泳がせていただけだった。まったく「自分が好きなことは貫け」というギャルの掟にそぐわない行動をしている。あるいは、まあこれはそもそも疑問だったんだけれども、栄養士の勉強が別に好きじゃないんじゃないかと思ってしまう。

 今回、結が6歳のときに避難所でおむすびを食べて「冷たい、チンして」と言ったことを後悔しているからホカホカのおむすびを出したいという話があって、これについては「覚えてないって2、3日前に言ってたぞ」とか「おむすびってそもそも冷めてる状態で食うもんだろ」とか何重ものツッコミを入れたくなる場面だったんですが、それより栄養士の勉強そのものや炊き出し隊長としての責任感、この機会に対する情熱のなさが、ドラマが提示したはずの「ギャル魂」と大きく矛盾していることが感じられた回でした。

 要するに作り手が「ギャル魂」を咀嚼せずに記号だけで処理してきたから、「派手な色の薄着」「プリクラ撮る」「アゲーって言う」くらいしか結のギャルを表現できないんだろうな。お仕着せ感がすごい。基本ギャル好きだからあんまり言いたくなかったけど、ギャル設定を外して「震災のトラウマでずっとうじうじしてた女の子が、神戸に来て徐々に心を開きながら栄養士として独り立ちしていく」という筋のほうがずっとスムーズだわ、これなら。

■あとはナベさんね

 ナベさん今日もしんどかったですねえ。そもそもアーケードに反対していたのが「金もかかるし活気も戻らん」って、理由にもなってない。この人、マキちゃんに「賛成派の米田の娘と遊ぶな」とまで言ってましたよね。

「アーケードなんて金もかかるし活気も戻らんから、賛成派の米田のアユちゃんとは遊ぶな」って、そうとうしんどいよな。

 でも今回はそれ以上に、米田家のおせっかいがしんどかったです。デコ靴を作らせようとするアユ(仲里依紗)、仕事をさせようとする米田パパ(北村有起哉)、そのおせっかいは、これもドラマがさんざん言ってきた「困った人を助けるのは米田家の呪い」ってやつが作用しての行動なんでしょうけど、ナベさん別に困ってないからな。傷ついて落ち込んで寂しがってるだけだからな。

 そういう人に上から目線で「あれをやれ」「これをやれ」って言って無理やり仕事を押し付けて奮い立たせようとするのは、これはもう乱暴すぎるんですよ。暴力ですよ。文字通りの「呪い」ですよ。

 今のナベさんに何かしてやりたいと思うなら、まずは話を聞いてやんなさい。「今年の夏はひときわ暑いね」とかから始まって、徐々に「普段は食事どうしてるの?」とか、少しずつ立ち入って、ナベさんが自分からマキちゃんのことを話し始めるまで、あとは待つんですよ。12年、心を閉ざしてきたんだ。ほっとけないなら、時間をかけて話を聞いてやることからでしょう。それで、「今はこんなことで困ってる」ってナベさんが言ったら、そこで初めてナベさんに対する「人助け」が始まるんだよ。

 根本的に優しくないんだよな、米田家。気味が悪いよ。

(文=どらまっ子AKIちゃん)

 

    ニュース設定