JRグループは12月2日、「往復乗車券」と「連続乗車券」の発売を2026年3月をもって終了することを発表した。これに伴い、片道601km以上の往復乗車券について運賃を10%割り引く「往復割引(復割)」も廃止される。販売終了日以前に購入した往復乗車券/連続乗車券については有効期限まで利用可能だが、具体的な販売終了日はまだ決まっていない。
【訂正:17時】初出時、連続乗車券の例示(パターン3)において「東京近郊区間」であることが考慮から抜けていました。おわびして訂正いたします
●「往復乗車券」の概要
その名の通り、往復乗車券は同じ区間の「ゆき(往路)」と「かえり(復路)」をまとめて購入した場合に発券される。運賃は片道乗車券の2倍と支払う金額は変わりないが、乗車券に有効期限が2倍になるというメリットがある。
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また、乗車券を払い戻さないといけない場合、通常は1枚ごとに手数料が掛かるところ、往復乗車券なら1枚分の手数料で済むという利点もある。
●「連続乗車券」の概要
連続乗車券は「片道乗車券や往復乗車券では対応できない経路」で購入できる乗車券だ。先述の往復乗車券と同様に、払い戻す際に通常は1枚ごとに手数料が掛かるところ、連続乗車券なら1枚分の手数料で済むという利点がある。有効期間は2枚の期限を単純合算されるというメリットもある。
……と、「片道乗車券や往復乗車券では対応できない経路」とはどういうものなのか、パッと思い浮かぶ人はあまりいないと思う。具体的に説明すると、以下の3パターンが考えられる。なお、運賃計算の距離は運賃計算用のものを用いている。
パターン1:「1周してさらに超える」経路に乗車する場合
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東海道本線の静岡駅(静岡市葵区)から国府津駅(神奈川県小田原市)へと向かい、御殿場線経由で沼津駅(静岡県沼津市)まで戻り、再度東海道本線に乗って静岡駅まで戻ってくるルートを取る場合、連続乗車券として購入できる。
この場合は経路上の重複駅(2度通過することになる駅)で運賃計算をいったん打ち切り、その上で、重複駅から戻る駅への運賃を別途計算する。上記の例の場合、運賃計算は以下の通りとなる。
・1枚目の連続乗車券:静岡〜国府津〜沼津間で3080円(163km)
・2枚目の連続乗車券:沼津〜静岡間で990円(54km)
・合計:4070円
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この経路の乗車券は別個の片道乗車券としても購入できるが、有効期間は1枚目が2日間、2枚目が1日間となってしまう。その点、連続乗車券として購入すれば、有効期間が2日間+1日間=3日間に延長されるので、旅程によってはスケジュールに“ゆとり”を持たせることができる。
有効期限は2枚の合算となる一方で、途中下車の可否はそれぞれの乗車券の距離で判断される。上記のケースの場合、1枚目は100km超なので途中下車可だが、2枚目は100km以下なので途中下車できない。
パターン2:「一部が重複する」経路に乗車する場合
東北本線の新白河駅(福島県西郷村)から福島駅(福島県福島市)に向かい、東北本線の郡山駅(福島県郡山駅)に戻ってくる場合、福島〜郡山間が“重複”することになる。一般的には「新白河〜福島」と「福島〜郡山」でそれぞれ片道乗車券を購入したくなるところだが、このパターンの場合は郡山から福島間の経路が重複するため連続乗車券としても購入できる。この場合、運賃計算は以下の通りとなる。
・1枚目の連続乗車券:新白河〜福島間で1520円(88km)
・2枚目の連続乗車券:福島〜郡山間で860円(47km)
運賃は合算して2380円となる。このパターンのメリットや注意点は、先に紹介した「1周してさらに超える」場合と同様だ。
「特急/急行列車や快速列車が目的地を通過する」という場合も、連続乗車券を使うと折り返し乗車がしやすい。ただし、一部の区間では折り返し乗車の運賃を請求しない(無料とする)特例が用意されていることもある(※1)。特例が設定されている区間については、JR各社の運賃案内や時刻表を参照してほしい。
(※1)この特例を適用する場合、折り返し乗車区間での途中下車は一切できない
パターン3:経路上の途中駅で「寄り道」して乗車する場合
中央本線の八王子駅(東京都八王子市)から甲府駅へと向かい、甲府駅で身延線に乗り換えて身延駅(山梨県身延市)に立ち寄り、用事を済ませてから身延駅から甲府駅に戻り、再び中央本線に乗って小淵沢駅(山梨県北杜市)に向かうとする。
この経路の場合、一般的には「八王子〜身延」と「身延〜小淵沢」という片道乗車券を購入する人が多いと思うのだが、甲府でいったん別経路に抜け、再び甲府に戻ってきて元の経路に戻る連続乗車券として発券することもできる。この場合、連続乗車券の組み立ては以下の通りとなる。
・1枚目の連続乗車券:八王子〜甲府〜身延で2310円(136km)
・2枚目の連続乗車券:身延〜甲府〜小淵沢で1520円(89km)
運賃は八王子〜甲府〜身延間の2310円と身延〜甲府〜小淵沢の1520円の合計で3830円だ。
このパターンのメリットや注意点は「1周してさらに超える」場合と同様で、1枚目は100kmを超えているので途中下車もできる。ただし、出発駅から到着駅への片道(往復)乗車券を購入した上で、乗り換え駅で途中下車し、寄り道する区間の往復乗車券を別途購入した方が安くなる場合もある。購入の是非は、運賃をよく計算してから検討したい。
●「往復乗車券」「連続乗車券」はなぜ廃止されるのか?
往復乗車券と連続乗車券の廃止について、JRグループはニュースリリースで「交通系ICカード等の全国的な普及拡大及びご乗車の都度インターネットでご予約いただけるサービスを多くのお客様にご利用いただいていること」の大きく2つを理由として挙げている。
確かに大都市圏を中心に交通系ICカードは広く普及している。しかし、現時点ではサービスエリアをまたぐ乗車は原則としてできない。そのため「JRグループや交通系ICカードの境界駅を毎日またぐ人は(定期券を除き)使いたくても使えないのをどう考えているのか?」という声も聞かれる。境界駅近辺の駅では、特に休日になると交通系ICカードのエリアを“またいでしまって”精算を行う人の行列を見かけることも珍しくない。
また、インターネット予約サービスも普及してきたことは確かで、地域によっては特急券や指定席券、場合によっては乗車券も引き換えずに済む「チケットレスサービス」も便利に使える。しかし、JRグループ各社が“バラバラに”サービスを用意しているため、場合によっては使い分けを強いられる他、発券が必要な場合に予約条件によっては引き換えられる窓口が制限されていたり、前後の区間の乗車券を含まないがゆえに、乗車区間によってはむしろ割高になったりと、誰でも使いやすいかといわれると首をかしげてしまうこともある。
上記の理由に納得できるかどうかはさておき、JRグループはニュースリリースで「『往復乗車券』及び『連続乗車券』の発売枚数が減少している」ともしている。これは本当なのだろうか。東日本旅客鉄道(JR東日本)の広報担当者に尋ねたところ、「当社(JR東日本)に限った話であれば」という条件で回答を得られた(体裁を整えた上で掲載する)。
―― 往復乗車券や連続乗車券の廃止の理由として、販売枚数の減少が挙げられています。どのくらい減少しているのでしょうか。
JR東日本 11月における単月実績で比べると、2024年は5年前(2019年)と比べて20%ほど減少しています。
―― 割合で見てみるとどうでしょうか。
JR東日本 マルスシステム(みどりの窓口/指定席券売機)経由で発券される乗車券のうち、直近1年間の平均では往復乗車券は約16%、連続乗車券は約4%となっています。合わせて2割程度ですね。
―― 往復割引(片道601km以上の往復乗車券に自動適用される割引)が廃止されるのは、単純に往復乗車券が廃止されるからということですか。
JR東日本 その通りです。往復乗車券の廃止に伴い、取り扱いを終了します。
―― 今回のリリースでは「学生割引(学割)」など購入時に割引証の提出が必要な割引乗車券や、「ジパング倶楽部」(※2)の取り扱いの変更も告知されています。どのような変更がなされるのでしょうか。
JR東日本 大前提として、現在使っているお客さまに著しく不利となる変更は避けなければなりません。そうならないように、JR各社において細かな調整を進めています。まだ発表できることはありませんが、調整がまとまり次第、ニュースリリースなどでお伝えします。
(※2)旧国鉄時代からある、JRグループ共通の会員サービス。現在は男女共に満65歳以上から加入可能で、年会費(3840円)を払えばJR線の乗車券類(片道/往復/連続で201km以上:一部対象外あり)が1年間に20回まで割引購入できる他、JRグループ各社が運営するホテルを優待価格で利用できる(その他、各社独自の特典を用意している場合もある)
あくまでもJR東日本単体での実績だが、往復乗車券を購入する人が思った以上に少ないことに驚いた。「だったら片道乗車券に絞って、運賃体系をシンプルな方向に持って行こう」と考えても、無理はないように思える。
ただ先述の通り、JRグループ各社のインターネットサービスはバラバラな状態で、しかもJRグループをまたいで利用できる割引乗車券類が昔と比べて減ってしまっているのも事実だ。いくら「インターネットサービスを使ってください」と言われても、中長距離移動を視野に入れるほどに、使いづらい面も目立ってくる。
筆者個人としては、総合的なサービスの向上につながるなら、割引制度の縮小/廃止は進めても構わないと考えている。ただ、やみくもに割引制度を縮小/廃止していって、結果としてサービスの悪化につながるのなら本末転倒だ。“別法人”とはいえ、同じ「JR(Japan Railways)」の呼び名とロゴを共有しているのだから、その辺はもう少し考慮に入れてほしいと思う今日この頃だ。
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