iPhoneやユニクロと並ぶニッポンの定番商品が、ホンダの軽スーパーハイトワゴンのN‐BOX。しかも、今年9月には実に個性的なSUVモデルを追加して大きな話題を呼んだ。というわけで、専門家などに徹底取材を敢行し、ベストセラーカーの魅力を大解剖してみた!
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■"絶対王者"に新型SUV爆誕!
今年も"絶対王者"が売れに売れた!
10月4日、自販連(日本自動車販売協会連合会)と全軽自協(全国軽自動車協会連合会)が2024年度上半期(4〜9月)の国内新車販売ランキングを発表。それによると、総合トップに輝いたのはホンダの軽スーパーハイトワゴン・N−BOX! 2位はスズキの軽スーパーハイトワゴン・スペーシアであった。加えて、N−BOXはランキングで唯一となる10万台超をマークし、2位に2万台超の差をつける圧勝ぶり。
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ちなみに昨年まで、N−BOXは新車販売の年間総合ランキング(1〜12月)で3年連続、軽部門では9年連続トップの独走状態! まさに問答無用の"シン・国民車"である。今回(今年4〜9月の販売実績)の結果を踏まえ、自動車業界の関係者からは、「総合ランキング4年連続、軽部門10年連続トップの金字塔目前!」という声も。
そもそも初代N−BOXがデビューしたのは2011年12月だが、すでにシリーズ累計販売台数は250万台を軽く突破している。そんな怪物カーが昨年10月に3代目にバトンタッチ。しかも、間髪入れず今年9月27日にSUV風味マシマシのN−BOXジョイを爆誕させたのだ。この怒涛(どとう)の展開について、N−BOXの開発責任者を務める諌山(いさやま)博之氏はこう語る。
「正直言いますと、3代目N−BOXは開発当初から標準、カスタム、ジョイの3台セットで考えていました。戦略上、3代目発表時にジョイの存在をお伝えできず、本当に心苦しかった」
近年、日本市場では軽スーパーハイトワゴンSUVが急伸している。当然、過熱するこの市場を意識したジョイ投入だと思うが、実際のところはどうなのか。
「現在、N−BOXの保有台数は256万台です。実はN−BOXを乗り継ぐ顧客の数が多く、『N−BOXに新たな選択肢が欲しい』という声が寄せられていたんです。そこで、人気のSUVタイプの投入を検討すべく、市場調査を行ないました。すると、キャンプに出かけるというより、公園などでリラックスする人が多かった。それもあってジョイは日常使いと趣味性を両立させました」
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■最大のライバルはスズキの軽
経済アナリストの森永卓郎氏は、"N−BOX無双"の秘密をこう分析する。
「N−BOXは軽自動車ですから、自動車税、重量税、高速道路料金などが安く、コストパフォーマンスの面でも魅力的です。その上、安全性が高く、室内も広くて、たっぷり荷物を積める。何よりN−BOXはエンジンがいい。軽ですが、ホンダ伝統のスポーツライクなエンジンを受け継いでおり運転が楽しい」
すでに売却したそうだが、2代目N−BOXのFF(前輪駆動)ノンターボを所有していた自動車ジャーナリストの桃田健史氏もうなずく。
「首都圏を中心に、東北、北陸、関西など各地を走りましたが、走りの良さは圧倒的です。これは自動車の基本性能の指標であるNVH(ノイズ=騒音、バイブレーション=振動、ハーシュネス=路面からの突き上げ)への対応がとてもいいからです。ただし、軽自動車ではハーシュネスへの対応がコスト面から難しい場合が多い」
しかし、N−BOXは別格で、ホンダのN−BOXに対するコストのかけ方がハンパないのだという。
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「当然、自動車メーカーとしての利益を圧縮しますが、ホンダとしては走りの良さにこだわったわけです。その結果、N−BOXはロングセラーになった。量産効果によってコスト増もある程度は吸収できているのでは」
気になるのは使い勝手だ。
「助手席のスライド量が大きいなど、シートアレンジが豊富です。後席部の使い勝手も良く、フルフラットシートではありませんが、車中泊にも十分対応します。リアハッチも大きく、荷物の搭載性もいい。余談ですが、人気車なので売却時の下取り価格(リセールバリュー)も高かった」
ニッポン市場で無敵のクルマ状態のN−BOX。それを猛追するのが、昨年11月に6年ぶりのフルチェンを受けたスズキのスペーシアだ。
「デビューから1年がたつ3代目スペーシアですが、販売はすこぶる好調です」
ホクホク顔でこう話すのは、スズキの販売店関係者。実際、スペーシアの快進撃はすさまじく、今年5月の新車販売の総合ランキングでN−BOXを退けて首位に! この大番狂わせは大きな話題になった。何しろスズキが新車販売総合1位に輝いたのは9年5ヵ月ぶり。2014年12月のワゴンR以来の快挙だったからだ。人気の理由をスペーシアの開発責任者である鈴木猛介(たけゆき)氏に聞いてみた。
「デザイン、装備、機能と価格面がようやく適正になった結果だと思います」
それを裏づけるように、前出の森永氏がこう言う。
「実はスペーシアのXに来年1月に乗り換えます」
これまでホンダの軽N−ONEに10年乗ってきたという森永氏。当然、今回の乗り換えに際してN−BOXも検討している。スペーシアの決め手はなんだったのか。
「実際に試乗すると両車に大差はありません。しかし、下取りを含めたコミコミの見積もりが、N−BOXは200万円台。一方のスペーシアは170万円だったんです。加えてN−BOXはガソリン車で、スペーシアはマイルドハイブリッド車ですからね」
つまり、スペーシアはコスパが高いという話である。
「僕はホンダのN−ONEに10年乗ってきた。関越道なんかを走っていると、普通車にどんどん追い抜かれる。でも、前述のとおりホンダ車はエンジンがいいし、運転していて楽しい。ただ......僕も70代目前で、普段は畑などに荷物を運ぶだけなので、今回はスペーシアに軍配が上がりました。もう少し年齢が若かったらN−BOXを選んだかも」
■N−BOXジョイの内装に賛否!?
9月20日、スズキは2代目スペーシアギアを発売した。約6年ぶりのフルチェンを受けた人気のSUVモデルで、N−BOXジョイのガチ対抗だ。外観はジムニーやハスラーなどSUVモデルと同じ伝統の丸目ヘッドランプを与えられた。ちなみにデザインテーマは"武骨かわいいをもっと武骨かわいくする"。つまり、全体的に先代の底上げを敢行したわけだ。これが功を奏したようで、10月の新車販売でスペーシアは1万4234台(前年同期比50.8%増)を達成するイケイケ状態!
一方、N−BOXは10月の新車販売総合ランキングでトヨタのヤリスに僅差で敗れて首位陥落。ホンダ入魂のN−BOXジョイを投入しながら1万6821台(前年同期比26.7%減)で、絶対王者としては物足りない数字だ。実際、SNSなどには《N−BOXに異変が起きているのでは》と指摘する声も。
ホンダの販売店関係者からはこんな話が聞こえてきた。
「N−BOXジョイの内装は、全車チェック柄の撥水(はっすい)シートを採用しています。ただ、実車を見た一部のお客さまからは、『外観は好みだが、シートはもっと落ち着いた色がいい』という声も......」
連勝街道をバク進してきた絶対王者N−BOXにも弱点はあるようだ。好調スペーシアがどこまで牙城を切り崩せるか。来年もこの激熱バトルに注目したい!
取材・文・撮影/週プレ自動車班