チェイス・アンリ(シュツットガルト)インタビュー@前編
2024-25シーズンも序盤のおよそ3分の1を消化した。今季ヨーロッパでプレーする日本人のなかで、最も成長が期待される有望株をひとり挙げるとするならば、ドイツ・ブンデスリーガのシュツットガルトに所属するDFチェイス・アンリ(20歳)で間違いない。
今季の数字(12月5日時点)を見ていくと、ブンデスリーガでは全10試合中5試合でフル出場・途中出場3試合、時間は594分。チャンピオンズリーグでは先発1試合・途中出場3試合。このなかにはサンチャゴ・ベルナベウでのレアル・マドリード戦のCLデビューというスペシャルな経験も含まれている。
ドイツカップでは1回戦、2回戦、ベスト16すべてフル出場。2022年4月にシュツットガルトと契約してU-21(セカンドチーム)の所属となり、昨シーズンまでは一度もトップチームで出場機会のなかったチェイスが、一気に主力と言える立場にまで躍り出たのだ。
今季はセンターバックの主力として期待されていたダン=アクセル・ザガドゥが昨季終盤に負った故障箇所を再び痛めて戦線離脱。最終ラインが手薄になりかけたところで頭角を表わしたのが、加入3シーズン目のチェイスだった。
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「シーズン前は、100パーセントの期待はできなかった、しかし、アンリというオプションが加わった。ザガドゥを欠いた現状だが、私は楽観的だ」
こう話すセバスティアン・ヘーネス監督も、チェイスが期待以上のパフォーマンスを発揮していることを認めている。
勢いに乗るチェイスにインタビューするため、シュツットガルトのクラブハウスに訪れたのは11月中旬のインターナショナルウィーク中。練習を見ていると、全体トレーニング終了後にアンリはコーチとふたりでトレーニングを始めた。
それは、ごくごく基本的な「止める・蹴る」の練習だった。時間にしてほんの数分だったが、丁寧にそのメニューに取り組み、練習場から引き上げていった。聞けば、この数分間の地道な練習こそがシュツットガルトを選んだ理由なのだという。
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【きっかけは高校3年時の練習参加】
── 今季はチェイス選手を取り巻く状況が一変しました。どう感じていますか?
「試合にいっぱい出られて、いろんな経験もできて楽しいです。ただ、楽しいは楽しいですけど、難しいこともあって......自分の課題がもっと見えてくるので」
── 今日の練習でもシンプルな「止める・蹴る」をやっていました。それは課題のひとつなのですか?
「そうですね。練習後に俺が『やりたい』っていったらコーチが付き合ってくれて」
── 昨季までシュツットガルトのテクニカルコーチだったナサニエル・ワイス氏(現バイエルン・セカンドチームのマンツーマンコーチ)が「チェイスの希望で『止める・蹴る』の練習を毎日していた」と話していた記事を読みました。それと同じような練習ですか?
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「そうです。ネイト(ワイス氏)がいた時は、いつもそういう練習をしていました。今はいないから、別のコーチとやっている感じです。俺、ネイトのおかげでシュツットガルトを選べたんです。ああいう(基礎技術に関する丁寧な)練習をしたいなって思っていたので、海外への移籍を決断しました」
── きっかけは何があったのですか?
「たしか高校3年の時かな、シュツットガルトの練習に参加したんです。期間は1週間くらいで短かったし、ブンデスリーガのシーズン中でもあったので、トップチームはみんな疲れているから練習もたいしてやらなくて。あくまで試合前の確認、という感じでした。
でも、セカンドチームの練習に参加した時にネイトがいて、そういうテクニカルな練習をずっとやったんです。そうしたらすごく気にかけてくれて、『お前、ここに来てずっと一緒にやろうぜ』と声をかけてくれたんです。やっぱり基本が一番大事ですからね」
── ネイトさんは「チェイスの向上心があってこそのトレーニングだ」と言っていたようです。
「基本的な練習を繰り返して、その取り組んでいることができるようになると、やっぱり楽しいですからね。でも、だらだらとやっていると、ああいうのは飽きるんです。今日のように全体練習後に短時間で集中してやれば、ちょうどいい感じです」
【「俺が一番うまい」と思っていたのに...】
── 当時在籍していた尚志(しょうし)高校では、あまり基礎技術の必要性は感じていませんでしたか?
「そうですね。昔はあまり、そういう練習を集中的にはやってこなかったので。でもこっちに来たら、より完璧にプレーしなくてはいけないから、基本が大事だと思えるようになりました」
── 日本の高校サッカーではチェイス選手のフィジカルが相手を圧倒していたので、基礎技術の必要性を意識しなくても問題がなかった?
「どうなんでしょうね。たしかに高校時代は(基礎技術が低くても)やれていたかも。まわりはみんなうまかったんですが、自分も自信を持ってプレーできていたんで、技術はあまり気にしなかったかな。
自分の武器はフィジカルってわかっていたから、そこまで技術にこだわる必要がなかったのかもしれません。周りの人が気持ちよくプレーできればいいかな、くらいしか考えていなかったかも」
── ストロングポイントは理解していたと。
「高校時代は『俺が一番うまい(いい選手)』と思っていて、ずっと自信を持っていた感じですね。でも、高校3年の最後の大会の時期は、『けっこう下手なんだ』って思い込んじゃって......。あまりいいプレーができなくなったんですよね。ほんと、なんでかわからないですけど」
高校3年の最後の大会、つまり2021年の年末から行なわれた高校サッカー選手権に、チェイスの所属する尚志高校は福島県代表として出場。チームは2回戦で敗れたが、チェイスは優秀選手に選ばれた。
2022年1月には、A代表の合宿にもトレーニングパートナーとして参加する機会を得た。A代表を率いる森保一監督も直接、チェイスのプレーを目の前で確認している。
世間の注目を集め始めたこの時期に「自信を失った」とは、いったい彼に何があったのだろうか──。
(つづく)
◆チェイス・アンリ@後編>>サッカー日本代表へのこだわりは? アメリカ代表の可能性はあるのか
【profile】
チェイス・アンリ
2004年3月24日生まれ、神奈川県横須賀市出身。アメリカ人の父と日本人の母との間に生まれ、3歳から12歳までテキサス州で育つ。中学1年生の夏に帰国し、本格的にサッカーを開始。福島県の尚志高に進学し、高校2年生の時にU-17代表に招集され、翌年は飛び級でU-22代表にも呼ばれる。高校卒業後の2022年4月にドイツのシュツットガルトと3年契約を結んで渡欧。2024年7月にトップチーム昇格を果たす。ポジション=DF。188cm、81kg。