朝ドラ『おむすび』50代俳優2人の「亡き父」は昭和の名優。父子で不思議に共鳴するシーンを発見

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2024年12月07日 09:20  女子SPA!

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『おむすび』©︎NHK
 橋本環奈主演の朝ドラ『おむすび』(NHK総合)で共演する北村有起哉と緒形直人が、ほんと滋味深い。

 出演場面が不思議と映画的に感じられる。不意に思い出すのは、それぞれ昭和の名優だった彼らの父たちによる共演映画である。

 イケメン研究をライフワークとする“イケメン・サーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が、時代を超えて類似し、共鳴する俳優父子の共演を読み解く。

◆なんだかやけに映画的な場面

『おむすび』第8週第37回、福岡の糸島から神戸に移り住んだ米田一家が、昔なじみの行きつけだという中華料理屋で夕食をとる。懐かしの味を大いに堪能した帰り道場面。

 商店街のある店の前で、主人公・米田結(橋本環奈)の父である米田聖人(北村有起哉)がふと足をとめる。震災を機に神戸を離れた米田一家が、因縁を残してきた渡辺孝雄(緒形直人)が営む靴店である。

 店前で立ちどまる聖人をカメラは薄暗い店内から捉える。扉のガラス枠に足をとめるタイミングといい、枠内にすっぽりおさまる感じといい、なんだかやけに映画的な場面だなと思った。

◆北村有起哉と緒形直人の共演

 聖人は、少しの間、店内をじっと見つめる。店奥では孝雄がぽつんとひとりいて、電気を消す。結の姉・米田歩(仲里依紗)の中学生時代の親友であった娘を震災で失って以来、彼は商店街の面々とも付き合おうとせず、心を閉ざしている。

 結の祖父・米田永吉(松平健)に連れられ、糸島へ越した米田一家のことを裏切り者だとさえ思っている。商店街で理容店を営んでいた聖人は、ぎりぎりまで復興を手伝っていたが、糸島で家業の農作業に集中するようになっても気持ちは常に神戸に向いていた。

「なべさん」と親しく呼んでいた孝雄との関係性をずっと気にしている。神戸に再度移住して、靴店の前を通りかかるこの神戸編の聖人は、過去を解きほぐす決意でいる。そのあたりの因縁のやり取りは、北村有起哉と緒形直人の共演だからこそ、慎ましく、豊かに演じられる。

◆父親は昭和の名優同士

 ここで確認しておきたいのは、『おむすび』で北村有起哉と緒形直人が共演する41年前、それぞれの父たちが映画の世界で共演していた事実だ。北村有起哉の父・北村和夫は、杉村春子の相手役として舞台『欲望という名の電車』でスタンレー役を演じ、1955年に文学座の座員になった。映画界では、今村昌平監督作品の常連でもあった昭和の名優。

 一方、緒形直人の父は、野村芳太郎監督の『鬼畜』(1978年)やカンヌ国際映画祭で最高賞を受賞した今村監督の『楢山節考』(1983年)など、骨太でありながらどこか表層的にもつやっぽい演技を魅力とした緒形拳。昭和の名優同士の共演は、それだけで映画が豊かだった時代を今に伝えてくれる。

 代表的な共演作として筆者が特筆しておきたいのが、五社英雄監督の『陽暉楼』(1983年)だ。舞台は、あでやかな芸妓がいる料亭・陽暉楼。芸妓を斡旋する主人公・太田勝造を緒形拳が、陽暉楼の主人・山岡源八を北村和夫が演じた。

◆ガラス枠にすっぽりおさまる姿が類似

 山岡の初登場場面が、ふたりの少ない共演場面を印象付ける。勝造は愛人である珠子(浅野温子)の頼みで、陽暉楼の女将・お袖(倍賞美津子)へ売り込みに行く。夕食中のお袖が渋い顔で聞いているところへ、山岡がやってくる。

 勝造と珠子が座る間、部屋戸の外から山岡が中を覗き込む。「よう」と中腰で入ってくる北村和夫の貫禄。世間話程度で、山岡は上手側にある違う戸からでて行く。この場面の北村和夫は、部屋の下手の戸から上手の戸へ単純な動線移動をしただけである。

 にもかかわらず、このシンプルな芝居の動きがやたら印象に残る。共演場面としてはあまりに少ないが、山岡が入ってくるときにガラス枠にすっぽりおさまる姿は、『おむすび』第37回で店内を見つめる北村有起哉と偶然にも類似している。

◆俳優父子の連動

 ただ、北村有起哉はその場面では扉を開けて、入店するわけではない。戸から戸への動線移動では類似しない。代わりに、その移動自体はまた別の場面で演じられる。

 第9週第42回で聖人は、再度靴店をたずねて、糸島の野菜を入れた袋を置いていく。第37回では扉の先までは入らなかった聖人が、この場面ではしっかり入店して、戸から店内へ動線移動を完了させる。

 続く第43回、聖人が理容店の床掃除をしていると、外から店内を覗く人がいる。今度はガラス枠に緒形直人がすっぽりおさまる。「なべさん」と言って、すかさず聖人が扉を開ける。孝雄は入らず、聖人が差し入れた糸島の野菜が入った袋を「いらんゆうたやろ」とぶっきらぼうに突き返す。

 戸を媒介にして演じられるやり取りは、上述した『陽暉楼』の場面を踏まえて見ると、時代を超えて類似し、共鳴する俳優父子の連動として捉えることができる。

<文/加賀谷健>

【加賀谷健】
音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu

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