「不夜城はなぜ回る」の元TBS名物Dが退社理由語る「自分は安全圏から取材しているなと…」

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2024年12月07日 13:00  日刊スポーツ

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ABEMAの新番組「国境デスロード」を手がける大前プジョルジョ健太ディレクター(撮影・佐藤成)

東野幸治(57)とあの(年齢非公表)がMCを務めるABEMAの新バラエティー番組「国境デスロード」(土曜午後9時)が今日7日からスタートする。番組の企画・総合演出を務める元TBSの大前プジョルジョ健太ディレクター(D=29)がこのほど取材に応じ、テレビ局退社の経緯、番組への思い、今後のビジョンを語った。(全2回の1回目)


【佐藤成】


◇◇◇


順風満帆のテレビマン人生を送っていたが、入社6年目の今年2月にTBSを去った。大前Dが企画・立案した同局系で22年10月から23年3月末まで放送された深夜バラエティー「不夜城はなぜ回る」(月曜深夜11時56分)は、今年ギャラクシー賞1月度月間賞を受賞。同局を背負う名物ディレクターへ育っていくかと思われたが、突然の決断だった。


「元々はTBSドキュメンタリー映画祭というのがありまして、それに1回応募して『身をもって会社を辞めるドキュメンタリーを撮らせてください』とTBSに言って、OKをもらえたんですけど、いろんな事情でできないとなりまして。でも辞職届も出していたので、流れで辞めてしまったっていうのが一番の本音ではあるんです…。社会実験のようなことをしたかったんです」


もう1つ、会社を辞める理由があった。それは会社に所属していることが取材の足かせになっているのではないかという思いが常にあったからだった。


「『不夜城−』の時にいろいろな人と出会って、テレビ局という特性上、結局自分は安全圏から取材しているなというのはいつも思っていて。結構過酷な状況でも頑張っている人というのを多く取材してきたんですけど、そういう人の話を聞いていてもどこか自分がわからない部分があった。テレビ局という守られたものの中からしかその人と向き合えてない。本当に同じ人間として、その人と対話するということを考えると、自分も1回やめないといけないんじゃないかなと思いました」


会社を辞める思いが芽生えたのは「不夜城−」が終わった昨年の春頃。そこから会社の復職制度を活用し、今年の2月に退局した。会社を辞めて、まず向かったのはハローワークだった。退職者がどのような動きをするのか身をもって体感した。無職という不安感を味わった。


「国とか行政をばかにしているわけではないんですけど、やっぱり守ってくれないんだなというのは思いましたね。事務的にお金をくれるんですけど、ただすぐにお金もらえるわけじゃない」


その頃「国境タクシー」という企画を思いついた。自らタクシー運転手になり、国境を越える人々の生きざまを撮るというものだった。無職で感じたのは孤独、そして恐怖だった。目を付けたのが「国境」だった。そこには国籍がない人たち、居場所のない人々がいるのではないか−。自身の母親がインドネシア国籍であることも、その問題意識をより強くした。


「いろいろ考えていましたけど、居場所がなくなって、国境に行ってみたいと完全にかじを切ったかもしれないです。辞める前ぐらいから確かに国境への興味はありました。自分がタクシー運転手になって、国境を渡る人を乗せようとしたんです。なのでワーキングホリデーのビザなども調べました。そのうちに、ワーホリビザだと運転手になるハードルが高いことが分かって、それでどうしたもんかなと思い悩みました」


壁にぶつかっている時に相談したのが番組プロデューサーとなる堀川恭平さんだった。もともとテレビ朝日社員で、ABEMAに出向中。局こそ違えど、入社年が同じで親交のあった友人に、飲みながら「国境タクシー」の構想を伝えた。ABEMAで持ち込み企画として実現できないか、と。あらためて企画書を用意し、提出すると上司に話を上げてもらった。「面白い。ただVTRをみないと分からない」と反応があった。とりあえずメキシコとアメリカ国境へ向かい、無我夢中で撮った。すでに11月16日に「#0」として放送された内容で、その撮れ高から本放送が決まった。


「自分が描きたかったのは生きている人間の力強さ。TBS時代にいろいろな人を取材して、頑張っている人がいると、僕も頑張らなきゃと思えた。夜働いてる時に、深夜のビルで光を見ると誰かもまだ頑張っているから頑張ろうと思えるように。移民とか不法滞在とかニュースでは見ますけど、ただの文字でしかなくて、顔が見えてこないなと常に思っていた。国境に行ってそういう人を見たら、アメリカに行く移民という文字が、例えばカルロスっていう具体的な名前に置き換わると言いますか。力強く生きている人を描きたいなというところで国境を選んでいる感じですね」(続く)

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