ラノベはどうやって世界に広がった? 渋谷TSUTAYA「ライトノベル展2024」で知る軌跡と現在地

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2024年12月08日 08:10  リアルサウンド

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「ライトノベル展2024」がSHIBUYA TSUTAYAで開催中

 渋谷がライトノベルに染まっている。11月30日から12月16日までの日程で、SHIBUYA TSUTAYAを会場に『ライトノベル展2025』が開催。KADOKAWAが刊行しているライトノベル作品や関連書籍、人気作品のグッズを販売。主要な作品の表紙を並べるコーナーも作ってライトノベルのファンを楽しませている。長月達平の『Re:ゼロから始める異世界生活』の人気キャラクター、エミリア、ラム、レムが登場する映像をバックに写真を撮る外国人の姿からは、”ラノベ”が世界的な人気を獲得していることが伺える。


◾️「ライトノベル」と呼ばれ始める前から名作を送り出してきたKADOKAWA


 SHIBUYA TSUTAYAの1階に足を踏み入れると、壁にずらりと並んでいるライトノベルの表紙が見える。その数から、KADOKAWAが刊行してきたライトノベルの多さが分かる。自分が読んできたライトノベルの表紙を見つけて喜ぶ年配者もいて、歴史の長さもうかがえる。


 KADOKAWAからは現在、角川スニーカー文庫、富士見ファンタジア文庫、電撃文庫、MF文庫J、ファミ通文庫と主な文庫レーベルだけで5つのライトノベルが刊行されている。これに単行本のサイズで刊行されているノベルズも加わって、毎月数え切れないほどのライトノベルが送り出されている。SHIBUYA TSUTAYAの店内や外側に掲示された表紙はそれらのごく一部。現在までに世の中に出たライトノベルは何冊に上るのか? 研究意欲をそそられるテーマだ。


 ライトノベルの定義についてはさまざまあって、ジュブナイルと呼ばれるティーン向けの小説に源流を求める人もいれば、SFの中でもキャラクター性が強く打ち出されたシリーズを原点とみる人もいる。そもそも「ライトノベル」という呼び方自体が、パソコン通信サービスの掲示板の中で提案され、ジュブナイルやヤングアダルト、キャラクター小説といった様々な呼び方の中から抜きん出てきたものだ。


 そうした名称が定着する以前から、KADOKAWAはスニーカー文庫やファンタジア文庫といったレーベルを世に送り出し、水野良の『ロードス島戦記』や神坂一『スレイヤーズ』といった作品で歴史を築いてきた。ここに、『ブギーポップは笑わない』の電撃文庫を刊行していたアスキー・メディアワークス、ゲームのノベライズを数多く手がけていた『ファミ通文庫』を刊行していたエンターブレインが統合され、『ゼロの使い魔』が大ヒットしたMF文庫Jのメディアファクトリーも加わって、KADOKAWAにライトノベルの主要レーベルが集まる今の状況が生まれた。


◾️「ライトノベル展2024」の内容は?


 SHIBUYA TSUTAYAで開かれている「ライトノベル展2024」は、そうしたKADOKAWAのライトノベルのイベントで、大森藤ノ『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』(SBクリエイティブ)のGA文庫や、雨森たきび『負けヒロインが多すぎる!』(小学館)のガガガ文庫は入っていない。それでも、「ライトノベル展」の名に偽りがないと言えるだけのスケールを、KADOKAWA傘下のライトノベルレーベルだけで持っていると言える。


 会場には実際に、ライトノベルの歴史を記した年表が展示されている。1987年10月の「角川文庫より、ファンタジージャンルを中心としたラインナップが角川文庫・青帯として独立。後の角川スニーカー文庫の母体に」というトピックを始まりに、富野由悠季監督による『機動戦士ガンダム1』の刊行、『ドラゴンマガジン』の創刊などを経て、1988年11月の「富士見書房より富士見ファンタジア文庫が創刊」へと至って文庫レーベルとしてのライトノベルが誕生する。


 このあたりの経緯を記した本に、KADOKAWAの社史『KADOKAWAのメディアミックス全史 サブカルチャーの創造と発展』がある。これによると、1986年に開催された「ファンタジーフェア」で80年代のSF小説ブーム、少女小説ブームを汲んで当時の人気作家に書き下ろしの小説を書いてもらったことが発端となり、角川文庫の中にキャラクター性の強い作品を出す「青帯」が作られ、スニーカー文庫へと続いていった。


 グループの富士見書房でも、「ドラゴンマガジン」の創刊に続いて竹河聖『風の大陸』と田中芳樹『灼熱の竜騎兵』がファンタジア文庫として登場。同時に新人賞の募集が始まり、そこから神坂一『スレイヤーズ!』が現れた。『KADOKAWAのメディアミックス全史 サブカルチャーの創造と発展』自体は、社史として関係者に配られたほかは、期間限定で電子版が配布されただけで今は読むことができない。ライトノベルだけでなくゲームやアニメでの業績についても触れられているだけに、改めて刊行されて欲しいものだ。


◾️『SAO』『Re:ゼロ』…今や世界で視聴されるアニメを盛り上げるライトノベル


 アニメといえば、ライトノベルは現在の日本におけるアニメの隆盛をもたらした要因のひとつと言える。まず『スレイヤーズ!』がアニメ化されて大ヒットしたことで、メディアミックスの核と捉えられるようになった。そして2003年刊行の『涼宮ハルヒの憂鬱』から始まった谷川流のシリーズが、2006年にテレビアニメ化されて爆発的な人気となり、ライトノベルのアニメ化を大いに盛り上げ、深夜アニメという枠も定着させた。


 ヤマグチノボルの『ゼロの使い魔』や竹宮ゆゆこの『とらドラ!』といった作品は、ライトノベルとして読むよりアニメとして見た人がもしかしたら多いかもしれない。川原礫『ソードアート・オンライン』も、アニメを通して全世界に広まり、それが原作の翻訳を世界に展開する原動力になっている。世界で日本のアニメ人気が高まっていることもあり、作品の世界展開に向けたアニメ化は今後も積極的に行われるだろう。


 KADOKAWAではこうしたライトノベル原作のアニメ作品を、早くから海外向けに展開して来たが、最近はクランチロールやNetflix、AmazonPrimeビデオといった映像配信サービスで、日本での放送と間を置かず配信され、いっしょになって盛り上がれる。海外からの観光客が渋谷に来て、いっしょに写真を撮るほどの知名度をライトノベルが得ている背景には、そうしたディストリビューションチャネルの変化がある。


 橘公司の『デート・ア・ライブ』は、中国での人気が絶大で、5期にわたってアニメシリーズが作られたのもそうしたファンが見込めるからだと言われている。KADOKAWAという会社に世界の視線が集まっている理由には、日本のアニメに対する需要が高まっている中で、アニメ化に向いた多くのライトノベル作品を持っていることがあるのだ。


 キャラクタービジネスでも、ライトノベルは漫画と並んで大きな力となっている。ハルヒや『Re:ゼロ』のレムなどはその一例。「ライトノベル展2024」では『Re:ゼロ』からレムではなくヒロインのエミリアがピックアップされ、ハルヒや『SAO』のキリト、橘公司『デート・ア・ライブ』の夜刀神十香、井上堅二『バカとテストと召喚獣』の姫路瑞希もキービジュアルに並んで存在感をアピールしている。6階ではグッズが販売され、7階ではコラボレーションカフェも展開されて、5人も含めた好きなキャラクターに近づける。


 漫画やアニメのキャラクターなら、『鉄腕アトム』の時代からビジネスの種になっていたが、小説となるとアニメ化でもされない限りキャラクターグッズが盛り上がることはなかった。ライトノベルは小説でありながら、キャラクターでもビジネスが成り立つことを示した。漫画やアニメのような表紙とイラストが添えられたことも大きいが、強い個性を持ったキャラクターたちを描くことに、ライトノベルのクリエイターたちが取り組んできた現れとも言えるそうだ。


 2020年代に入ると、ライトノベルも文庫レーベルに留まらず、ノベルズの方にも広がって、丸山くがね『オーバーロード』や理不尽な孫の手『無職転生 〜異世界行ったら本気だす〜』、馬場翁『蜘蛛ですが、なにか?』、逢沢大介『陰の実力者になりたくて!』といった作品が刊行されるようになった。「小説家になろう」「カクヨム」といった小説投稿サイトから注目作を書籍化する流れとも相まって、こちらも刊行点数が増えるばかりだ。


 もしも10年後にまたSHIBUYA TSUTAYAで「ライトノベル展2034」が開かれたら、今度はフロアを何層も使って表紙絵を飾らなくてはいけないくらい、数多くのライトノベルが世の中に登場していそうだ。


(文=タニグチリウイチ)



このニュースに関するつぶやき

  • 宇宙皇子にハンターD、新井素子作品も今だとラノベに入るんだろうか。私はファンタジー・SF・幻想文学が好きだが、ラノベ分類されてる作品あまり得意じゃない。
    • イイネ!6
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