若者を中心に車離れが叫ばれている現代。運転免許を持たない人や、車を所有していない人も増えているようだ。そんな昨今だが、まだまだ車が必要になる場面が多いことも事実だろう。神奈川県の会社に勤務する佐々木俊彰さん(仮名・40代)は、自動車の運転が下手な社員に、苦労した経験を持っている。
◆車の運転が“極端に下手”な部下
佐々木さんは営業部に所属。係長として現場監督のような役割を担っていたそう。そこで佐々木さんを困らせたのが、春日翼さん(仮名・20代)という2年目の社員だった。
「春日くんは非常に真面目な社員でした。コミュニケーション能力も高く、お客様からも評判で、注文も取れていました。そんな彼の唯一の弱点が、運転が下手なこと。新卒の募集要項には『普通自動車免許必須(AT限定可)』と記載していたため、極端に下手な人はいなかったのですが、春日くんは入社のために短期間で取得し、その後車に乗っていなかったらしいんです。
営業に行くとほぼ必ずどこかしらに傷をつけてくる。とくに車庫入れが苦手らしく、ブレーキランプがボロボロになってしまうこともありました。同行した社員によると真面目な子なので、安全運転を心がけているらしく、スピードは出しません。ですが、とにかく車庫入れができない。客先の駐車場でぶつけてしまうこともあり、問題になりました。本人が非常に反省しているため、怒ることもできず困ってしまいました」
◆相変わらず車で行くたびにトラブルが発生
「慣れればうまくだろう」ということで、しばらくは同行することになったそうだが……。
「最初は練習の意味合いも兼ねて運転させていたのですが、まず走るスピードが遅く、アポの時間に間に合わなくなる事案が発生。周囲が見えていないので、助手席に座っていると怖かった。運転をアドバイスしているうちに、教習所の教官の仕事までやっているようで、だんだんバカらしくなってきて、私が最初から運転することが増えていきました。
あたりまえのように私が運転するようになると、春日くんは安心したのか、助手席で堂々と寝るようになりました。なんだか私が部下になったようで、気分が悪かったですよ。もともと、『運転がうまくなるために』という理由で同行していたし、再び1人で営業に行ってもらうことにしました。公共交通機関で行けるところを中心に割り振るようにしましたが、車が必要な客先もあえて行かせました。ところがやはり車で行くたびに、傷をつける、なかなか駐車できずに遅刻するなどの事態が続きました」
◆高速道路で衝突事故を起こしてしまい…
運転下手が直らなかったという春日さん。結局、どうなったのだろうか。
「ある日、春日くんが高速道路で衝突事故を起こしました。車は大破し、全治3カ月の大怪我。生きているのが奇跡というくらいの事故だったんです。会社として今後も同じようなことが怒るのは困りますし、私も部下を死なせたくはありません。ただ、『車を運転できない』という理由でクビにはできないので、経理部に異動ということで決着しました」
車の運転が下手なことで部署異動になった春日さんの現在を佐々木さんはこう話す。
「車の運転のせいで経理部に異動になった春日くんなんですが、今は高級車を乗り回しているそうなんです。あるとき『運転、うまくなったの?』と聞いたら、『できるようになった』と。『じゃあ、営業に戻る?』と打診すると、『営業車に乗るとトラウマが蘇ってなにもできなくなる。あのときはイップスのような状態でした』と言うんです。私はとりあえず笑っていましたが、高級車を乗り回すことにムカついてしまって。営業に戻ることは、私の目が黒いうちはないですね」
自動車の免許を持っていても、運転が苦手な人はいる。適材適所を考えた配属を考えてもらいたいものだ。
<TEXT/佐藤俊治>
【佐藤俊治】
複数媒体で執筆中のサラリーマンライター。ファミレスでも美味しい鰻を出すライターを目指している。得意分野は社会、スポーツ、将棋など