ドラ1を2人輩出、大学「4冠」の青学大はなぜ強くなったのか 安藤寧則監督が明かすチーム成長の過程

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2024年12月09日 10:40  webスポルティーバ

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【西川や佐々木をはじめ4年生が貢献】

 今季の大学野球を締めくくる明治神宮大会は11月25日、昨季は準優勝だった青山学院大が、初めて決勝に勝ち進んだ創価大を7対3で下して優勝。2008年の東洋大学以来となる史上5校目の大学4冠(春・秋のリーグ、大学選手権大会、明治神宮大会)を成し遂げた。

 青学大は左肩脱臼の佐々木泰(ささき・たい/広島1位指名)、右手人差し指骨折の西川史礁(にしかわ・みしょう/ロッテ1位指名)ら4年生の先発出場が見送られた。しかし初回、「相手の出鼻をくじき、『取り返すのが大変だ』と思わせるような得点だったと思う」(安藤寧則監督)という中田達也(3年)の満塁弾が飛び出し、その後も終始試合を優位に進めてタイトルをつかみ取った。

「(昨年の決勝で)慶應義塾大さんに負けたあと、一塁側のベンチで人目をはばからずに涙していた佐々木の姿が印象に残っていて。チーム全員が『絶対に負けたくない』という思いを持って、この1年間やってきました」

 就任5年目の安藤寧則(あんどう・やすのり)監督は「本当にいろいろなことを乗り越えてきた」と安堵の表情を浮かべ、「優勝した瞬間はいろいろな場面が頭をよぎりましたが、4年生がいてこそチームが"一枚岩"になれたのではないかと思います」と、ベンチで後輩の成長を見守ることになった4年生たちが果たした役割の大きさに言及した。

 4冠の達成、西川と佐々木がNPBのドラフト1位指名を受けるなど、今季も圧倒的な強さを見せつけたが......。華やかに見える栄冠への道のりは決して平坦ではなかった。

 春のリーグ戦は8連勝スタートも、日本大に(5月15〜17日)連敗して勝ち点を落とすと、中央大との2回戦も敗戦。ただ、勝ったほうがリーグ勝者となる中央大との第3戦では、不振が続いていた佐々木が気を吐いた。

「自分が打てていなくてもチームが勝てている。その状況がとにかくしんどかった。『キャプテンの自分が下を向いてはいけない』という使命感で、前を向いて練習し続けたことが好結果につながりました」

 そんな佐々木に3ランが飛び出すと、このリードを守りきった青学大が3対1で勝利した。

【少数精鋭で「全員が戦力」】

 6月には、早稲田大を逆転で下して全日本選手権連覇を達成。続く秋のリーグ戦では西川、佐々木に加えて、小田康一郎(3年)も故障で戦線を離脱した。クリーンナップ不在の苦境に立たされたが、それでもチームは粘り強い戦いを見せ、全チームから勝ち点(※)を獲得して優勝をつかみ取った。

(※)リーグ戦で先に2勝したチームに与えられる。

 日頃から「指導者ができることには限界がある。その先の部分は選手次第」と話す安藤監督は、東都2部だった青学大を率いることになった2019年以降、一貫して選手の自主性に重きを置いたチームづくりを行なってきた。

 指揮官に就任した翌2020年の秋には、8季ぶりの2部優勝と1部昇格を達成。チームは日に日に力をつけ、2023年にチームは3冠を果たすなど強豪チームに成長した。

 強さの理由を問われた安藤監督は「チーム力が結果に反映されたことが、一番の要因です」と答えた。部員が100人を超えることも珍しくない大学野球で、青学大の部員は44人(2024年6月・全日本選手権時点)。チームは「全員が戦力」の方針を掲げており、少数精鋭で勝利するために、監督自らが高校に出向いて"チームカラーに合う選手"を発掘し、チームに招き入れているという。

「選手に声をかけるかどうかは、僕が『一緒にやりたい』と思えるかどうかを一番大切にしていますが、客観的に見ると、高校時代の指導者から愛情を受けて育てられてきた選手が多いように感じます。大切にされてきたからこそ、いい表情で野球に取り組み、素晴らしいプレーが見せられるのではないかと思います」

 4冠を達成した今季の4年生は、チームがまだ2部にいた時代に発掘した選手たち。高校3年時にコロナ禍が直撃し、春夏の甲子園が中止となる憂き目に遭った世代でもある。

 安藤監督は、「当時は練習試合を観に行き、『選手とご縁をもらおう』と決めた数週間後に試合ができなくなったりする状況はありましたが、早めに動いていたこともあって影響はさほど受けませんでした」と振り返ったが、対面でのコミュニケーションが限られるなかでのチーム作りの難しさもあり、安藤監督は「手のかかった世代」と話す。

「本当にいい奴らですが、大勢の人と一緒に過ごした日々が少なかったせいか、僕の思いが伝わりにくい部分があった。対話に時間がかかったことはあったように思います」

 それでも、安藤監督の的確なチームマネジメントもあり、「最後の1勝を手にし、ようやくたどり着くことができた」という4冠を成し遂げた。

【後輩に託された栄光のバトン】

 同時に、チームに対する包囲網は、日に日に厳しくなりつつあるように感じられるが......。

「周囲の皆さんは『追われる立場になっている』と言ってくださいますが、選手たちは、(4冠という)結果になっても不思議ではない日常を過ごしています。また、次に向けて気持ちを切り替えているので、追われる立場にいるような感覚ではプレーしていないように感じます。大会を通じて見つかった反省点や『何を大事すれば好結果につながったのか』を再確認しながら、足りないところのレベルアップを図っていくだけかなと思っています」

 明治神宮大会の決勝後も、安藤監督は来季に向けた意欲を語っていた。

「今日は(先発メンバーに)4年生がいないなかでもこれだけ素晴らしいゲームを 見せてくれて、『頼もしい後輩を持ったな』と思います。下の学年がいなければ4冠は絶対に達成できなかった。来年も4冠を取れるように頑張ってほしいです」

 ロッテから1位指名を受けた西川は、怪我の影響で本大会は代打のみの出場で2打数2三振。決勝でも9回2死で登場したが見逃し三振に終わり、「自分自身に甘いところあって、まだまだ技術不足だと感じました。(8回2失点と)好投していた中西(聖輝)に恩返しできず申し訳ない。これまでで一番悔しかった打席だったので、今後の成長につなげていきたい」と、反省しながらも後輩に向けてエールを送った。

 西川が名前を挙げた3年生エースの中西は、「本当に素晴らしい経験をさせてもらったので、『次は僕たちが主役となって、もう1度監督を日本一にするんだ』という強い決意が生まれました。一度も負けずに4冠を目指すことを目標にしていきたい」と、栄冠のバトンを受け継ぐ覚悟を口にした。

「(西川は)グラウンドに立つだけで、『やっと出てきたのか』という歓声が上がり、(球場全体が)吸い込まれるような感覚がある。そのくらいのスーパースターになれるように僕も努力をしていきたいと思います」

 来季のドラフト上位指名候補と言われる最速152km右腕が、大学ラストイヤーに挑む。前人未到の栄冠からスタートを切る新チームは、どのような歴史を紡いでいくのか。来春のリーグ5連覇に向けた歩みはすでに始まっている。

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