ベガルタ仙台はJ1にいなきゃいけないクラブ ピッチで流した涙が郷家友太をさらに強くする

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2024年12月09日 11:01  webスポルティーバ

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 自分たちの未来を閉ざす笛が、冬の冷たい風を切り裂く。

 ベガルタ仙台の郷家友太は、ピッチにゆっくりと座り込んだ。

 12月7日に行なわれたJ1昇格プレーオフ決勝が終わると、中継と配信のカメラはクラブ史上初のJ1昇格を決めたファジアーノ岡山の選手たちを切り取った。そのカメラのフレームの外側で、郷家は天を仰ぐのでなく、両手で顔を覆うのでなく、バッタリと倒れ込むのでもなく、その場に座り込んだ。こみ上げる感情と静かに、しかし真正面から向き合っているようだった。

 リーグ戦5位の岡山のホームに乗り込んだ6位の仙台は、勝たなければJ1に昇格できない。だが、岡山には今シーズンの対戦で連敗を喫している。J2へ降格した2022年以降の全6試合の成績でも、2分4敗と勝利がない。

 GKスベンド・ブローダーセンを中心とした岡山は、リーグ2位でJ1に自動昇格した横浜FCに次いで失点が少ない。ブローダーセンのクリーンシートは、全38試合のうち20試合を数える。仙台も今季2試合で1点しか、しかもPKでしか得点できなかった。

 勝たなければ昇格できないレギュレーションを考えても、先制点が大きな意味を持つ。追いかける展開は避けたい。

 ところが、20分に失点してしまうのだ。

 郷家は「そこまではまだ(想定の)範囲内だったので、焦りとかはなかった」と言う。チームにダメージを与えたのは、後半途中の61分に喫した2点目だ。

 岡山の木山隆之監督が「あれで勝利を確信しました」と話したように、ハードワークと高い強度で局面を制する相手の堅守が際立っていく。仙台の森山佳郎監督は交代カードを切り、選手の立ち位置も変えて攻撃するが、相手の守備組織を決定的に崩せないまま終了の笛を聞いたのだった。

 試合後の取材エリアで、郷家は最初にテレビカメラの前に立った。ゲームキャプテンを務めてきた25歳は、チームを代表する立場にある。

「守備時は5バックになる相手に対して、どこから入っていくかとか、練習とミーティングで作戦を練っていたんですけれど、うまくスペースを消されてしまって。クロスが入っても相手のほうがゴール前の枚数が多かったりとか、やっぱり苦戦したところはあります」

【本当に刺激のある1年だった】

 テレビカメラのライトから離れて、ペン記者に囲まれる。すでにいくつかの質問をさばいてきたが、試合を分析するには時間が足りないようだった。どれほど時間があっても、気持ちがまとまらないかもしれない。プレーオフ決勝とはそういうゲームである。

「まだあまり頭のなかがうまく整理できないんですけど、レギュラーシーズンを通して2試合とも気づいたら負けているっていうのが岡山戦だったんで。この堅い守備を最後まで、今日を含めて3試合を通して崩せなかった悔しさと、最後にJ1昇格を掴めなかった悔しさが今、ホントにあります」

 郷家は宮城県多賀城市の出身だ。ベガルタ仙台のジュニアとジュニアユースに在籍し、ユアスタで試合を観戦し、サポーターとともにスタジアムに歌声を響かせた。

 記憶にあるチームは、J1の舞台で戦っていた。だからこそ、「ベガルタ仙台はJ1にいなきゃいけないクラブだと思っています」と、ことあるごとに話してきた。

 プレーオフ決勝を控えたオンライン会見では、「僕は小さい頃からJ1で戦っているベガルタ仙台を見ているので、1年でも早く昇格して、子どもたちがJ1でプレーするベガルタの選手を見て育ってほしいなと、本気で思っています。サポーターのためにも、子どもたちのためにも、全力で戦いたいと思います」。

 2022年オフにJ1のヴィッセル神戸から完全移籍で加入したのも、生まれ育ったクラブをJ1へ戻したいとの思いからだった。

 加入1年目の2023年は、チームトップの10ゴールをあげて攻撃を牽引した。2年目の今シーズンはゴール数こそ「5」にとどまったものの、フィールドプレーヤーでは2番目に多いプレータイムを記録した。ゴリさんこと森山監督は「ゴール数だけで測れない貢献度がある」と、その存在感をたびたび評価した。

「去年の僕は、点は取れてたんですけど、それ以外の献身性──走る・戦うという部分が、もしかしたらおろそかになっていた。ゴリさんが監督になってベースをチーム全体に植えつけていくなかで、自分も変わらなきゃいけないんじゃないか、このリーグで勝ち抜くためにもっと自分がやらなきゃって思った。そこはホントにゴリさんには感謝していますし、何気なく時間がすぎていたサッカー人生のなかで、本当に刺激のある1年だったのかなって思います」

【1秒たりとも忘れちゃいけない】

 昨シーズン16位だったチームは、6位でフィニッシュしてプレーオフ決勝まで勝ち上がった。個人的にもポジティブな変化を感じ取れるシーズンを過ごすことができた。

 それでも、J1には届かなかった。

「16位からプレーオフ決勝までいけたのは、ホントにみんなの成長があったからだろうし、スタッフやサポーターのサポ--トがあったからこその順位だと思います。でもやっぱり最後、突破しないといけない。また来年、同じところからスタートしますけど、この悔しさは1秒たりとも忘れちゃいけない。

 この敗戦はチーム全員が成長できる理由になるというか、絶対に忘れちゃいけないゲームだと思う。僕自身は自分のサッカ--人生で一番悔しい瞬間だった。自分の地元のチームが負けたので、人一倍悔しい気持ちと、サポーターをJ1へ連れていけなかった申し訳なさがあります」

 試合終了直後から、悔しさと歯がゆさ、自分への物足りなさが全身に突き刺さった。負の感情に襲われる試合を繰り返さないために、歓喜を爆発させる岡山の選手たちから目を背けなかった。

「もしかしたら、自分たちがああやって喜んでいたかもしれない。サッカー選手としてこういう悔しさは、カップ戦の決勝とかリーグ戦の最後しかない。そういう場に立てたので、自分たちは敗者なんですけど、勝者のああいう姿を忘れないように、という思いでした」

 リーグ最終節でプレーオフ進出を決めた試合後、フラッシュインタビューで涙をこぼした。この日の試合後も、サポーターのエールを聞いて瞳を潤ませた。たくさんのものを背負いながら、シーズンの最後までピッチに立ち続けた。

「いろいろなプレッシャーもありながら戦ってきたので、ちょっと一回、頭からサッカーを離したい」というのは、率直な思いだろう。それでも、「来シーズンこそは」との決意が、たしかに立ち上がっている。

 クラブの未来を背負う子どもたちに、次こそは歓喜の瞬間を届けたい。届けなければならない──決して揺るがない思いが郷家を奮い立たせ、仙台というチームに欠かせないこの男を、さらに強くするはずだ。

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