ここ9試合でわずか1勝と、突如勝てなくなってしまったマンチェスター・シティ。プレミアリーグ4連覇中の王者に何が起こっているのか、ライターの西部謙司氏が分析した。
【9戦してわずか1勝の絶不調】
マンチェスター・シティはリーグカップ4回戦でトッテナムに敗れ、そこから公式戦7試合勝ちなし。ケチのつけはじめだったトッテナム戦が10月30日(現地時間、以下同)、それ以降の結果は以下のとおりだ。
10/30 リーグカップ ●1−2 トッテナム
11/2 第10節 ●1−2 ボーンマス
11/5 CL第4節 ●1−4 スポルティング
11/9 第11節 ●1−2 ブライトン
11/23 第12節 ●0−4 トッテナム
11/26 CL第5節 △3−3 フェイエノールト
12/1 第13節 ●0−2 リバプール
12/4 第14節 ○3−0 ノッティンガム・フォレスト
12/7 第15節 △2−2 クリスタル・パレス
この間、1勝2分6敗。あの強かったマンチェスター・シティが、いったいどうしてこうなっているのか。
おそらく最も大きな要因は負傷者の多さで、とくにMFロドリの長期離脱が影響していると思われる。ローテーションが限定されたための疲労の蓄積という、副作用もあるだろう。
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戦術的な観点からは複数の要因があげられる。敗因がひとつではないからだ。
例えば、同じ4失点のスポルティング戦(CL第4節)とトッテナム戦(プレミアリーグ第12節)でも敗因は異なっていて、リバプール戦(同第13節)も違っている。
全体的な傾向として言えそうなのは、シティがかつて持っていた優位性が削られているということ。それはシティ自身の問題でもあるが、外的な戦術変化もある。
【シティのボール保持に対する守り方が周知されている】
シティのサッカーは一貫していて、ボール支配によってゲームを支配するスタイルだ。
ところが、対戦相手の変化によって、ボール支配がゲーム支配に直結しにくくなった。さらにボール支配そのものが危ぶまれるようになった。
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ボール支配の効力に疑問符がついた試合として、CL第4節のスポルティング戦が挙げられる。
スポルティングは本来、シティと似たプレースタイルだが、この試合に関しては撤退戦に徹していた。5バックの前に2ボランチ、2シャドー、1トップの5人が五角形を形成するように配置されていた。しかし、このやり方はさほど効果的ではなかった。わずか4分でフィル・フォーデンが先制。その後も何度もゾーンの五角形の中へ進入されている。なかなかボールを奪えないスポルティングは、自陣から身動きがとれなくなっていた。
ただ、シティはあまりにも押し込めるので攻撃時のDFの位置がハーフウェイラインを越えて敵陣の半分ほどまで上がっていて、38分にはカウンター一発でヴィクトル・ギェケレシュに同点弾を食らう。裏をとられた時点でまだ相手がハーフウェイラインを越えていない(=オフサイドにならない)という事態は、ギェケレシュのような推進力のあるFWを相手にした場合に極めてリスキーと言える。
しかし、これ自体はシティが自らのプレースタイルを貫く以上、つきまとうリスクであり、想定内のコストと考えられる。問題は後半だった。
後半開始から4分間に2失点。守備の脆弱性については後述するとして、戦術的な問題点は2点をリードされた後に表われている。スポルティングは守り方を変えた。5バックの前に置いたゾーンの五角形を解体し、シティのMFをマンツーマンで抑え込みにかかる。すると、シティはボールを保持していても崩せなくなっていった。
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スポルティングはシティの手の内をよく知っている。自分たちも同じプレースタイルだからだ。最初の守備はうまくいかなかったが、後半の修正は効果的だった。この試合を最後にマンチェスター・ユナイテッドの監督に就任したルベン・アモリム監督は、少なくとも2種類の守り方を用意していたわけで、シティのボール保持に対してどう守るかはすでにいくつかの対策が周知されている現状を示唆していたと言える。
【ライン間を封鎖される】
プレミアリーグ第11節、ブライトンもまたシティ対策を徹底している。
守備陣形は、スポルティングが前半に行なって効果がいまひとつだったものと同じ。シティの3+2のビルドアップ隊に3トップ+2ボランチの5人で対する。スポルティングと少し違っていたのは、5バックを高めに配置していたことだ。
シティの5人のビルドアップに対して5人を当てているので、ブライトンのボランチが前に出た時点で、5バックとボランチの間でシティのインサイドハーフがフリーになる。そしてこれこそがシティのビルドアップ時の狙いであり、ライン間で浮くフォーデン、イルカイ・ギュンドアンへボールを入れることで崩しのスイッチを入れる。
ところが、ブライトンは中央の3人のDFが適宜に前進してライン間へのパスを迎撃した。センターバック(CB)の前進守備によるライン間封鎖は今や定石になっている。フォーデン、ギュンドアンがそうであるように、小柄な技巧派を巨体のCBがファウル覚悟で潰す。もともとリオネル・メッシ対策として出てきたやり方は、メッシ本人に効果はなかったものの、一般的には非常に効果的だった。この試合でも一定の効果を発揮して1失点に抑え込めている。
ライン間封鎖に対して、シティはより多くの人数をライン間に投入して流動化させ、潰しにくる相手DFに的を絞らせない攻め方をしている。これは今季のバルセロナも同じで、「ライン間対策」への対策として有効でもあった。ただ、それと引き換えに失ったものもあり、それはシティ側の問題と言える。
通常、シティはふたりをライン間に配置するが、さらに人数を増やす。つまりウイングが中へ入る、ボランチを上げる、それ以外の選手を上げる、そのいずれかになる。
第12節のトッテナム戦では、右ウイングにリコ・ルイスを起用した。リコ・ルイスはライン間要員だ。リコ・ルイスが中へ入るので右で幅をとる役割はカイル・ウォーカーだった。結果的にシティは右サイドの攻撃力を失っている。ライン間とサイド。この両面攻撃が相乗効果を上げてきたのに、サイドを失ったことでライン間も失っていた。
【ウイングの不発と守備の脆弱性】
今季のシティはウイングにかつての威力がない。サビーニョとマテウス・ヌネスは、かつてのリヤド・マフレズやラヒーム・スターリングほどの突破力を示せていない。ジェレミー・ドクは突破力抜群だが、スーパーサブ的な起用になっている。カットイン型のウイングに対してはふたりで守るやり方が浸透していて、ドリブルの威力が半減していることもある。ライン間とサイドの威力が減少すれば、ボールを保持する意味も減少してしまう。これはシティが直面している外圧だ。
ボール保持の優位性が削がれている。ただ、それとは別の問題を露呈したのがリバプール戦だった。
リバプールの4−2−3−1システムに対し、シティはマヌエル・アカンジを「偽CB」とする3−1−4−2。つまり、1対1を10個作る完全マンマーク策を採る。しかし、これは完全に裏目に出た。1対1でリバプールに負け続け、ろくにビルドアップもできないまま前半だけで少なくとも6回の決定機を作られてしまう。
フォーデン、ベルナルド・シウバ、リコ・ルイス、ギュンドアンの主力は小柄で1対1の守備にはあまり向いていない。それでも彼らがいることでライン間の増員や流動性が保てる。シティのプレースタイルの根幹を支える選手たちだ。だが、自ら選択したとはいえ、1対1の戦いに分解されてしまった時にリバプールの優位は明白だった。
これはスポルティング戦の後半にもみられていて、他の試合にも共通していた。相手がリバプールだったので、より脆弱性が明らかになったにすぎない。
可変によるパズルの妙は、シティの際立った優位性だった。偽サイドバックや偽CBを駆使しての相手のプレスの無効化だが、相手もパズルがうまくなったことで効果が減少した。そして、相手もビルドアップを身に着けているので、ハイプレスもかつてほど効果がない。パズルを封殺すべく1対1にすると、フィジカル面で優位な相手には逆に脆弱性をつかれてしまった。こうした流れを見ると、シティの時代は終わってしまったかのように思えるかもしれない。
しかし、リバプール戦でもリバプールが後半に構えて守るようになると、シティはボール保持を回復させ、攻め込めるようになっている。以前ほどの優位性はなくても、まだ大半の相手にシティのスタイルは通用する。自分たちから崩れなければ復活の可能性は残されているはずだ。
ただ、相手を圧倒してこそのシティであり、圧倒できない時はもともとのリスクが顕在化してしまう。本当の意味での復活は、再び相手を圧倒できるかどうかにかかっているのではないか。