プロゴルファー・香妻陣一朗インタビュー 後編(全2回)
グレッグ・ノーマンがCEOを務める「LIVゴルフ」は、サウジアラビアの政府系ファンドをバックにして、その桁外れの賞金額が話題だが、実は、今後のゴルフツアーのあるべき形を先行しているとも言われる。
LIVはギリシャ語で「54」。3日間、54ホールで行なわれる試合は、すべての組が同時にスタートするショットガンスタートを採用している。その結果、ギャラリーは短時間で観戦を楽しんで帰宅できるメリットがあり、選手の負担も軽減される。チーム戦の導入も、野球やサッカーのように、フランチャイズの意識がファン層の拡充につながると期待されている。
そんな新しい試みがなされているLIVの実態を、来季も参戦が決まった契約選手の香妻陣一朗に聞いた。
>>インタビュー前編を読む
|
|
【みんながハッピーでいられる仕組み】
――LIVゴルフは、3日間競技などギャラリーや選手へのホスピタリティの高さが話題になっていますが、実際はどうですか?
香妻(以下同) 3日間競技は選手の負担も少ないですね。経費的な面でも、日本やアメリカのPGAの場合は、移動費も宿泊費などは自己負担ですが、そのあたりもLIV側が持ってくれます。子供を預ける簡易託児所もあるので、選手の家族も子供を預けて自分たちは試合を観戦して、終わってから子供を迎えにいくということもできます。ホスピタリティという意味では相当いいですよね。
――プロアマ戦も、ハーフでプロ選手が変わるんですよね。
はい。選手の負担軽減にもなりますが、ゲストの方は2人のプロゴルファーと回れるので、ゲストの方にも好評らしいです。
――ある意味、これからのツアーのあるべき姿がLIVにはある、ということですかね。
|
|
そうですね。選手も、ギャラリーも、スポンサーも、みんながハッピーでいられるような仕組みを作っているのがLIVなのかなとも感じています。
――LIVを観戦するならここに注目してほしい、というポイントは。
音楽がガンガン鳴っているイベント感は、現地で見ないとあの雰囲気までは伝わらないかもしれませんが、楽しめると思います。今までのゴルフの試合は、見るほうにとってもハードルが高かったじゃないですか。帰国して日本ツアーでプレーしてみて感じたことですが、静かな場所だとビニール袋の音ひとつでも気になるんですよ。ですが、LIVは全ホールで常に音楽が鳴っているので、ビニール袋の音なんて気にならないんです。子どもを連れての観戦も気を使わないので、親子で見に来ても楽しめるのがLIVのいいところだと思います。
【日本チーム設立の噂も?】
――チーム戦の導入もLIVの特長ですよね。
僕たち選手同士は、技術面もアドバイスし合ったりするので、そういうところから吸収できることも多いです。見る側の人たちにとっても、自分の国の選手がいるチームを応援したり、お気に入りのチームのグッズを買って応援したり、そういう楽しみ方があると思います。オーストラリアで開催された時は、キャメロン・スミスが所属するオーストラリアチームへの人気がすごかったですね。
|
|
――日本チーム設立の噂もあるそうですが。
ゆくゆくは日本チームを作りたいとLIVも考えているように思います。
日本での試合開催に向けても動いていると思うので、それに向けて日本チームを作って、というのがLIVの考えとしてあるんじゃないでしょうか。
――アメリカ、アジア、中東など世界を回る、まさしくワールドツアーですが、何か困ることはありますか?
本当に世界中のいろいろなコースに行くので、芝も違ったり、気候も違ったりで、まあ、大変です(笑)。最初はクラブも日本で使っていたままのセットをひとつ使っていたんですが、芝の硬さ次第でコンディションの差が出てくるので、今は常に2セットを持って行って、コースに応じてクラブを替えています。
それと、困ったということではないのですが、今年は特にシンガポールが暑かったので、それはこたえましたね。
――その分、ホテルが良かったとか。
シンガポールのホテルは良かったですね。すごく高級な部屋をとってもらえたんですよ。そういった面では助かりました。
――飲食はどうですか? 香妻プロはお酒もお好きらしいですが、例えば中東シリーズの時はお酒が飲めなくてきつかった、などは。
試合の期間中は日本にいる時も飲まないので、1〜2週間なら飲まなくても大丈夫です。ずっとそこにいるとなると、さすがにきついですけどね(笑)。
それより、僕は日本食が好きなので、朝食で毎回、パンに卵にベーコンだとさすがにしんどいんです。日本からパックのご飯と、(契約スポンサーの)マルハニチロさんからいただく缶詰を持っていくんですが、大好きな「さんまのかば焼き」の缶詰を食べていたら、外国人選手から「なんだソレ!」と衝撃を受けられました。缶詰を食べる習慣がないみたいで、「キャットフードを食べているのか」と誤解されていました。「いや、これ魚だから」って言うと、「やっぱり、キャットフードじゃねえか」って(笑)。
【トランプさんならやってくれるんじゃないか】
――今年のLIV5戦目は、次期アメリカ大統領のトランプ氏が所有する「トランプナショナル・ドラール」開催でしたね。トランプ氏が直々に寄ってきて話をされたとか。
パッティンググリーンで練習をしていたら、トランプさんがいらっしゃって「日本人だろ、知っているよ」って言っていただいて、「ああ、僕のことを認識してもらっているんだ」と。せっかくなので写真を撮って欲しくて、お願いしたら気さくに応じてくださいました。
2年前にはじめてトランプさんをお見かけした時も、ゴルフ場のレストランで普通に食事をされていて、通りがかりに声をかけてくださったので、たぶん、日本人のことは良く思ってくれているんだろうな、とは感じています。
――トランプ氏は「LIVとPGAの合意を15分でまとめられる」と発言されていましたね。
トランプさんは行動力もありますし、人気もある人なので、僕は政治的なことはわからないですけど、やってくれるんじゃないか、と期待はしています。トランプさんのコースは、LIV発足当初から試合が開催されていますし、LIVに対してもすごくいい印象を持たれているみたいなので。
【メジャーには伝統という魅力がある】
――来季もLIVの『アイアンヘッズGC』の一員としてプレーが決まりました。もしチームからオファーがなかったら、日本ツアーに復帰されていましたか?
LIVはアジアンツアーと提携していて、アジアンツアーも来年から規模が大きくなるという話もあるので、アジアンツアーと日本ツアーの両方に出られたらいいな、と考えていました。アジアンツアーでトップになったら、LIVの出場権を得られるので、そこを目指そうかなと思っていましたが、チームに残れることになったので、本当に良かったです。
――最後に、プロゴルファーとしての今後の目標を教えてください。
今、LIVとUSPGAはメジャーでしか交わらないじゃないですか。LIVの選手がメジャー競技に出場している姿を見て、自分もLIVの選手としてメジャーに出て、LIVの代表じゃないですけど、そこで活躍したいですね。メジャーには伝統という魅力があります。それに対してLIVという新しいツアーができて、メジャーという場でそのふたつが交わって、その場に自分も加わりたい。そして、日本でのLIV開催に向けて、日本チームを作るくらいのところまでいけたらいいなと考えています。
2025年のLIVゴルフ初戦は、2月6日にサウジアラビアの「リヤドGC」で開催が予定されている。香妻陣一朗の来季の活躍に注目だ。
【Profile】香妻陣一朗(こうづま・じんいちろう)/1994年7月7日生まれ。宮崎県出身。
父の影響で2歳からクラブを握り、横峯さくらプロの父・良郎氏に師事。2012年にプロ転向し、同年に初シードも獲得。20年の「三井住友VISA太平洋マスターズ」でツアー初優勝。LIV参戦中の24年には、「Sansan KBCオーガスタ」で日本ツアー通算3勝目をあげた。23年12月にはLIVゴルフ予選会を2位で通過し、24年シーズンの出場権を獲得。『アイアンヘッズGC』の一員として、日本人では初となるLIVゴルフにシーズンフル参戦を果たした。今季のLIVゴルフでの賞金ランキングは45位。実姉・琴乃もプロゴルファー(JLPGA1勝)。