今国会の最大の焦点は、いわゆる「年収の壁」の見直しに加え、「政治とカネ」の問題にほかならない。企業・団体献金の存廃を巡っては与野党の主張に大きな隔たりがあり、早期の結論は得られにくいが、調査研究広報滞在費(旧文書通信交通滞在費)については、使途の公開と残金返納を義務付けることで各党がおおむね合意した。
文書通信交通滞在費(文通費)は1993年に増額され、すべての国会議員に月額100万円支給されてきた。本来は政治活動の“必要経費”の性格を帯びるものだが、国会議員の給与に当たる歳費と同じ日に支給され、使途の公開義務もないため、「第二の給与」「もう一つの財布」などと称されてきた。
「歳費は家計に、文通費は自分の懐に」(自民元議員)入れてきた議員も珍しくないという。月額100万円もの“ポケットマネー”があればかなりのぜいたくができるだろうし、蓄財に回せば、少なからぬ金額がたまるはずだ。まとまった金額を自らの政治団体に寄付をして、ちゃっかり所得税控除を受けた議員もいた。
一方、資金繰りの厳しい議員にとっては、「選挙区と東京との二重生活を支える貴重な収入」(自民若手)である場合もある。もしも旧文通費の使途が厳格化され、真に事務所経費にしか使えなくなれば「死活問題だ」(野党若手)という。税金や社会保険料はもとより、さまざまな会費も天引きされるため、月額約130万円(額面)の歳費だけでは苦しいわけだ。
旧文通費の原資が税金である以上、使途を公開し、透明化することは当然だろう。やや性格は異なるが、多くの地方議会では既に政務活動費の使途をかなりガラス張りにしている。歳費が少ないと思えば、旧文通費を「第2の給与」とするのではなく、国民の批判を恐れず、額の引き上げを堂々と提起すべきである。
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だが、透明化だけでいいのかどうかは議論が分かれる。たとえ2022年に「文通費」が「調査研究広報滞在費」に費目変更されても、さらに「日割り計算」が導入されても、この疑問は残る。
旧文通費関連の規定に登場してきたのは、「調査研究」や「文書」「交通」「滞在」「通信」といった文言だ。いずれも政治活動にとって重要であることは論をまたない。現行の国会法では調査研究広報滞在費の目的として「国政に関する調査研究、広報、国民との交流、滞在等の議員活動を行うため」(第38条)と定めている。
しかし、例えば旧文通費の中の調査研究費と似たものとして、国会議員が立法調査研究活動を行うための立法事務費がある。これは議員1人当たり月額65万円の計算で、各会派に支給されているものだ。通常、政党・会派では事務費に充てられている。それに対し、議員立法が極めて少ないわが国で、議員個人に支給される調査研究費として、書籍費以外にどのようなものがあるのか想像しにくい。
政治活動において一定のコピー代や郵便代が必要なことも否めない。しかし、情報通信技術(ICT)の時代である。省庁や政党、議員間の資料のやり取りも、多くはデジタル化されている。支持者への資料送付もSNSによるものが多い。「早いし安い」(自民中堅)からだ。電話だって、議員会館から東京23区内であれば無料でかけられるし、そもそも今や固定電話よりも携帯電話が主流になっている。
交通費についても、いささかの異論がある。国会議員には“特権”として、JR無料パスや東京・選挙区間の航空券引換証が支給されている。視察や遊説などの場合、国や党から旅費が支給されることが一般的だ。そのためか、現行の規定には「交通」の文字が見当たらないが、概念としてはまだ残っている。百歩譲れば、ガソリン代や高速料金は必要かもしれない。
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視察や遊説の際の宿泊費も通常は支給されるため、本来は旧文通費に含まれなくてもいいはずだ。地方選出の議員が東京で滞在するため場所として議員宿舎が提供され、衆院赤坂宿舎の家賃が3LDKで激安の約13万円になっているなど、既にかなりの補助がなされている。永田町の通勤圏に自宅がある議員は、そもそも滞在費は不要だろう。もちろん、“密会”でホテルを使う場合などは、自己負担の滞在費が必要となる。
誤解のないように記すならば、政治活動の“必要経費”として、一定額の旧文通費は必要だ。だが、単に使途を公開するだけでは、昨今の政治不信は払拭されない。この際、使途を厳しく限定し、多少なりとも月額100万円を引き下げる議論が必要ではないか。単に透明化を図るだけならば、「使い切り」が横行することは目に見えている。
【筆者略歴】
本田雅俊(ほんだ・まさとし) 政治行政アナリスト・金城大学客員教授。1967年富山県生まれ。内閣官房副長官秘書などを経て、慶大院修了(法学博士)。武蔵野女子大助教授、米ジョージタウン大客員准教授、政策研究大学院大准教授などを経て現職。主な著書に「総理の辞め方」「元総理の晩節」「現代日本の政治と行政」など。
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