錦織圭の2024年 肩・ひざ・足首の痛みを乗り越え完全復活への兆し「来年に向けていい準備ができた」

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2024年12月11日 07:31  webスポルティーバ

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 錦織圭が、走り、舞い、笑い、ずっこけた──。

 12月8日に開催された「ドリームテニスARIAKE」は、能登半島地震の復興支援のチャリティイベント。日本のトッププレーヤーたちが世代も種目も越えて集結し、趣向を凝らしたエキシビションマッチの数々で1万人の観客を大いに沸かせた。

 なかでも、試合に、トークに、そしてチームキャプテンとして振るう采配にと、八面六臂(はちめんろっぴ)の活躍を見せたのが錦織圭。魅せるプレーでファンを沸かせ、後輩たちに気配りしつつ、自然体のトークで笑い誘う。そんな華やかな姿には、瑞々しさと成熟をブレンドした風味があった。

 錦織の2024年は、我慢の末に完全復活の手応えを掴むプロセスだった。

 3月のマイアミオープンで8カ月ぶりのツアー復帰を果たすも、直後に肩に痛みを覚え、再び休養を余儀なくされる。5月の全仏オープンは、前哨戦出場なしのぶっつけ本番だった。

 本人も「いきなりグランドスラムに出るのは、ハイリスクな気はしています」と不安をにじませるも、「自分のために証明できる場にもなる」と明言。はたして初戦で錦織は、伸び盛りの長身選手(203cm)、ガブリエル・ディアロ(カナダ)相手にフルセットの死闘を制する。2回戦は肩に痛みが出て棄権するも、求めていた「ハイリターン」の一端を握りしめ、全仏会場をあとにした。

 その後は、ウインブルドン直前で足首を捻挫。フィジカル的にも、テニス的にも厳しい時期が続いたという。

 それでも、自分のなかに点在するパーツや歯車が噛み合う日の訪れを信じ、夏以降の彼はコートに立ち続けた。8月のカナダマスターズで世界12位のステファノス・チチパス(ギリシャ)に快勝したのは、自分を信じる大きな根拠になる。

 そして9月末、6年ぶりに出場したジャパンオープンにて、彼は全盛期を彷彿させるプレーを満員の有明コロシアムのファンに示した。初戦では前週にATPツアー優勝を果たしたばかりのマリン・チリッチ(クロアチア)に勝利。ライバルとの熱闘でかつての自分を思い出したか、2回戦では29位のジョーダン・トンプソン(オーストラリア)に6-2、6-3で快勝する。

「若干、イメージを超えてきた。『これが入るんだ?』みたいなショットが、けっこうあった」と自分で自分に驚く錦織は、「やっぱ、これが自分なんだなって。やっぱり潜在能力はまだあって、それが急に出るタイミングが今日だったんだなって」と朴訥に口にした。

 それは控え目な彼の、復活宣言だったかもしれない。

【6年間中断していたイベントを再開】

 シーズン終盤の錦織は、主催者推薦枠を得てウイーンのATPツアーに参戦。ウイーン後は「ATP250の予選1大会に出るか、ATPチャレンジャー2大会に出るかというところで、チャレンジャーを選んだ」という。「頑張ったら(11月開催の)日本の大会にも出られたけど、体のこともあるので無理しない」ことを選択した。

 結果的に錦織は、ヘルシンキのチャレンジャー大会で5つの白星を連ねて優勝。ランキングを105位に上げた時点で、今季の日程を終了した。

 振れ幅の激しかった2024年を振り返り、錦織は「大変な1年ではありましたけど」と切り出し、続ける。

「終わりはまあまあの結果も出て、やっと100位に戻ってきて、なんとなくまたスタート地点に立ったな、という思いはあります。前半はけっこう大変で......ひざもあり、肩もあり、いろんなケガもありましたし。なんとかゼロに戻ってきたかな、というのはあるんで、プレーも悪くないですし、来年に向けていい準備ができたかなと思っています」

 ドリームテニスARIAKEで聞く「スタート地点に立ったな」という錦織の感慨は、このイベントの始点を思い返した時、一層、趣き深く響く。

 同イベントが最初に開催されたのは2011年。東日本大震災の被災地に足を運び、その惨状に衝撃を受けた錦織の呼びかけで発足した復興チャリティイベントである。

 その初回大会にスペシャルゲストとして招かれ、錦織とエキシビションマッチを行なったのが、1989年全仏オープン優勝者のマイケル・チャンだった。これが縁でチャン家と錦織家に親交が生まれ、2013年末にチャンが錦織のコーチに就任。翌2014年全米オープン決勝進出に象徴される大躍進の端緒には『ドリームテニス』があった。

 コロナ禍などもあり6年間中断していたこのイベントを、自身の復活のシーズンに再開できた意義についても、錦織は次のように語る。

「今回、収益を本当に全部ぶち込むという形でいかせてもらっているので。選手たちも、これだけみんな忙しいなか、チャリティの思いで来てくれて本当にありがたいです。

 僕もこの前、フロリダの家を台風でけっこうやられたので、こんなに大変なんだなというのは身に染みて感じました。泥水が家に入ってきて大変だったり。最近、自然災害が増えてきているのはどうしようもないですけど、こういうところで助け合えたらいいなと思います」

【テニス界全体を俯瞰する視線と見識】

 思えば2011年から今日まで、錦織は多くを経験し、変わるものと変わらぬものを積み重ねてきた。ひじと股関節にメスを入れ、手首の腱脱臼という選手生命を脅かしかねないケガも克服した。選手としては若手からベテランになり、私生活では結婚し、父になった。

 2011年時には、エキシビションの本気度とエンターテインメント性のバランスに苦心したが、今回は魅せる妙技を次々披露。時にはおどけ、ガチのミスには腰砕けでパタリと倒れ、客席を大いに笑わせもした。若手を適度に"いじり"つつも、「この中で唯一YouTubeチャンネルを持っている内田海智は、毎日更新しているのに、誰も知らなくて」と、さりげなくチャンネル宣伝する気配り。

「いい選手は、やっぱり日本にはいる。(望月)慎太郎が伸び悩んでますけど、才能のある選手ですし、最近は坂本(怜)くんが結果を出し始めている。今回参加した女性ふたり(石井さやかと小池愛菜)はフロリダでよく見てますけど、うまくなったなというのは今日見て感じました。車いすは昔から(国枝)慎吾さんがいて、今日のふたり(上地結衣と小田凱人)が出てきて、車いすに関しては頼もしさすら感じています」

 すらすらと紡がれるその言葉にも、テニス界全体を俯瞰する視線と見識が映し出された。

 再び「ゼロに戻った」という錦織だが、もちろん選手としても、人としても、以前と同じ彼ではない。酸いも甘いも経て再び走り出す2025年の戦いは、踏破してきた月日を映し、間違いなく深みを増す。

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